第453話 骨折り損のくたびれ儲け
俺とアキは忘年会の買い出しに学校近くのスーパーに行って、沢山の食べ物と飲み物を買いこんできた。これだけあれば七、八人程度何も問題ないだろう。
そして、その金は全て俺が出してやり、荷物もマジックバッグの中に入れるふりして影の中に放り込んで俺が持っている。
「いや~、悪いな。全部出して貰ってよ。その上荷物も持ってもらって」
しかし、アキは全く感謝するどころか、申し訳なさそうな顔さえしない。ニヤニヤとした意地の悪そうな笑みを浮かべて俺を見ている。
全く感謝も罪悪感ももっていなさそうだな。
「いや、そんなこと言うならもっとそういう顔しろよ」
「へっへっへ。たまには良いだろ。俺が良い思いしても」
俺が少し不機嫌そうに言ってやると、さらに笑みを深めるアキ。
「はぁ~、全くしょうがないな。今日だけだぞ」
まぁこいつには俺が色々見せつけてしまっている自覚が芽生えたので、たまにはこういうのもいいか。
「はっはっはっ。分かってるじゃないか、親友よ」
「全く、調子に乗るな」
ただ、こいつはその顔のまま肩に手をまわして肩を組んできたので、俺はその手を振り払ってずんずんと歩みを速めた。
「あ、待ってくれよぉ~!!」
後ろからアキの情けない声が聞こえたけど、無視して先に進んだ。
「おかえりなさいませ、旦那様、佐倉様」
「はぁ~、霞さんただいま」
「ただいま」
寮に戻るといつものように霞さんが出迎えてくれて、俺たちが返事を返しながら靴を自身の下駄箱に収める。
「皆さますでに食堂にお揃いになっています」
「え!?早すぎないか?」
「ああ。買いだししてくるって言ってたしな」
「それになんで食堂?」
「流石に狭いと思ったんじゃないか?」
「それもそう……か?」
すでに声を掛けた人たちは来ていて、しかもなぜか食堂に集まっているという。俺たちは買い出しをして戻ってきたらまた連絡するという話をしていた。別にそこまで遠くに住んでいるわけじゃないから戻ってきてから呼んでも問題ないはずだ。
それに確かに六人とか七人だとそれぞれの個室では多少狭い気もするけど、わざわざあの広い食堂にする必要性を感じない。
俺はなんとなく納得できない違和感を抱えたまま食堂に向かった。
「あ、おか」
「遅かったデスよ!!」
「あら、おかえりなさい」
そこには俺が呼んだ人たちが確かにいた。しかし、それだけではなかった。なぜなら、俺たちの分を除くすべての席が埋まっていたからだ。
それに、彼らは俺たちの方を見た。
「おい、皆待ちくたびれてるぞ!!」
代表で叫ぶのは勿論我らがダンジョン探索部元部長の早乙女先輩だった。生徒会長が変わったと同様にダンジョン探索部の部長も変わった。
先輩は大手の探索者クランからのスカウトが来ているし、ここにいる人はほとんどが探索者適性を持っている人達で、すでに本格的に探索者活動を始めている人達ばかりだから暇だったんだろうな。
俺がふと視線を感じる方を見て見ると、時音先輩がニヤリと笑っていたので、おそらくそういうことなんだと思う。
しかし、こんな人数は想定してないので、そんなことを言われても何もかもが足りない。
「いやいや先輩!!こんな人数の食料とか飲み物なんて用意していないですよ!?」
「準備できておりますので、お任せください」
俺が抗議すれば、霞さんが間髪入れずにどこからともなく現れて俺に頭を下げた。
「え!?ま、まさか霞さんが?」
「はい旦那様」
「はぁ……そうですか。それではお願いします」
「畏まりました」
どうやら霞さんはこんなこともあろうかとパーティの準備を多くしてくれていたようだ。流石現代のメイド。まさか数人の忘年会が五十人以上になることまで想定しているとは。
ただ……。
「俺ら買い出しにいった意味になかったな」
「それな……」
アキの言葉通り、俺達は完全に骨折り損のくたびれ儲け状態だった。霞さんが料理を持ってきて並べ始め、あまりに速すぎて霞さんが何人もいるように見える。これが一流のメイドの技なのか。
皆も驚いていて、言葉を失っている。普段は自分たちが来る前にすでに準備されているから皆は知らないのかもしれないけど、霞さんはSランク探索者の資格を持っていたりするに違いない。
そうでなければあれほどの身のこなしはできない筈だ。
「準備が終わりました」
「あ、ああ。ありがとう。ほらアキ、挨拶はお前だ」
「はぁ!?」
ものの数分で料理の準備を完了させた霞さんに狼狽えつつも先を進める。今回の忘年会の挨拶はアキだ。
「そりゃあそうだろ。発起人はお前だからな。頑張れよ」
「こんの!!押し付けやがったな!!」
「違うだろ。お前が考えたことなんだから、さっさと挨拶してこい」
「ほら、早くしろ!!皆待ってるんだからよ!!」
「あ、はい、すみませんでした!!」
アキは突然指名されて俺に噛みつこうとするけど、早乙女先輩が急かすとビシッと気を付けをして頭を下げた後で、俺の方を忌々しそうに睨みつけながら全員の前に歩いていった。
俺はニコニコと手を振ってやった。
「えー、本日はお集まりいただきありがとうございます」
「とっとと始めろ!!」
「あ、はい!!今年も一年お疲れ様でした。かんぱーい!!」
『乾杯!!』
アキが何も考えてなかったなりにそれっぽい話をしようとする。しかし、先輩のちゃちゃが入って、すぐにまとめて乾杯の音頭を取った。
俺達はそれに合わせて猛烈に飲み食いを始めた。
ある程度飲み食いをした後は、個人的に余興をやりたい人がやったり、歌を歌ったり、踊りを踊ったりして盛り上がった。
お酒があったわけじゃないけど、皆はしゃいだおかげかきっと忘年できたんじゃないかと思う。
それからあっという間に二学期が終わった。
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