第428話 着せ替え人形

 時音先輩の家から無事に飾付に必要な品を借りてきた俺達は再び日常生活へ。そして文化祭の準備の方も、俺達は後は学内でコーディネート班からの指示で必要な作業を行うだけになった。


「インスピレーションが沸いてきたデスよ!!うぉおおおおおおっ!!」


 ノエルは時音先輩の実家に行ってガチのメイドさんと執事たちを見たことで創作意欲が沸いたのか、猛スピードでメイド服と執事服を何種類も作成し始めている。


 すでに何種類くらいかは出来上がっていた。


「頑張れー」


 シアはこの前と同様にノエルの応援をしながらモキュモキュとスイーツを食べている。


 今日は以前着ていたメイド喫茶のような可愛らしさを重視したものではなく、露出が少ないけど、アニメや漫画でよく出てきそうなクラシカルなタイプを着ていた。


 儚さを感じさせる銀髪ロングヘアージト目系無表情メイド。


 うん、これはこれでとてもよろしいと思います。美少女は何を着たところで美少女には違いないし、似合ってしまうものだけどね。


 料理班は実家が喫茶店やケーキ屋を営んでいる人間が中心となって、何を提供するのかを決め、その材料は俺たちがとってきて、今は試行錯誤しているところのようだ。


 他のクラスでも喫茶店をやるところがあるのか、今では調理室で張り合いながら甘い匂いを垂れ流し、試作品や余り物をシアが食べているという寸法である。


「できたぁ!!デスよ!!」


 時音先輩の家に行ってから一週間ほど経ち、遂にノエルはメイド服と執事服を何種類か作り上げていた。


 たった一週間で十種類以上作り上げたのはもはや人間業ではないのではないんじゃないか。


 いや、探索者だし、なんだか特別仕様のミシンを自前で持ってきていたみたいだからどうにかできるんだろうな。あまり考えないことにしよう。


「これより、メイド服、執事服の投票を行うデスよ!!」


 そしてこの日、どのメイド服と執事服を採用するかの投票が行われることになった。


 勿論モデルはシア。


 この日には、クラシカルなメイド服、メイドカフェ的なミニスカメイド服、和服をモデルにした和風メイド服、チャイナ服をメインにしたメイド服、巫女服っぽいメイド服、セーラー服的なメイド服の六種類だ。


 実はここに残らなかった没案も存在する。なぜ没になったのか。それはエッチすぎるからだ。下着や水着みたいなメイド服、露出が多すぎるフレンチなメイド服、バニーガールのようなメイド服は極めて危険だったので、ここでのお披露目はなしだ。


 俺だけは事前お披露目にて見せてもらったけど、あれは破壊力が高すぎるし、シアの肌を見られるのは不快だったので却下した。


「エッチなのは夫の前だけ」


 そんな風に言われてますます逃げ場を失っているのは気のせいだろうか。


 俺はその時思わず冷や汗を流すのであった。


「それではまずはこのメイド服、デスよ!!」


 それはさておき、ノエルの進行によりにメイド服姿のシアが教室内に入ってくる。


『うぉおおおおおおおっ!!』


 その瞬間、男たちの野太い叫ぶ声が室内を揺らした。最初はクラシカルなメイド服。俺は一度見ているからそうでもないけど、皆は違う。


 初めてみる超絶美少女のメイド服に興奮してしまうのは無理もない。


「結果発表~!!デスよ!!」


 それから都度六度にわたって興奮冷めやらぬ叫び声を聞いた結果、俺たちのメイド服が決まった。


「今回は和風メイド服で行くデスよ!!」

『うぉおおおおおおおっ!!』


 最終的に採用となったのは、和服とスカートが合わさり、エプロンを付けているタイプのメイド服。再びその恰好をして現れるシア。


 やはり可愛いな。クラシカルなメイド服を着ている時と違って髪の毛をまとめているのも非常に良き。


 時音先輩の家は明治辺りを感じさせる洋風な内装なので、いかにもその頃の女子の服装というイメージのある、着物や袴女子の雰囲気を持つ和風メイド服が選ばれたらしい。


 男子の方は白い巻き毛のカツラに半ズボンと絹靴下、上着は派手なジュストコールというヤバい衣装は事前に合わせた際に却下し、燕尾服かタキシードということで決まった。


 モデルはなぜか俺。


 自分ではそれほど分からないけど、スパエモの力で生まれ変わった俺なら似合うとアキがガンガン推してくるので、着せられることになった。


「え?あれがあの佐藤君なの?」

「信じられないんだけど……」

「かっこよくない?」

「かっこよくて、すでにDランクで将来有望。そして何より強い。これって実は優良物件?」


 女子たちが俺が俺が執事服で教室に入ってくるなり、何かひそひそ話をしていた。俺は高校デビューに失敗した時依頼にみんなの前に立つので滅茶苦茶緊張してしまって会話など全く聞こえなかった。


 結果として男子は優美な雰囲気のある燕尾服を着ることに決定した。


「あとは、人数分作るだけデスよ!!」


 服が決まったのでノエルはさらに張り切ってサイズを忍者の分身のごとき動きで測り、再び服を作り始めた。


 後にあまりに完成度の高い衣装にこぞってノエルに服を依頼しようとする人間が現れるのだけど、それを知るのは少し先のことだった。

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