第百三十三話 マリー・エドワーズはフローラ・カフェの会員登録を諦める
情報屋の『ルーム』を出て階段を上に動かして、フローラ・カフェ港町アヴィラ支店のカウンター前に出たマリーは、そのまま店を出ようとした。
だが真珠がマリーの前に回り込み、吠える。
「わうーっ!! わんわんっ!!」
「あ。そっか。私、フローラ・カフェの会員登録をしようと思ってたんだった。忘れてた」
マリーはしゃがみ込んで真珠の頭を撫でた。
「真珠は覚えていてくれたんだね。教えてくれてありがとう」
「わおんっ!!」
真珠は誇らしげに胸を張り、尻尾を振る。
真珠を褒めまくった後、マリーはカウンターにいる神官に声をかけた。
「あのっ。私、会員登録したいんですけど……」
「かしこまりました。聖人様」
カウンターにいたのは黒髪が美しい女性の神官で、彼女は手に水晶を持ち、カウンターから出てマリーの前に屈んでくれた。
年齢は30代くらいだろうか。
「恐れ入りますが、この水晶に手を触れていただけますか?」
「はい」
マリーは言われるままに透明な水晶に触れた。マリーが触れると水晶が緑色に変わる。
「聖人様は当施設を使用するに値する位を得ているということが証明されました。登録料として銀貨5枚をお支払い頂ければ会員カードを発行致します」
登録料!! 銀貨5枚……っ!!
借金一千万リズを背負うマリーには払えない大金だ。
「あの、ごめんなさい。今はお金がないので登録はまた今度にします」
「かしこまりました。またのご利用をお待ちしています」
登録料を払えないという理由でカードの発行を断ったマリーに嫌な顔をすることなくそう言って立ち上がり、神官は微笑みを浮かべて頭を下げた。
すごい!! 接客のスキルが高い!!
『銀のうさぎ亭』という宿屋兼食堂の娘として、マリーは彼女の対応を見習おうと心に刻む。
神官に見送られて、マリーと真珠はフローラ・カフェ港町アヴィラ支店を後にした。
プレイヤーの復活地点は賑わっている。
死に戻りのプレイヤーが次々と巨大な魔方陣の上に現れる様は奇術のようだとマリーは思う。
プレイヤーの復活地点から薄暗い礼拝堂を通り、マリーと真珠は教会を出た。
教会前はプレイヤーで込みあっていた。
マリーは真珠とはぐれないように、彼を抱っこする。そして颯爽と……本人的には颯爽と歩き出した。
白い子犬を抱っこしてふらつく足取りで歩く幼女を、周囲は心配そうに見つめている。
だが、やる気に満ちたマリーの顔つきを見て、手助けをしようと申し出る者はいなかった。
夜でも街灯は明るく、高台にある領主館にも皓皓と明かりがともっている。
マリーは通行人に避けてもらいながら、ゆっくりと領主館を目指した。
***
若葉月14日 夜(5時41分)=5月6日 20:41
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