第百六十二話 マリー・エドワーズと真珠は馬車に乗る
扉が開いて、侍女長とナナが部屋に入ってくる。
マリーと真珠は光るビー玉を転がす遊びをやめ、マリーは光るビー玉を腕輪に触れさせてアイテムボックスに収納した。
ナナは光るビー玉が突然消えたことに驚いて目を丸くしたが、侍女長の表情は動かない。
「マリーさん。家に帰るということですが、少し待ってくれませんか? フレデリック様とレイチェル様がマリーさんと……真珠も一緒に食事をしたいと仰っていたので」
侍女長はマリーの次に自分の名前が呼ばれるとわくわくしながら目を輝かせている真珠を見つめて苦笑しながら、言う。
「どれくらい待てばいいですか? 5分ですか? 10分ですか?」
マリーの問いかけに、侍女長は懐中時計を取り出して確認する。
そして、口を開いた。
「あと30分ほどでお二人とも起床されるでしょう。それから身支度等をなさるので、そうですね、50分ほど待ってもらえますか?」
「無理です!!」
マリーは即答した。
手鏡を貰えるかもしれないし、お世話になったレーン卿と彼の母親に挨拶ができるのであれば5分から10分程度なら真珠と遊びながら待ったかもしれないが、50分は無理だ。
マリーは借金返済のために金策を頑張らなければいけないので、時間が惜しかった。
今は金曜日の夜でリアルの母親か祖母に見つからなければ、夜中の12時を過ぎて6時間ぶっ通しでゲームをプレイできるかもしれないのでプレイ時間はあると言えるかもしれないが、寝ているNPCを待つという無為なことはしたくない。
「マリーさんと真珠さんはまだ小さいので、ご家族に会いたくなってしまったのでは……?」
ナナが侍女長にそう言ってくれたので、マリーは何度も首を縦に振る。
真珠はマリーの様子を見て、自分も首を縦に振った。
侍女長は首を縦に振り続けるマリーと真珠の様子を見て、ため息を吐く。
「わかりました。では、馬車の手配をしましょう。ナナ。お願いします」
「わかりましたっ」
ナナは侍女長に一礼して、部屋を出て行く。
「あの子は……わたくしではなく、マリーさんと真珠に一礼すべきところなのに」
侍女長はナナが出て行った扉を見つめて、呆れたように呟き、それからマリーと真珠に視線を向けた。
「マリーさん。忘れ物はないですか?」
「はいっ。ブーツは履いたし、ワンピースは着たし、木靴はしまいましたっ。リボンはナナさんにつけてもらいましたっ」
「わんっ」
「マリーさんも真珠も、忘れ物はないようですね。では、部屋を出ましょう」
侍女長に先導され、マリーと真珠は部屋を出た。
長い廊下を歩いて、領主館の玄関を出る。
玄関前には馬車が停まっていた。領主が使うには簡素な装飾のような気がする。
お忍び用の馬車かもしれないとマリーは思った。
御者とナナがマリーたちを迎える。
マリーと真珠は侍女長とナナに頭を下げて礼を言い、御者に挨拶をした。
「後日、必ず領主館を訪れるように。いいですね?」
侍女長にそう言われて、マリーと真珠は肯く。
侍女長が御者に視線を向けて小さく肯くと、御者は馬車の扉を開けた。
「私と真珠、馬車に乗ってもいいんですよね?」
「はい。どうぞお乗りください」
問いかけたマリーに、笑顔で御者は肯く。
「ありがとうございます」
「わぅわううわううわ」
マリーと真珠は御者にお礼を言い、そしてマリーは真珠を抱っこして馬車に乗せた。
真珠は自分で馬車内の座席に飛び乗る。
「お嬢様。お手をどうぞ」
御者に手を差し伸べられたマリーは、ワンピースの裾をつまんで一礼した後、彼の手を借りて馬車に乗る。
今、すごく淑女っぽかった!! きっとマリーのスキル『淑女の嗜み』の経験値が上がったことだろう。
マリーと真珠が馬車に乗ったことを確認した御者は、馬車の扉を閉めた。
そして御者は御者席に座り、馬に軽く鞭を入れた。馬車が動き出す。
マリーと真珠は馬車の窓から外を見て、歓声をあげた。
***
若葉月19日 早朝(1時45分)=5月7日 22:45
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