第百五十九話 マリー・エドワーズは再び天蓋付きのベッドで目覚める



目を開けると天蓋があった。……マリーはレーン卿が子どもの頃に使っていたというベッドに横たわっているのだと気づく。


「わうー」


マリーの隣から声がする。真珠だ。


「真珠。おはよう」


「わうー。くぅん」


真珠はマリーにすり寄り、マリーは真珠の白い毛並みを優しく撫でた。

今回は、どうやら真珠も一緒にベッドで眠らせてもらえたようだ。

部屋の窓のカーテンが閉められているせいか、部屋の中は薄暗い。

今、何時だろう……?

マリーはベッドから起き上がり、部屋の中を見回す。


「そうだ。『ライト』を使おう。スキルのレベル上げにもなるし……」


今は人の気配がしないし、たとえ誰か来たとしても光の魔法なら怒られることはないだろうと思いながら、マリーは口を開いた。


「魔力操作ON。ライトON」


マリーの手のひらの上に小さくて淡い光の玉が出現した。

光の玉が薄暗い部屋を照らす。

マリーは光の玉を動かしながら、部屋を見渡した。

部屋の中にはマリーと真珠だけしかいない。

マリーは以前、侍女長がもってきてくれた夜着と似ているものに着替えさせられているようだ。


「とりあえず、カーテンを開けよう」


部屋の中が明るくなれば『ライト』の明かりは必要なくなる。

マリーはベッドを下りて、ベッドサイドに置いてあったマリーの木靴を履く。

木靴の隣には『疾風のブーツ』もあったが、今はリボンをつけていないし、簡単に履ける木靴を履いた方がいい。

真珠もベッドを下りて、窓辺に向かったマリーの後に付き従う。


レーン卿が子どもの頃に使っていた部屋の窓辺のカーテンにはマリーでも手が届く。

この部屋は幼いレーン卿が安全で快適に過ごせるように設計されているようだ。

貴人であるレーン卿には使用人が付き従うし、使用人を呼び出すベルもあるようだけれど、それでも子ども用の椅子に、角が丸い家具と子どもでも手が届くクローゼットや本棚を見ると、使用人任せではなく、子ども自身が自立心を持って過ごすことができるようにという意図があるようだとマリーは思う。


カーテンを開けると、外は薄明るい。

『ライト』の光がなくてもなんとか視界は確保できそうだが、あった方が便利だ。

『ライト』の光が消えないうちに、着替えてしまおう。

きっと、マリーが着ていた服はクローゼットにしまっているはずだ。

マリーと真珠が窓辺からクローゼットの前に移動したその時、静かに扉が開いた。

入ってきたのは、黒髪で黒い目のメイド服を着た少女だ。確か、名前はナナだったと思う。

マリーは可愛い笑顔を浮かべて、ナナに挨拶をした。真珠もきちんと挨拶をする。


「おはようございます。マリーさん、真珠さん」


ナナは笑顔でマリーと真珠に挨拶を返して、部屋の明かりをつけた。

明かりのスイッチはマリーでも手が届くところにあったことに今更気づく。

部屋が十分明るいので、もう『ライト』は必要ない。


「魔力操作OFF」


マリーがそう言うと、光の玉は消失した。


「マリーさんは『ライト』が使えるんですね。すごいです」


ナナはそう言いながら、クローゼットからマリーが着ていたワンピースを出した。

マリーはひとりで夜着を脱いでそれをナナに渡し、ナナからワンピースを受け取って着る。


「マリーさん。椅子に座ってください。私が髪を梳いて、リボンをつけますので」


「はいっ。ありがとうございますっ」


貰ったレースのリボンがどこにあるのか気がかりだったマリーは、ナナの言葉にほっとして笑顔になる。

マリーはテーブルにある子ども用に椅子に座り、真珠に両手を差し伸べた。

真珠はジャンプしてマリーの膝の上に乗る。

ナナはマリーの後ろに回り込み、マリーの髪をブラシで梳かし始めた。


***


若葉月19日 早朝(1時09分)=5月7日 22:09



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