第二百五話 高橋悠里は憧れの先輩と幼なじみの彼女からのメッセージを確認する
悠里は机の上に置いていたスマホを手にする。
時間は夜中の1時過ぎだ。もう、日曜日だ。
日付が変わって5月9日になったので『アルカディアオンライン』をプレイすることができるけれど、夢中になってゲームで遊んでしまったらログイン制限時間に引っかかって、吹奏楽部の先輩の要や幼なじみの晴菜と一緒に遊べなくなってしまうかもしれない。
ひとりでゲームを楽しむのもいいけれど、悠里はできれば要や晴菜と遊びたかった。
特に晴菜は昨日、悠里をゲームに誘ってくれたのに一緒に遊ぶと返事ができなかったので、今日は悠里から一緒に遊ぼうと誘いたい。
「メッセージが来てる」
要と晴菜からメッセージが来ている。
悠里はマリーの固有クエスト『権利書を買い戻せ!!』のことが気になったので要のメッセージから確認することにした。
♦
無事にログアウトできたみたいでよかった。
マリーちゃんと真珠くんは領主館に連れて帰ったよ。マリーちゃんの家族にはマリーちゃんと真珠くんは領主館にいるって知らせを出しておいたから心配しないで。
マリーちゃんが強制ログアウトした後、フレデリックお兄様が、のらりくらりと言い逃れをしようとするウォーレン商会の会頭に領主の命令書を突きつけて、ウォーレン商会の会頭を鑑定したよ。
それで、ウォーレン商会の会頭が詐欺を働いていたことが立証された。
『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書は取り戻しておいたよ。俺が預かって、アイテムボックスに保管している。
フレデリックお兄様は少しでも早く『銀のうさぎ亭』に土地と建物の権利書を届けた方がいいと言っていたんだけど、俺はマリーちゃんの手でマリーちゃんのために土地と建物の権利書を手放したお祖父さんに返してあげてほしいと思ったから……。
だから、明日、ゲーム内で会えないかな?
俺は明日いちにち予定がないから、高橋さんの都合に合わせられるよ。よかったら連絡をください。待ってるね。
♦
「『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書、取り戻してくれたんだ……」
それに、ウォーレン商会の会頭が詐欺を働いていたことが立証されたという要の言葉は悠里の心を晴れやかにする。
『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を返して事をうやむやにしようとしていたウォーレン商会の会頭を逃さず、詐欺行為を立証してくれたことがすごく嬉しい。
それに、また要とゲームで遊べるのはすごく嬉しい。
「明日、何時に約束しよう……?」
悠里は考えた末に朝の10:00にゲーム内で落ち合いたいと要に伝えることにした。
10:00なら、要が昨夜ゲームを長くプレイして夜更かしをしたとしても、十分に眠れると思ったのだ。
11:00だと、すぐにお昼ご飯の時間になってしまって、悠里は家族の誰かの手によって強制ログアウトさせられてしまうだろう。
悠里は考えながら、要へのメッセージを記載する。
♦
藤ヶ谷先輩。『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を取り戻していただいて、本当にありがとうございます……っ!!
ウォーレン商会の会頭を逃さず、詐欺行為を立証してくれたことも、本当にありがとうございます。すごく嬉しいです。
私もマリーの手で『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書をマリーのお祖父ちゃんに返してあげたかったので、先輩がアイテムボックスに預かってくれていてよかったです。
強制ログアウトで迷惑をかけてしまったのに、いろいろ本当にありがとうございます。
私も、先輩のクエスト等で何か手伝えることがあったら頑張りますね。
ゲームで会うのは5月9日の10:00はどうでしょうか?
都合が悪ければメッセージをお願いします。
先輩とゲームで遊ぶのを楽しみにしています。
♦
悠里は自分が書いたメッセージを二度読み返して確認した後、送信した。
次は晴菜からのメッセージを確認しよう。
悠里は晴菜からのメッセージを読み、目を丸くした。
「えっ!?」
落ち着いて。落ち着いて、もう一回読もう。
悠里はもう一度、晴菜からのメッセージに目を通す。
♦
悠里!! 聞いてよ!!
課金して、港町アヴィラにあるお金持ちの商会の跡取り息子キャラを主人公に選んだんだけど、ゲームを始めて金目の物を片っ端からアイテムボックスにしまっていたら使用人みたいな人にめっちゃ止められて!!
小太りで汚い顔の父親はヤな感じで説教してあたしのことを部屋に閉じ込めたんだよ!! 最悪!!
ムカついたからログアウトしたよ。武器があればムカつくNPCを倒せるのになあ。
部屋に閉じ込められて出られなくなったことをお兄ちゃんに愚痴ったら「スキルポイントをMPに振って魔力枯渇で教会に死に戻れば?」って言われたからそうするつもり。
明日、朝ご飯を食べたらログインするつもりだけど、悠里は何時くらいにゲームする予定?
時間が合えば遊ぼうね。
♦
「金持ちの商会の跡取り息子……。はるちゃん、もしかしてウォーレン商会の会頭の息子を主人公キャラに選んだとか……?」
晴菜は推している『九星堂書店』が『アルカディアオンライン』に進出すると知ってゲームをプレイすることを決めた。
そしてゲーム内で『九星堂書店』を金銭的に支援できるように主人公選択時に課金をして『港町アヴィラにあるお金持ちの商会の跡取り息子キャラ』を選んだのだろう。
「だけどもしはるちゃんがウォーレン商会の会頭の息子だったら、お父さんが詐欺で捕まっちゃうことになるの……?」
悠里がひとりで考えていても答えはわからない。
とりあえず、晴菜に主人公キャラの名前を尋ねて、悠里の主人公の名前と容姿を伝えよう。テイムモンスターの真珠のことも忘れずに記載しなければいけない。
悠里はゲームで初めてクレムと初めて出会った時に、話に夢中になって真珠のことを忘れてしまった苦い記憶を思い返す。
もう二度と、真珠を悲しませることはしない。
「先輩とゲーム内で会う約束をしていることも伝えて、先輩にはるちゃんも一緒に遊びたいってお願いすることも伝えよう。でもはるちゃんとはフレンド登録してないからゲーム内でメッセージのやりとりとかできないんだよね……」
『アルカディアオンライン』でフレンド登録をするためにはお互いの主人公キャラがゲーム内で会う必要がある。
悠里の主人公マリー・エドワーズが初めてゲーム内でフレンド登録したのは晴菜の兄である圭の主人公キャラのウェインだ。
ゲームの先輩プレイヤーであるウェインがマリーを『銀のうさぎ亭』まで迎えに来てくれたから、マリーはウェインとフレンド登録をすることができた。
「はるちゃんよりは私の方が『アルカディアオンライン』では先輩なんだから、マリーが真珠と一緒にはるちゃんの主人公を迎えに行ってあげたいなあ」
悠里は伝えたいことを書き連ね、晴菜へのメッセージは長文になった。
晴菜は長文メッセージに引くかもしれないが、悠里に後悔はない。
「送信っ」
悠里は晴菜へのメッセージを送信した。
***
若葉月23日 昼(4時25分)=5月9日 1:25
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます