第九十七話 高橋悠里は後片づけをして家に帰る
悠里と要が昼ご飯を綺麗に食べ終えてオレンジジュースを全部飲み終えた時、教室に矢上先生が入って来た。
「昼飯、食べ終わったみたいだな。教室も綺麗に使ってるみたいでよかった。机をちゃんと元に戻して窓も閉めておけよ」
「はい」
「わかりました」
悠里と要がそれぞれに返事をすると矢上先生は微笑んで肯き、手を振って教室を出て行った。
「先生、わざわざ様子を見に来てくれたんですね」
「ありがたいよね。無理を言ってサックスを吹かせてもらって今日、すごく楽しかったし」
悠里と要はそれぞれに、マスクケースからマスクを取り出して身につける。
悠里は使い終えたマスクケースと昼ご飯を食べ終えて出たゴミを紙袋に入れ、要は机を元に戻した。
「マスクケース、せっかく作ってくれたのに一回で捨てるのもったいないね」
「また持ってきますね」
「催促したみたいでごめん」
「マスクケース作るの楽しいので大丈夫ですっ。私、机をティッシュで拭きますね」
悠里はアルコール消毒液を含ませたティッシュで晴菜の机を綺麗に拭いた。机を拭いたティッシュを紙袋に入れて新しいティッシュにアルコール消毒液を含ませ、自分の机を拭く。
『アルカディアオンライン』のマリーだったら、この行動で『掃除』のスキル経験値が少しは増えるのだろうか。
要は窓を閉め、悠里に向き直って口を開いた。
「じゃあ、楽器をしまいに行こうか」
「はい」
悠里は自分のサックスケースを右手に、通学鞄とゴミが入った紙袋を左手に持った。要も自分のサックスケースと通学鞄を手に持つ。
そして二人は教室を出て、音楽準備室に向かった。
四階に到着した。音楽準備室の鍵を開けて中に入り、楽器を棚にしまって音楽準備室を出る。
そして音楽準備室の鍵をしめ、きちんとしまっていることを確認した悠里と要は職員室に行き、矢上先生に音楽準備室の鍵を返却した。
「短い時間だったけど、楽しかったか?」
矢上先生に問われて、悠里と要は笑顔で肯く。
「それならよかった。他の奴らには内緒だぞ」
「はい。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「二人とも、気をつけて帰れよ」
悠里と要は矢上先生に見送られて職員室を出た。
昇降口で上履きから靴に履き替えて校舎を出る。
「なんか、大冒険って感じでした。先生以外は誰もいない校舎で、先輩とサックスを吹けてすごく楽しかったですっ」
「そうだね。新型コロナのせいで我慢することばっかりだけど、今日は良い思い出ができた」
要の言葉に悠里は深く肯く。今日、この一日はコロナ禍だからこその、特別な思い出になった。
「紙袋、高橋さんに持たせてごめん。俺が持つよ」
校門に向かって歩きながら要が手を差し伸べる。悠里は首を横に振った。
「行きは先輩に紙袋を持ってもらったので、帰りは私が紙袋を持ちます。ゴミ、ちゃんと分別して捨てますね」
「ありがとう。今日も、高橋さんを家まで送ってもいいかな?」
「はい……っ」
要と一緒にいられる時間が長くなったことが嬉しくて、悠里は元気に肯いた。
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