第463話 パーティが始まったはずなのに人生が始まった

「それじゃあ、まずは皆で記念撮影するわよ!!」


 天音が声を上げ、俺達はパーティを始める前に全員で写真撮影をすることになった。


「はーい、皆さん笑顔でお願いしますよ!!」

「うぃ~」


 こんなこともあろうかと影の中に入っていたカメラと三脚を取り出し、セットした。使い方が分からなかったけど、アキがそういうのが得意らしく、アキがカメラマン役を買って出てくれた。


 勿論タイマー機能でアキもきちんと写真に入るし、そのための場所も空けてある。


「アレクシアちゃんのお母さんとお父さん、もう少し内側にお願いします。あ、はい、そのくらいで大丈夫です。それでは今から五秒後にセットしますんで、ニッコリキープでお願いします!!それでは行きますよ!!三、二、一」


 その合図でアキは自分の場所に滑り込んだ。


 とはいえ、五秒あれば探索者である俺達であればそのくらい朝飯前。むしろ少し長いくらいだ。


―パシャシャシャシャシャシャシャシャッ


 そして五秒だったら、凄まじい連射音がなった。


「おい、流石に連射しすぎじゃないか?」

「いやぁ。丁度いい感じになるか不安だったからちょっと何度か連射で取ってみたんだよ」


 俺がジト目で睨んだら、アキが苦笑いを浮かべながら頭を掻く。


「はぁ……まぁいいか。一回確認してみよう。皆ちょっと待っててください」

『了解』


 確かに分からなくもないので、俺達は一呼吸を置いてカメラの許に近づき、中身を確認する。


「んー。とりあえず大丈夫そうだな」

「そうみたいだな」


 俺はアキが操作しながら写真を確認するのを隣で見ていて、連射でとった写真の中にきちんと撮られている画像がきちんとあった。


「よし、それじゃあ、早速クリスマスパーティーを始めましょう。料理が冷めてしまうわ。皆、各々料理を取り分けてちょうだい。飲み物もあるから自由にね」

『はい!!』


 アンナさんがパンパンと手を叩いて俺達の注目を集め、皆に指示を出し、俺達はそれに従って用意された皿に自分の食べたい料理を取り分け、飲み物をコップに注いで料理を置ける立食用のテーブルに皿を置いた。


「はい、皆準備が整ったみたいね?それじゃあ、普人君に挨拶をしてもらおうかな?」

「え?俺?」


 他の皆も同じように準備が終わると、再びアンナさんが進行役をしてくれたと思いきや、とんでもない爆弾をぶっこんで来た。


 はぁ……俺はこういうの苦手なんだよな。


「えー、今日は急な思い付きにもかかわらず、集まってくれてありがとう。今日は年に一度のクリスマス。食べて飲んで楽しい時間にしよう!!メリークリスマス!!」

『メリークリスマス!!』


 俺は苦手なりに挨拶をしたら、皆が俺の言葉に合わせて飲み物の入ったコップを掲げた。


 俺達は各テーブルごとに雑談しながらまずは食事を楽しむ。


「おいし」

「本当だね、シアお姉ちゃん」

「ん」


 俺と同じテーブルには七海とシアが一緒にいた。テーブルがあまり大きくないため、ノエルが一緒に食べられなさそうで、ハンカチを噛んで悔しがった。


「ノエねぇ……」

「は、はい!!」

「後で話があるから」

「ひ、ひぃ!!」


 その時、何やらぼそりと七海がノエルの耳元で呟いたら、すぐに大人しく別のテーブルに移っていったけど、一体何を言ったんだ?


 何やらブルブル震えていたぞ。大丈夫なのか?


 それはさておき、俺もクリスマス料理を口に入れる。


「う、うっま!!」

「だよねぇ」

「ん」


 俺が料理を口に入れた瞬間、旨味の暴力が口の中に広がった。俺の感想に話をしていた七海とシアが同意して頷いた。


「そういえば、よくこんな装飾できたな?」

「ん。お母さんが張り切って……大変だった」

「そ、そうか……」


 俺があまりにも現実離れした部屋のなかの装飾を話題を上げると、ズーンという言葉がぴったりの雰囲気を纏いながら、いつもの無表情で答えるシア。


 そこには中々なドラマがあったらしい。


「私も大変だったけど、お父さんの方が大変」

「一体何が……」


 しかし、真さんは更に大変だったらしい。一体真さんのみに何があったのか……。


「あのツリーの材料ダンジョンに一人で取りに行った」

「それは……言ってくれた手伝ったのに」

「お母さんがビックリさせたいからダメだって」


 どうやらどこかのダンジョンに一人で入ることになったらしい。どこのダンジョン化は分からないけど、ドロップアイテムなら出るまで戦い続けなければならないし、宝箱なら全部あけてしまったら復活するまで待って再びチャレンジしなければならない。


 どれほどの時間がかかったのか分からないけど、全部集めるまで戻って来れませんっていうのをガチでやらされたのか……。

 

「それはご愁傷様としか言えないな」

「ん」


 俺とシアは肩を竦めるしかできなかった。


「はいはーい!!注目!!」


 暫しの間、歓談と食事を楽しんでいると、天音が手を挙げて皆の注目を集めた。


「どうしたんだ?」

「えっとね、そろそろお腹も膨れてきたし、ゲームでもやらないかと思って」

「あ、それいいね!!」

「確かに!!」

「そういうの楽しそう!!」


 天音の提案に皆が賛成する。


「子供たちだけで楽しんでちょうだい。私達は私達でゆっくりしてるから」

「ああ、そうだな」

「そうね。皆で楽しみなさい」


 大人たちは流石に子供たちに混ざってゲームに参加するのは抵抗があるらしく、俺達だけで遊ぶことになった。


「それで何のゲームをするんだ?」

「じゃーん!!これよ!!」


 俺が天音に尋ねたら、彼女はマジックバッグから見たことのあるボードゲームを取り出した。


「それは……人生追体験ゲーム?」


 山城さんが天音が出したゲームを見て答えを呟く。


 そこには少しガックリしたような感情が見て取れた。


「あ、なーんだ人生追体験ゲームかって思ったでしょ。でも驚くなかれ、これってダンジョン産の人生追体験ゲームで等身大のすごろくみたいな感じなのよ!!」

「それは面白そうだね!!」


 山城さんの答えは予想済みだったらしく、天音がドヤ顔でその人生ゲームの秘密を打ち明けた。七海がそれを聞いて目をキラキラと輝かせて食いつく。


 確かにそれは面白そうだ。


 そして、一度は思い描いたことがある夢ではないだろうか。すもも鉄や人生ゲームみたいなすごろくを実際にその世界に入ってやってみたいというのは。


「それじゃあ、早速やりましょ!!」

『はーい』

「皆このゲームに手を当てて、『ダイブ』って唱えてね」

『了解』


 俺達は天音の指示に従ってボードゲームに手を当て、皆で叫んだ。


『ダイブ』


 その瞬間、俺達の視界は切り替わり、辺りには見たこともない地形や、街並みが視界に移り、俺達は車に乗る形でスタートマスに泊まっていた。


『人生追体験ゲーム『ネクストライフ』にようこそいらっしゃいました』


 中世的な声が俺達の頭に降り注ぎ、第二の人生が幕を開けた。

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