第6話

「よーし 夏休みだー」


「ふっ!」


「ピピッ!」


教壇の前に立つ講師が


こめかみに青筋を立てると、


クラスの全員の頭の中に


講師が発信した電気信号が受信される


「うわー 夏休みだって」


「どっか旅行行く?」


「(・・・・!)」


セゲナの周りのクラスメイトが


夏休みが来た事を喜んでいるのか、


浮足立った様子で


べちゃくちゃと話し始める


「私、今年はー アシュタロス星に


行こうと思ってるんだよねー」


「アシュタロス!?


ほんと!?」


「(・・・・・)」


セゲナは、周りの生徒たちの


言葉にイラつきながら


無言で帰り支度をととのえる


「・・・・」


"ガサッ ガササッ!"


「アシュタロス星って


ほんといい星なんだよねー」


「ほんと!? 


いいな~


美奈ってリッチじゃ~ん」


「(・・・・!)」


"べらんめぇ"


「私なんか、イシュターボしか


いけないってお父さんがー」


「えー! でも、全然よくない!?」


「(アシュタロスだか


イシュターボだか何だか知らねえが


そんなのちゃんちゃらおかしいや!)」


"べらんめぇ"


セゲナは、再び、心の中で


強く、そう呟く-----


「あ! セゲナ!」


「・・・何?」


女子学生の一人が帰り支度をしている


セゲナに向かって話し掛けてくる


「・・・セゲナは、夏休み、


どこかに行くの?」


「・・・別に」


顰(しか)め面を浮かべているセゲナを


気にしていないのか、女子学生は


そのまましゃべり続ける


「セゲナって、アインシュタインの


子孫なんでしょ!?


だったら、やっぱり----」


「スシしか食わねえよ」


「----え?」


セゲナの言葉に


女子学生が戸惑った様な表情を見せる


「アインシュタインだか何だか知らないけど、


ウチは、築地で三代続いた、


寿司屋の家系だよ」


「あ、ああ....


セゲナの家は


 お寿司屋さんやってるって-----」


「ガサッ!」


「・・・・!」


セゲナは、パソコンが入った鞄を


放り投げる様にしょい上げる


「築地じゃ、三代続けば、


老舗(しにせ)の寿司屋だよ!」


「だ、だから・・・?」


「アインシュタインだかアシュタロスだか


なんだかアタシにゃ分かりゃしないが、


そんなの、ちゃんちゃら御免だよ!」


「せ、セゲナ・・・?」


「あばよ!」」


「・・・・!」


セゲナはそのまま、


唖然としている女子生徒の視線を後ろに感じながら


寿司のストラップがついた鞄を片手に


教室から出て行く-----


「ビシャンッ!」


「-----っ!」


教室のドアの建付けが気にくわなかったのか、


セゲナは勢いよく教室のドアを閉める


「な、なに、あの子...」


「(・・・・)」


"ザッ ザッ ザッ ザッ-----"


「(どこかで、誰かが----)」


一人、校舎の廊下を歩きながら、


セゲナは、恋愛物質感知器の事を思い返していた


「("私"を、"愛して"-------


る--------)」

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