第二百八話 高橋悠里は転送の間でサポートAIから『アルカディアオンライン・プロジェクト』が古米、古々米の販売を終えたことを知らされる



「ええと、サポートAIさんに次に聞いたのは……」


「『『アルカディアオンライン・プロジェクト』からのお知らせがあります。お伝えしても宜しいですか?』と申しました」


「あっ。そうそう。そうでした。お知らせを聞きます。教えてください」


「『アルカディアオンライン・プロジェクト』からのお知らせです。『アルカディアオンライン』ではゲーム制作スタッフが『この味をゲーム内で使いたい』と思った食品・菓子の製造メーカーや、野菜・果物農家等に『テイスト使用契約』の締結をお願いしています。今回は『テイスト使用契約』を締結した米農家複数から『アルカディアオンライン・プロジェクト』が古米、古々米を買い取りプレイヤーに安価で販売致しました」


「致しました!?」


なぜ過去形なのか!?

悠里はサポートAIのアナウンスに思わず突っ込んだ。


「本日の0時より、古米、古々米の販売を開始したのですが、開始10分で完売いたしましたのでお知らせ致します」


「もう完売したの!? お米を買えないのになんで私にお知らせしたんですか!?」


「『アルカディアオンライン』のすべてのプレイヤーに『アルカディアオンライン・プロジェクト』が古米、古々米の販売を行ったことを伝えるように設定されております」


「サポートAIさんも大変なんですね……」


考えてみればサポートAIは休むことも眠ることもなく『アルカディアオンライン』を円滑に進めるために働き続けているのだ。

24時間働き、それが365日続く。なんというブラックな労働環境だろうか。


「お気遣いをありがとうございます」


悠里はサポートAIのために、もう少しきちんと『アルカディアオンライン・プロジェクト』が行った古米、古々米の販売について聞いてみることにした。


「『アルカディアオンライン・プロジェクト』はなんで古米、古々米の販売をしようと思ったんですか?」


「コロナ禍で外食産業からの米の注文が激減したため、米農家の倉庫に米が大量に余ってしまっているという事態を『アルカディアオンライン』のゲーム制作スタッフが知り、なんとかしたいと『アルカディアオンライン・プロジェクト』に掛け合った結果、今回の米販売につながりました」


「そうなんだ。お米って今、余ってしまっているんですね……」


「米農家は今、新米の収穫に向かって邁進しているところなのに、精魂込めて作った昨年より前の米が倉庫に残っているのは絶対にダメだと、そのゲーム制作スタッフは熱く語ったようです」


「そうですよね。私もそう思います。えっと、古米、古々米の価格っていくらだったんですか?」


「『アルカディアオンライン・プロジェクト』は米農家から古米を5キロで4000円(税別)/古々米を5キロで2000円(税別)で買い取り、プレイヤーには古米を5キロで1000円(税込み・送料込み)/古々米を5キロで500円(税込み・送料込み)で販売しました」


「嘘でしょっ!? なんで高値で買って安値で売ったの……っ!?」


「赤字の出血大サービスです。その代わり、プレイヤーひとりにつき古米5キロの袋を一袋/古々米5キロの袋を一袋のみ購入可、発送日未定、置き配にて対応と致しました」


「赤字覚悟とかじゃなくて赤字だよね。本当……。それなのに税込みで送料も込みの販売価格で大丈夫なの……?」


「大丈夫です。問題ありません。日本全国一律送料無料にしてほしいというのは島しょ部出身のゲーム制作スタッフからの強い希望で実現しました」


「島しょ部って離島とかそういうところっていうこと?」


「左様です。そのゲーム制作スタッフは『配送料無料(※但し一部地域は除く)』という文言をこの世から消し去りたいと言っていたようです」


「あー。ネット通販のサイトでそんな感じの注意書きを見たことがある気がする……」


サポートAIの説明を聞いて、プレイヤーが相当にお得な条件で米を買えたということがわかった。


「お知らせはお米の販売が終了したっていうので終わりですか?」


「はい。他にお知らせすることは、現在はありません」


「えっと、じゃあ、今日の分の換金をしてもいいですか? 1000円を換金したいです」


「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に1000円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は6582601リズです」


「ありがとうございますっ。じゃあ、私、リアルに戻りますね」


「高橋悠里様。お疲れさまでした」


「サポートAIさんもお疲れさまでした。ログアウト」


悠里の意識は暗転した。


悠里は自室のベッドの上で目を開けた。

無事にログアウトできたようだ。

悠里はヘッドギアを外して起き上がり、ヘッドギアとゲーム機の電源を切る。


「さっきまで充電してたから、まだ充電しなくてもいいよね」


悠里はヘッドギアとゲーム機をつないでいたコードを外して、ヘッドギアとゲーム機、コードをゲーム機器が入っていた段ボール箱にしまった。

それから、眠くなるまで中間テストの勉強をして、眠くなった頃に勉強をやめて教科書とノート等を片づけ、部屋の電気を消して就寝した。


***


高橋悠里の5月9日の換金額 1000円


高橋悠里の貯金額 3600円→4600円


マリー・エドワーズの現在の所持金 6582601リズ



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