第百四十五話 マリー・エドワーズは意識を失い、高橋悠里は強制ログアウトをする

マリーの『聖人の証』を鑑定していたレーン卿が小さく肯いて、口を開いたその時、サポートAIの声が響く。


「プレイヤーの身体に強い揺れを感知しました。強制ログアウトを実行します」


嘘でしょ!? ここで……っ!?

そう思った直後、マリーの意識は暗転した。


悠里が目を開けると、祖父と祖母の顔が目の前にあった。


「よかった。目が覚めたのね」


悠里と目が合った祖母はほっとしたように微笑む。


「心配するなと言っただろう。悠里は身体を揺すれば起きる」


祖父は祖母にそう言って、悠里の部屋を出て行った。


「もう晩ご飯の時間?」


悠里は祖母に問いながら、ベッドから起き上がった。


「そうよ。今日はいくらとほぐしシャケの丼と豚汁、豆苗のあえものよ」


「豆苗って、一回目の収穫の?」


「そうよ」


「じゃあ食べる」


悠里はそう言いながら、ヘッドギアを外して電源を切る。

それからゲーム機の電源を切った。

そして、祖母と二人でダイニングに向かう。


ダイニングでは悠里と祖母、それから父親以外の家族が揃って座っていて、すでに食べ始めている。

悠里と祖母はそれぞれの席に座り、挨拶をして食べ始めた。

いくらとほぐしシャケの丼をスプーンでどんどん食べ進め、豆苗のあえものを食べながら豚汁をすする。

味わいながらも早く食べ終えて、ゲームを再開したい。

一番遅く席についたのに、家族の誰よりも早く食事を終えた悠里は、母親と祖母の小言を食らう前に逃げ出そうと自分が食べ終えた食器を重ねて立ち上がる。


「ごちそうさまでしたっ」


なにか言いたそうな顔をした母親と祖母を振り切り食器を持って、悠里はキッチンに向かった。


キッチンで汚れた食器を洗い、洗面所で歯を磨いた後にトイレに入る。

ささっとシャワーを浴びるか迷ったけれど、ゲームのプレイを優先することにした。

明日は土曜日。授業も部活も休みだ。夜更かししても怒られない……わけではないけれど、大丈夫。たぶん。


自室に戻った悠里はコードをつなぎっぱなしにしていたゲーム機とヘッドギアの電源を入れ、ヘッドギアをつける。

そしてベッドに横になり、目を閉じた。


「『アルカディアオンライン』を開始します」


サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。


気がつくと、悠里は転送の間にいた。

無事にログインできたようだ。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」


「こんばんはっ。サポートAIさんっ」


「プレイヤーNO198047クレム・クレムソンからメッセージが届いています」


「あとで確認しますっ。私、急いでいるからもう行きますね……っ」


「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」


サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に駆け込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る