第469話 それぞれの追体験
「そういえば、皆人生の追体験してきたんだよね。みんなはどんな感じだったの?」
ようやく美容系ポーションの話を切り上げた女性陣だが、元々話そうとしていた皆がどんな追体験をしてきたのか、という内容に会話がシフトした。
「私はななみんと同じ。Bランクなのに今より大変だった」
「だよねぇ。絶対今の方が稼げてるし。一体どうなってんだろ」
シアは確かBランク探索者だったか。俺達はまだDランク探索者だからな。それなのにBランク探索者よりも稼げるってやっぱり俺の運がよすぎるのが問題なのか?
「逆に私はDランク探索者だったんだけど、まず適性検査を受けて適性があったのは嬉しかったかな。でもモンスターと戦うのめっちゃ怖かった。何あれ、ほんと化け物じゃん」
「あぁ~分かる。Cランクになるとおっきなモンスターも出てきてホント無理」
「それを言ったら私なんてAランクなんだよ。もっと凶悪なモンスターが出てくるんだからね」
「Aランクとめっちゃヤバそう」
逆に元々一般人だったバンド三人組の方はモンスターと戦うという経験をしたことがなかったせいで滅茶苦茶怖かったらしく、体震わせながらお互いに共感し合っている。
「マジでヤバいって何あれ。怪獣?もう怪獣大決戦って感じの戦闘をするんだから!!もう動画で見てたレベルなんて可愛いものだよ!!」
「へぇ~。それはそれで見てみたいな!!」
「私も遠くから見てる分には面白そう」
そりゃあそうだよなぁ。
特にいきなりAランクとかになった多々良さんに関してはとんでもない恐怖だったと思う。体は自分では動かせないのに凶悪なモンスターに向かって体は勝手に戦いを挑んで激闘を繰り広げるんだから。
正直お金を稼ぐという点でいえば、Dランクでも十分なので、Cランク以上に挙げなくてもそれなりに良い暮らしができると思う。
だからちょっと探索者を体験というつもりでCランク以上を経験するのはかなり酷だったはずだ。
「あ、でもAランク探索者ってめっちゃ稼げるんだよ!!」
「マジ!?」
「マジマジ!!普通に一回の探索で億超えんの」
「ヤッバ!!」
「それマジでヤバヤバのヤバじゃん!!」
あ、そうでもなかった。やっぱりお金が入ってくるのを見ると誰しも嬉しいんだろうな。
ただ、Aランク探索者の稼ぎってそんなに低いの?
いやいや、そんなはずないよな。俺でさえ数十億って単位で稼いでいるんだ。Aランクに至っては数百億、数千億はくだらないはず。
これは多分アトラというかゲームシステム側の再現率が低かったんだろうな。ぶっ壊された森を一瞬で治すような力を持っているゲームなのに、そんなところまでは再現できなかったのかと少し残念思う。
まぁゲームだし、細かいことを言ってもしょうがないか。
「零はどうだった?」
探索者組の話をある程度聞き終わると七海が零に話を振る。
「私はなんか小さい頃に外科医に助けられて外科医を目指していたの。小学生のころから一生懸命寝る間も惜しんで勉強や手術の練習みたいなことをしていて私も非常に驚いたわ。そして気づいたら日本最高学府の医学部に入学して卒業し、外科医のエースとして大学病院で働くことになって、とある事件があって最初から大きな手術をやることになって見事やりきっていたわね」
「それは凄い」
物語の主人公みたいな話で思わず唸る。
「私失敗しないので、が口癖だったわ」
「超天才外科医だね!!」
「私は自分がこんな仕事やるとは思っていなかったから結構楽しかったわね。勉強と練習は地獄だったけど」
零の話を聞いて何処かで聞いたことのある話な気がするけど、気のせいだろう。それでも探索者しか知らなかった自分が全く知らない分野で仕事をすることで色々気分転換になったようで何よりだ。
「あーちゃんは?」
今度は天音の番らしい。
「私は、小さい頃にみたライブを見て憧れたのがきっかけで歌を歌い始めていたわね。暫くして作詞や作曲もやりだして、高校生の時にストリートライブをやっていたところをスカウトされてデビューして一作目のシングルが滅茶苦茶売れていたわ」
「華々しいデビューだね!!」
これは現実でよくありそうな流れ。今ではトゥックティックからデビューするっていう話が多いから少しスカウトとしては古いかもしれないけど、無い話じゃないだろう。
「そうね。自分が歩むかもしれなかったアーティストの経験出来るなんて中々面白かったわね」
「いいなぁ。私もアイドルとかやってみたい」
「七海は今でもできると思うわよ」
「ホント!?今度応募してみようかなぁ」
「騙されないように気を付けろよ」
「分かってるって!!」
どうやら天音の話を聞いて七海は芸能界に興味をもったようだ。七海は世界一可愛いのでゲームが終わったらその内アイドルデビューしているかもしれない。
七海に不埒なことをする輩は許さないので周りには影魔を沢山配置しておく必要がありそうだ。
「ノエルは?」
「私は世界的なコスプレイヤーになってましたデスよ!!毎週のようにイベントに参加してました。撮影会なんかもやって沢山写真をとってもらったデスよ!!毎日服を作ってコスプレする日々。とても楽しかったデスよ」
「可愛い恰好するのは楽しそうだよね!!」
「今度一緒に出るデスよ!!」
「それもいいかも!!」
ノエルは元々好きだった服作りをして、好きなキャラになり切ることができるコスプレイヤーは天職と言っていいかもしれないな。
七海が魔法少女になった姿は是非とも写真に納めたいので、どんどんやってほしいところ。
勿論他の男達は一定以上近づけないようにしなければならない。
「皆楽しいそうでいいなぁ。私も次は一般職コースでやろ!!」
「私達も将来のことを考えて一般職コースでやってみるのは楽しそう」
「そうだね」
「まだ将来決めてないから参考になるかも」
七海は一般職の話を聞いて羨ましそうにしている。七海はまだ中学生なのでアイドルだけじゃなくてコスプレイヤーもやってみたらいいし、外科医にだって勉強すればなれるだろう。
「それじゃあ、そろそろゲームを再開しよっか!!」
「そうね、そうしましょ」
「分かったわ」
一般職の話に満足した俺達はゲームを再開することにした。
『それでは黒崎零さんからまたサイコロを振ってください』
アトラによって指示がなされる。
「分かったわ」
零が現れたさいころを持っていざ振ろうとする。
「だから俺の話もきけぇええええええええええ!!」
そこに全く話を聞かれなかったアキの悲しい叫びが木霊するのであった。
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