アルカディアオンライン【高橋悠里 中学一年生・一学期終了編】

第三十九話 マリー・エドワーズは大泣きし、高橋悠里はワールドクエストリザルトを確認する

「ご主人。奥さん。お嬢ちゃん。無事でよかった」

「私たち、しばらくは宿の外で待っていたんだけど疲れてしまって。そういえば宿屋の鍵を掛けずに出たんじゃないかと思い出したの」

「だから、中で待たせてもらおうと思ったんだが、この有様で……」

「あんたたち宿泊客が宿を荒らしたなんて、そんなこと思っていない」

「そうですよ。私たちは一緒に逃げていたんですから……」

両親の言葉を聞いた宿泊客たちは、それぞれに安堵の表情を浮かべた。

「なんで……？　せっかく皆、無事で、帰って来たのに……っ」

荒らされた宿を見たマリーの目から、涙が零れる。

「こんなの嫌！！　嫌だ！！」

せっかく街を守ったのに！！

皆が無事で、宿屋と食堂も無事だと思ったのに……！！

「泥棒に入るなんてひどい！！　ひどいよ……っ！！」

マリーは叫んで、大泣きを始めた。

「ハンナ。マリーをベッドで休ませよう。寝室を整えてくれ」

「わかったわ」

父親に促され、母親が早足で二階へと向かう。

父親は、泣きわめいているマリーを抱き上げた。

「悪いが客室の確認と掃除は、娘を寝かせた後にさせてくれ」

「いいよ。俺たちのことは気にしないでくれ」

「そうよ。掃除は自分たちでやるわ」

「散らかっていてもいいから、借りていた部屋に行っていてもいいか？」

「ああ。構わない」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

宿泊客が口々に、父親に感謝の言葉を伝えていると母親が階段から下りて来た。

「あなた。部屋を片付けたわ。マリーを連れて来て」

「わかった」

「すみません。今から客室の確認と掃除をしますね」

「いいよいいよ。奥さん。片付けは自分たちでやるから」

「そうよ。まずは、兵士詰所に被害届を出した方がいいわ」

「そうだな。盗まれた物を確認した方がいい」

「皆さん。ありがとうございます」

母親と宿泊客の会話を聞きながら、マリーは父親に抱かれて嗚咽を繰り返していた。

父親はマリーを抱いて階段を上がる。

二階の寝室に入り、父親はマリーをベッドに横たえた。

マリーの頬を流れる涙を手のひらで拭い、父親は優しく微笑む。

「疲れただろう。ゆっくり休め」

マリーは鼻をすすりながら肯いた。

高ぶった気持ちは少しおさまっている。

父親の足音が遠ざかる音を聞きながら、マリーは目を閉じた。

大泣きしてしまって、恥ずかしい。

5歳児のロールプレイに入り込みすぎたのかもしれない。

……ベッドに横になったことだし、転送の間に行こう。

ワールドクエストの結果を確認したい。

「リープ」

転送の間に向かう呪文を口にした直後、マリーの意識は暗転した。

気がつくと、悠里はクリーム色のワンピースを着て転送の間に立っていた。

「転送の間へようこそ。プレイヤーＮＯ178549。高橋悠里様」

「こんにちは。サポートAIさん。ワールドクエストポイントの確認をしに来ました！！」

「高橋悠里様のワールドクエストリザルトをお伝えします。

マリー・エドワーズがワールドクエストを受託、1WP獲得。

マリー・エドワーズがエリアプロテクトの魔方陣にMP40を注入、WP40獲得。

マリー・エドワーズがワールドクエストを達成、100WP獲得。

獲得合計WPは141です」

「そうなんだ。この結果って良いの？」

「レイドボスバトルに全く参加していないということを鑑みると健闘なさった方ではないかと推察します」

「レイドボスバトルに参加すると、たくさんワールドクエストポイントを貰えたの？」

「そうです。レイドボスバトルは、レイドボス『狼王』の他に強化されたフォレストウルフとシルバーフォレストウルフの群れと戦わなければならなかったので、討伐には多くのワールドクエストポイントが付与されました」

「たくさんのプレイヤーがレイドボスバトルに参加したんでしょ？　だったら、敵が足りなくなったり、レイドボスと戦えなくなったりしたプレイヤーが出たんじゃない？」

「西の森の霧の奥にあるレイドボスのバトルフィールドは100万人を収容可能な広さでフォレストウルフとシルバーフォレストウルフはプレイヤーに倒された直後にリポップする、いわゆる『無限湧き』という状態でした。戦いたいのに戦えないプレイヤーはいなかったと思われます」

「でも、レイドボスは一体しかいなかったんでしょ？　戦えなかったプレイヤーはいたんじゃない？」

「レイドボス『狼王』は世界最大級の空母とほぼ同等の大きさです。しかも縦横無尽に動き回っていたので、各プレイヤーに攻撃の機会は与えられたと思われます」

「空母って、戦争で使う船のこと？　どれくらい大きいの？」

「横幅が約78メートルで長さが約333メートルになります」

「全然想像できない……」

「後ほど『アルカディアオンライン』公式サイトでワールドクエストの動画を公開する予定です。宜しければ『ワールドクエスト・ヒストリー』という項目からご覧頂ければと思います」

「ワールドクエストって動画になるんだ。すごい」

「10秒以上連続で映像に使用したプレイヤーには、ゲーム内通貨が支払われます」

「そうなんだ。でも、プレイヤーの中には自分が動画に使われるのは嫌だと思う人もいるんじゃない？」

「『アルカディアオンライン』の登場人物の著作権、肖像権等はすべて『アルカディアオンライン』の制作会社及び東雲明氏が所有しています。『アルカディアオンライン』の運営スタッフは、プレイヤーの許諾なくゲーム内のすべての映像や音声等を使用することができます」

「そうなんだ。知らなかった……」

「『アルカディアオンライン』公式サイトの『アルカディアオンライン』をはじめる前にという項目に記載している内容なのですが……」

「そういうの全然読まずに会員登録しました……」

「世の中には基本無料とうたっていても、多額の金銭を要求するような悪質商法も存在します。商品を購入したり、サービスを利用する前には利用規約を確認することをおすすめ致します」

「気をつけます。……あの、ワールドクエストポイントを交換したいです」

「了解致しました。ワールドクエストポイント交換カタログを表示します」

悠里の前に『ワールドクエストポイント交換カタログ』と表示された画面が現れた。

＊＊＊

高橋悠里の行動履歴

5月3日

初ログインボーナス　スキルポイント5入手

マリー・エドワーズに憑依。

マリー・エドワーズのHP全回復

マリー・エドワーズの状態異常回復

マリー・エドワーズが不滅の腕輪を入手

ユニークスキル　アイテムボックス入手

ステータス　アイテムボックス解放

マリー・エドワーズが薬師ギルドに登録　スキルポイント5入手

マリー・エドワーズが強制ログアウト

マリー・エドワーズに憑依。

マリー・エドワーズのHP全回復

マリー・エドワーズの状態異常回復

マリー・エドワーズが汎用クエスト初達成　スキルポイント1入手

マリー・エドワーズがコモンスキル『魔力操作』を習得　スキルポイント1減少

マリー・エドワーズがログアウト

マリー・エドワーズに憑依。

マリー・エドワーズのHP／MP全回復

マリー・エドワーズの状態異常回復

マリー・エドワーズがワールドクエスト初達成　スキルポイント100入手