第七十三話 高橋悠里は家族に使われ、祖母は緑茶を淹れるためにキッチンに向かう
悠里が目を開けると、心配そうに見つめる祖母と目が合った。
「よかった。悠里、目が覚めたのね」
「お祖母ちゃん。なんでいるの?」
「お昼ご飯ができたから呼びに来たのよ。でも、悠里は頭に機械をつけて寝ているし、呼びかけても目を開けないからどうしようかと思っていたのよ」
呼びかけても起きない悠里を揺り起こした祖父とは違い、祖母はどうしていいのかわからなかったようだ。
「もう起きたから。呼びに来てくれてありがとう」
悠里は横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外しながら祖母に言う。
「じゃあ、先にダイニングに行っているわね」
祖母は悠里に微笑んで、部屋を出て行った。
悠里はヘッドギアの電源を切る。それからゲーム機の電源を切った。
今日は午後から出かけるけれど、たぶん夜はゲームで遊ぶのでヘッドギアとゲームをつなぐコードはそのままにしておく。
「んーっ!!」
悠里はベッドから下りて両手を上げて伸びをした。
朝ご飯を食べてからずっと、ベッドに横になってゲームで遊んでいただけなのにお腹は空いている。
食べ過ぎないように気をつけよう。
悠里は強張った身体をほぐすために軽くストレッチをした後、自室を出てダイニングに向かった。
ダイニングには悠里以外の家族が全員揃っていて、それぞれに、牛丼を食べ始めていた。
母親はダイニングに現れた悠里に気づいてどんぶりをテーブルに置き、口を開く。
「今日のお昼ご飯は『牧高食堂』の牛丼よ」
「えっ。『牧高食堂』ってテイクアウト始めたの?」
『牧高食堂』は駅前にある、地元民に愛される安くておいしい食堂だ。
客のリクエストに応え続けた結果、膨大な数のメニューが店の壁全体に貼り出されることになった。
今はコロナ禍の影響で高橋家は『牧高食堂』に行けていない。
「そうなのよ。『牧高食堂』の奥さんから『テイクアウト始めました』っていうメッセージ貰ったから、お祖父ちゃんに買いに行ってもらったの」
「『牧高食堂』のご主人が冷凍設備を買いたいっていうから5000円寄付してきたぞ」
「お祖父ちゃん、かっこいい!!」
『牧高食堂』は悠里が産まれる前からこの街にあって、小さい頃からずっと通い続けて来た大事なお店だ。
安くておいしいは正義!! 『銀のうさぎ亭』が目指すべき姿は『牧高食堂』だと思う。
外食をすると新型コロナに罹患するリスクが高いと言われてからずっと行けていなかったので、久しぶりに『牧高食堂』の牛丼を食べられて嬉しい。
「卵黄を乗っけるなら卵は冷蔵庫ね。小ネギは切っておいてタッパーに入れたのがあるから」
「うん」
母親の言葉に悠里は肯く。
キッチンにある冷蔵庫に向かおうとした時、父親が声をかけて来た。
「悠里。ついでに紅ショウガを持ってきてくれ」
「俺はキムチが欲しい」
父親に続いて祖父が言う。
立っている者は誰でも使われる。それが高橋家だ。
「はいはい。わかりました」
悠里がおざなりな返事をした直後、祖母が立ち上がる。
「私もキッチンに行くわ。緑茶を飲みたくなったから」
「お祖母ちゃん。緑茶、私の分もついでにお願いします」
母親が手を上げたのを皮切りに、祖父や父親も手を上げて緑茶を飲みたいと主張する。
悠里も控えめに手を上げた。祖母が淹れてくれる緑茶はおいしい。
祖母は家族の顔を見回して、苦笑した。
「全員の分を淹れてくるわ」
そして悠里と祖母は揃ってキッチンに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます