第447話 い、いなくなってる……(第三者視点)

 触手が寄り集まり、一つの大樹のような形を形成している一室。


 そこでは異形の者たちが膝をついて息を乱し、服装もいたるところが破れ、体のあちこちに裂傷を作っていて、血を流していた。


 その血の色は赤ではなく、青や紫といった人ではありえないような色をしている。


 完全に人ではない証である。


「一体何がどうなっている……!!」


 フードの男がダメージを追いながらも声を荒げる。そのフードも少し破れており、その中からは骸骨のような骨が見え隠れしていた。


「申し訳ございません!!転送が失敗したようです」

「原因はなんだ!!」


 側近である黒い靄はすぐに端末をいじっていてエラーが出ていることを確認し、魔王に伝えると、魔王はさらに質問を続ける。


 その質問に応じながら端末をいじる黒い靄。


「おそらくこちら側の力が大きすぎたのではないかと推測されます」

「それはつまりどういうことなんだ!!」


 エラー内容をから判断できることを魔王に伝えるが、より具体的な説明を要求される。


 黒い靄としては原因が分かったが、その原因だけにとても言いづらかった。しかし、説明を求められれば答えざるをない。


 ただし、その答えによっては自分が消し去られてしまう可能性もある。


 そのため、靄は意を決して話し始める。


「大変申し上げにくいのですが、私たち四天王と魔王様の力が強大だったため、ダンジョンシステムを介しての転送ができなかったのではないかと思います。どうやら魔界と異世界との間には結界が張られており、特に魔王様のお力は私たちなど足元にも及ばないほどに絶大のため、システムに設定された世界を渡る際の結界にひっかかってしまった可能性があります」


 この世界は魔族たちを閉じ込めるために作られた牢獄。


 当然簡単に外に抜け出されてしまっては困る。だから、その境界には結界が張られていて、世界に影響を及ぼすほどの強大な魔族が外に出ることが出来ないようになっていた。


 しかし、その結界は今まで引っかかることがなかったのと、隠されていたために気づかなかったのだ、


 今回はその結界に引っ掛かってしまったため、エラーを引き起こして全身を引き裂かれるようなダメージを全員に与えられた上に、世界を飛び越えることが出来なかったというわけだ。


 その結界は本来なら魔王以上の存在が作り上げたシステムゆえに、魔王にさえ少なくないダメージを与えたのである。


「なんだと!?それはどうにかできないのか?」


 魔王としてはようやく普人に復讐する機会がやってきたと思っていた矢先の出来事。出来れば今すぐにでも普人の許に赴き、家族諸共葬り去ってやりたかった。


 そのためにも対応策を求める。


「結界そのものを破るか、結界の対象範囲を変更するか、結界に引っ掛からないほどに力を抑えるかしかありません。ただ、力を抑えると言ってもただ自分で治めればいいというわけではありません。如何に抑制されていても内包されている力が結界にひっかかるほどに高ければ意味がないのです。持っている力自体を抑えなければ意味がありません。結界を破る、結界の対象範囲を変更するということはあの方が作ったものなのでどうにもできませんが、力を抑えることが出来るのであればどうにか通り抜けることはできると思います」


 黒い靄は現状とることが出来る対策を上げた。


 今出来ることとしてはなんとかして自身の持つ力を結界に誤認させるような何を手に入れる以外に世界を渡ることが難しいと言えた。


「ふむ。なるほどな。分かった。この魔界にはこの荒れた大地に適応した様々な魔生物が生息している。その中にはそういう生物がいるということもあるかもしれん。全軍をもって探し出すのだ!!」

「ははっ」


 魔界は荒廃しており、動植物は多くない。しかし、全く生物がいないというわけではない。そして、その生物にはこの荒廃した世界で生き抜くだけの特殊な力を持っている存在も多かった。


 そのため、靄が提案した力を抑制するような生物がいる可能性があったし、中には体力を吸ったり、魔力を吸ったりする生き物がいることからその可能性は分の悪いものではなかった。


 魔王は一刻も早く地球に侵攻するため、その生物を探し出させることにした。指示を出した魔王は姿を消した。


 黒い靄たちはその威光に従うため、すぐに支持を出すために動き出す……はずだったのだが、靄は違和感に気付いた。


「何人かいない……?」


 その違和感とは元々いた魔族たちの人数が足りないということだった。


「すみません、そっちではだれかいなくなったりしてはいませんか?」

「む。た、確かに見当たらないものがおる」

「こっちもだ」

「私もです」


 黒い靄は他の同僚たちにも尋ねてみると、確認した結果、どうやら各々に属するメンバーがいないことが分かった。


「やはり……」

「どういうことだ?」

「転送は失敗しましたが、完全に失敗したわけではない、ということです」

「つまり、今足りない部下は転送された、と?」

「おそらくは……。ただ、どこに転送されたかは分かりませんが。完全にイレギュラーでしたし。ダンジョンに跳んだかすらわかりません。通信も届かないようですし」

「それは死んだと見たほうが良いだろうな」


 彼らはいなくなった部下は転送された挙句、そのはざまで死んだか、転送された先で死んだかのどちらかであると結論付ける。


 どちらが正解かといえば、それは後者だった。


 なぜならその転送された先こそ普人達の学校の体育館だったからだ。彼らは全て一瞬のうちに普人、アレクシア、天音、ノエルの四人によって殲滅されたのである。


「そうですね。仕方ありません。各々足りない人数を補充しておいてください。」

「了解した(分かった)(分かりましたわ)」


 彼らはいなくなった魔族を補充するため、力を抑える生物を探すため、部下に指示を出し、その場を後にするのであった。

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