第462話 クリスマスパーティの始まり

 パーティの会場は、待っていた部屋よりも広い空間の部屋だった。複数のクリスマスツリーがあり、真ん中にひと際大きなツリーが聳え立っている。


 そして、そのツリーから各ツリーを繋ぐ縄が張り巡らされ、そこに星をイメージしたイルミネーションが垂れ下がっていた。


 部屋全体の照明が暗めになっていて、イルミネーションと蝋燭の光で室内が幻想的な雰囲気に変貌している。


「え、え、なにこれ!?」

「わ、私達、こんなところに御呼ばれしてよかったのかな?」

「ホント凄いよね……」


 その様子に俺達の中で一番一般人であろうバンド三人組が、あまりに現実離れした光景を受け入れられないように困惑していた。


 正直おれも驚いている。


 家でのホームパーティだからここまで本格的な装飾がされるとは思わなかった。


「すっごーい!!」

「おとぎ話みたいじゃない!!」

「本当に綺麗ね」


 七海と天音と零は純粋に目をキラキラさせてテンションを上げている。


「嬉しい。頑張った」

「シアも飾り付け手伝ったのか?」

「ん。お母さんが厳しくて……」


 シアはアホ毛を揺らして嬉しそうにしていたが、手伝っていた時の事を思い出したら、何故か少し遠い目になってしまった。


 アンナさんがなにやらはりきってしまったんだろう。これ以上は聞かないでおこう。


「いらっしゃい。よく来てくれたね」

「そうね。いつもシアと仲良くしてくれてありがとう」

「普人ともね」


 部屋の様子に困惑していると、先に来ていた真さん、アンナさん、母さんが俺達を出迎えてくれた。


「それじゃあ、こっちに来てね」


 アンナさんが、先導して俺達をメインの場所に連れていく。


「いやぁ、アレクシアちゃんのお母さんもいいなぁ……」


 そんなアホなことを呟いているのはアキだ。


 こいつは一体何を言っているんだ……。


「はぁ……。アンナさんは真さんとラブラブだからお前が入る余地なんてないぞ」

「おい!!夢を壊すようなことを言うなよ!!」


 俺が釘を刺したらアキが逆切れしてきた。


「おまえこそ家庭をこわすような不穏なことを言うな」

「ちっ。しゃーねー。バンド娘ちゃん達と話しに行くか」

「そうしろそうしろ」


 俺がアキの言葉を借りて切り返したら、忌々し気に舌打ちをしてバンド娘三人組の方に近づいていく。


 そういえば、何か忘れているような気がするんだけど、なんだったかな。


―バンッ


「ちょっと待ったぁああああああ!!デスよ!!」

 

 ふと俺がもう喉から出かかっていたら、扉が勢いよく開け放たれる音、その疑問の答えが飛び込んできた。


 それはノエルの声だ。そうだ、待っていた客室にも見当たらなかった。


 俺が振り返ったら、そこには真っ赤でモコモコした服装をしたノエルが肩で息をして、俺達を睨みつけていた。


 そう。彼女はサンタコスをしている。思えば初めて会った時も神官みたいな恰好をしていたし、文化祭でも率先してコスプレしていたから、本当にそういうのが好きなんだろうな。


「私がまだ来ていないっていうのになんで始まろうとしてるんデスか!!」


 ノエルがプンプンと不機嫌そうにドスッドスッという足を音を立てて会場に入ってくる。


「あぁ、わりぃ、わりぃ。忘れてた」

「酷いデスよ!!」


 俺が苦笑いをしてノエルに近づいたらさらにプンスコした。


 これはマズい。


「ほらほら、可愛い顔が台なしだ。サンタコスも似合っているし、まだ始まっていないから、その怒りは納めてパーティを楽しもうぜ?」

「か、可愛い……デスか?」


 金髪碧眼の彼女に赤と白のミニスカサンタコスは非常に似合っていたので、俺はなだめすかすように褒めてみたら、先ほどまでの怒りを霧散させ、モジモジし始める。


 どうやら七海にまず女の子を褒めろと言われた教訓がここで活きたようだ。


 このままこの路線で攻めるしかない。


「ああ。とっても可愛いと思うぞ?」

「そ、そうですか。そこまで言われてしまっては仕方がないデスよ」


 俺が最大限の笑顔を笑いかけたら、あっさりとノエルの怒りはキレイサッパリ消え去ってしまった。


 よっし、ノエルはちょろかった!!


「ほら、皆待ってるから、早くいくぞ」

「はいデスよ」


 俺が皆が待っている場所にノエルを連れていく。


「遅い」

「仕方ないデスよ。どのサンタコスを着ていくか悩んだんデスよ!!」


 近づいてきた俺達、というよりはノエルに無表情で叱責するシアに、ノエルは男子を悩殺するようなポーズを決めた。


「言い訳だめ。有罪ギルティ

「お兄ちゃんとのイチャイチャの件で話があるから後で顔を貸すように」

「ひぇ!?は、はいデスよ!?」


 しかし、俺のパーティメンバーは誰一人としてそのポーズに惑わされることなく冷たい対応をする。


「うっひょぉおおお!!」


 アキだけは惑わされていたけど。


「ほらほら、あなた達、せっかくのクリスマス料理が冷めるわよ。パーティを始めましょ」


 俺達がノエルとわちゃわちゃしていていたらアンナさんから声がかかった。


 確かにその通りだ。


『はーい』


 俺達は会場の中のテーブルに料理が並んだ場所に集まった。そこにはターキーを初めとしたクリスマスに食べるであろう料理たちが所狭しと、とんでもない量で用意されていた。


 これは所謂ビュッフェ形式のパーティということみたいだな。


 こうして高校初めてのクリスマスパーティが始まろうとしていた。

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