第449話 世界を守る深淵乙女と犬(第三者視点)
ここは、海外のとある街の近郊の森の入り口付近。
―ブーンッ
まるで古いテレビの電源が入った時のような電子音が辺りに鳴り響く。その音と共に空中に真っ黒な渦のようなモノが現れた。
その渦は最初は三十センチ程しかなかったが、どんどん大きくなり、最終的には直径十メートルほどまで拡大し、渦の一番下の部分が地面に接するような状態になる。
「グガガガガッ」
「グギギギギッ」
「グゴゴゴゴッ」
状態が固定されてから数十秒ほど経つと、中からゾロゾロと異形の者達姿を現してくる。その数、一匹や二匹ではなく、数十匹、数百匹と数を増やしていった。
見た目は小学生低学年程度の体のゴブリンや高校生程度の身長のホブゴブリンと呼ばれる欠食児童のような体型のモンスターに近いが、それぞれ鎧と武器を持っており、野良のモンスターではないことが窺える。
そして、最後にひと際大きな存在が姿を現すと、それまでに出てきていたモンスター達が跪いた。
「グォオオオオオオオオオオンッ」
最後のモンスターは、ゴブリンやホブゴブリンと違い、二メートルを超える肉体を持ち、まるでプロレスラーのような体型をしていて、豪華な装飾が施された鎧を身に着け、まるで人間をそのまま剣にしたようなサイズの両刃の洋剣を頭上に持ち上げて雄たけびを上げる。
このモンスターはゴブリンキング。
先のゴブリンたち同様、装備をきちんとしている点が明らかに普通のゴブリンキングとは違っていた。当然それは威圧感や戦闘力にも表れていて、ダンジョンに出てくるボスモンスターと比べても圧倒的に上だった。
『ウォオオオオオオオオオオッ』
それにより、跪いていた配下らしきモンスター達も立ち上がり、全員が抜剣してボスと同様に掲げて呼応する。
「グォ」
彼らは森から近くの道路に出て、キングの指示に従い、人間の居る街に行軍を始めた。
―ブオオオオオオオンッ
道には当然車がやって来る。世界人口が激減している上に、郊外ゆえにそこまで車どおりが多いわけではないが、この時は運悪く通りがかったのである。
「うわぁああああああ!?」
カーブの先の森から突然現れたモンスター達に驚き、森とは反対側に突き進む。
しかし、その先に見えるのは崖。そのまま進めば崖下へと真っ逆さまだ。
ただ、恐怖からパニックになった運転手は、その異形の集団から逃げるのに必死で前を見ているのに見ていない状態になっていて、進行先が崖になっていることに気付いていなかった。
「あっ……」
そして気づいた時には時すでに遅し。車は空中に投げ出されて、後は落下を待つばかり。
終わった……。
運転手は浮遊感と共に真っ青な表情になって自分の死期を悟った。
…
…
…
しかし、くるであろう衝撃は一向に来る気配がない。
「一体何が……」
運転手は意味が分からず、窓の外を見るが、良く分からない。ただ、何故か自身の車が空中を移動し、崖のあった方に戻って行っていることだけは分かった。
数十秒の後、地面に下されると、運転手は唯々呆然としていた。
「グォオオオオオオオンッ」
一方でゴブリン軍たちは突然現れた車に興奮状態になるが、自分たちから遠ざかっていったため、スピードを上げて街の方に進みだした。
しかし、その行軍も数十秒ほどで止まった。
なぜなら、地面から黒い影がいくつも飛び出してきて、ゴブリン軍団を取り囲んだからだ。
「グゴゴゴッグゴッ」
ゴブリンキングが何かを叫ぶ。それは何者だと言っているようだ。
「あなた達は
それを察したのか、黒い影から出てきた。これまた黒い衣装をまとった女性が現れて返事を返す。
その女はすっかりヒーロー気取りになっている黒崎零その人であった。
「薙ぎ払え!!」
零は、ケイオス含む、影魔軍団に指示を出す。それにより影魔達は一斉にゴブリン軍団に一斉にとびかかった。
『グギャアアアアアアアアアッ』
その瞬間、ゴブリンとホブゴブリンは頑丈な鎧ごと切り裂かれ、絶命していく。ゴブリンたちは突然の襲撃になす術がない。
「あ、もしもし。そっちは大丈夫かしら?ええ、はい、はい」
零は戦闘中にも関わらずかかってきた電話を取り、全くゴブリンたちを気にしている様子がない。終いにはゴブリンたちに向かって背中を見せる始末。
「グォオオオオオオオンッ」
ゴブリンキングはあっという間の惨殺劇と、自分の前方に居る女の態度に憤慨して零に襲い掛かる。
「全く……遅すぎるわ」
「グォッ!?」
零は大剣が自分に当たる寸前まで待ってから振り向いて話した後、ゴブリンキングの前から姿を消した。
そんじょそこらのダンジョンのモンスターと比べれば圧倒的に速い動きのゴブリンキングであるが、それはあくまで一定のモンスターまでに限る。
常日頃Sランクモンスターなどを相手にしている零にとっては雑魚もいいところであった。
次の瞬間、ゴブリンキングの後ろの現れた零。
「グァアアアアアアアアッ」
それと同時にゴブリンキングが粉々に切り刻まれた。
「ああ。ごめんなさいね。今終わったわ。そう。分かったわ」
地面のゴブリンの残骸が落ちるのを見届けた零は思い出したように片手に持っていた電話を耳に当て、返事を返して電話を切った。
「ウォンッ」
「ふぅ。ケイオスお疲れ様。あなたたちもね」
『ウォンッ』
零は自分の前に揃った影魔達に労いの言葉をかけると、全員嬉しそうに返事をした。
「それにしても空の次は陸?それじゃあ、次は海かしら……」
そこで少し考え事をする零。
今世界中で黒い渦からモンスターが現れる事象が観測されていた。そのほとんどは影魔と零、そしてアビスガーディアンのメンバー達がつぶしている。
今世界が保たれているのは、偏に影魔達の活躍のおかげであった。
「これに海からもモンスターが侵略して来たら、流石に手におえないかもね……」
零は不吉な独り言を残して、その場から姿を消した。
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