第500話 覆る窮地

「リザレクション!! ヒーリング!!」


 影転移で移動し、影で戦闘の中心まで移動して七海とノエルが飛び出して味方達に怪我を治療をする魔法と体力を回復させる魔法を唱えた。


 そのおかげで一気に怪我が治り、体力が回復した探索者達は活力を取り戻し、一気に魚人たちを押し返していく。それは周りの探索者にも伝播し、探索者側の士気がこの上なく上昇した。


「「パワーアップ、スピードアップ、ディフェンスアップ、マジックアップ、リジェネーション」」


 さらに二人は影転移で移動しながら範囲最大で付与魔法掛けて回る。


『力が漲ってきたぜぇ!!』


 それにより、各地の探索者の戦闘能力と自己治癒能力が飛躍的に上がり、魚人達を倒していく速度が加速していく。


「聖女様と一緒にいる女の子は何者だ!?」

「聖女様と同じ魔法を使えるなんて信じられない!!」

「彼女も聖女なんじゃないか!?」

「そうかもしれないな!! 二人の聖女がいれば俺たちはかつる!!」


 探索者達は少し余裕が出てきたことで聖女だけでなく、別の人間も一緒にやってきていることに気付いた。


 しかし、今の彼らにそのことを尋ねるような余裕まではないので、もう一人の聖女がやってきたということで納得したらしい。


 まぁウチの七海は聖女どころか天使と言っても良い存在だがな。


「俺たちはどうする?」


 悪かった戦況がみるみる持ち直したので、俺たちも別途動くべきだと思い、パーティのお姉さんである零に尋ねた。


「私たちは危ない人が居たらその都度助けるように動きましょう」

「分かった」


 ある程度押し返したとはいえ、危ない場面が先ほどから何度か起こっている。なんとか周りの探索者が気付いて助けているが、絶対数が足りなさすぎるため、後何度防ぐことが出来るか分からない。


 俺たちなら影に入って感づかれずに、かつ人たちに邪魔されることなく移動できるので、危険になる前に助けに行けるはずだ。


「私は二人の護衛」

「シアが守ってくれるなら心強いな」

「任せて」


 シアは今回は七海とノエルの護衛を買って出てくれた。確かにあの二人だけでは何があるか分からない。


 ここは聖女ノエルの国だから彼女に何かすることは考えにくいけど、七海に何かされる可能性はある。もしかしたら悪い奴に目をつけられるかもしれない。


 しかし、見た目は兎も角シアがいれば二人に誰かを近づけることもないだろう。彼女が居るだけで安心できた。


「それじゃあ、俺、天音、零は分かれて探索者たちの救助をしよう」

『了解』


 残った俺たちは各々別れて救助活動を行い始めた。


「きゃあああっ」

「ギャァアアッ」


 俺は足をくじいて今にも魚人から攻撃を受けそうな探索者の女の子をすぐに助けた。


「え?」


 少女はいつまでもやってこない痛みに目を開くと辺りをきょろきょろと見回した後で、不思議そうに首を傾げた。


 そりゃそうだよな。大けがは確実だったのに周りにいたはずの魚人が消え去っていれば、困惑してしまうのも無理はない。


 しかし、一々そういう人たちに声を掛けるのが面倒なので、俺は彼女に助けたことを知らせることもなく、次の救助が必要な人間の場所へ移動する。


 それから程なくして七海とノエルの付与魔法と俺達のフォローにより、徐々に混戦から抜け始めた。


「ふぅ……これでひと段落かな」

「ただいま~。疲れたよ、お兄ちゃん!!」

「ん」


 もう心配なさそうなので影の中で一休みしようとしたところで七海とシアが帰ってきた。


「あれ? もういいのか?」

「うん、後はノエルちゃんに任せてきたよ」


 まだ戦闘は継続しているけど、もう七海の力を借りるまでもないところまで来ているらしい。


「まぁここはあいつの故郷だからな。色々あるだろうしな」

「それもそうだけど、あのままあそこにいると面倒そうだったし」

「あぁ~、それはありそうだな」


 確かにノエルと同じ、というか七海の方がさらに高い能力をもっていることを知られれば面倒事になりそうな事この上なしだ。


 俺達は手柄が欲しいわけじゃないしな。


 ノエルの国が無事ならそれでいい。助けた功績は全部彼女のものにしてもらえればスケープゴートとしても問題ないだろう。


「ただいまぁ。そっちも終わったみたいね」

「ただいま。どうやらもう大丈夫のようね」


 俺達が団欒を始めたころに天音と零も帰ってきた。


「二人も問題ないみたいだな」

「ええ。影の中を移動して不意打ちするだけの簡単なお仕事だからね」

「私は本職だし、あのくらいならわけないわ」


 俺が出迎えると、二人とも肩を竦めて心配されるまでもないと言う。流石Bランク探索者とSランク探索者。地力が違うな。


「さて、この場所はノエルに任せることにして、他に救援の必要な場所はあるか?」


 レトキアの危機は去ったようだし、また別の場所に応援に行こう。


「ウォンッ」

「そうか。英国も少しずつ押されていると」

「それじゃあ次は英国に行くの?」

「そうなるな」


 ラックからの情報によると、英国が徐々に戦況が悪化しているようだ。


 あそこにはエルフの森があるし、エルフは王族と繋がりがあるみたいだから手助けするのもやぶさかじゃない。


 アグネスさんが動いてくれたにも関わらずこれだから、ちゃんと動いていない所は結構被害が出てるかもしれないな。それでもラックの影魔がある程度守っているはずだから、かなりマシなはずだけど。

 

「でもその前にちょっと休憩しよう」

『さんせーい!!』


 皆少し頑張ったのでほんの少しくらい休息をとってもいいだろう。俺達は影の中で十分ほどのティータイムを取ってから英国へと向かった。

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