第423話 危うい平和(第三者視点)
ここはダンジョンではない、地上に存在する鬱蒼とした森林。
入り込めば、コンパスもおかしくなって右も左も分からなくなり、太陽の光も差さない程に木の葉が重なり合って茂っているので、すぐに遭難してしまうような危険地帯。
しかし、そんなことなど知らぬと言わんばかりに縦横無尽に移動する影があった。
「ウォンッ」
『ウォンッ』
森の中で他の影と合流し、奥地辿りついた影魔たち。
なぜ、ここに影魔たちが集まっているのかと言えば、ダンジョンではないのにも関わらずモンスターの大量発生が確認されたからだ。
影魔一体では処理が追いつかないため、近隣にいた仲間を招集したのであった。
モンスター倒しながらその発生源の範囲を絞り、包囲作戦で進んでいき、モンスター発生の領域を徐々に狭めている。
すでに半径百メートルほどの範囲までその原因となっている場所を特定しているので、そろそろもうすぐその原因が見てくるはずだった。
「ワフッ」
『ワフッ』
数十分後、ラックの包囲網以上のスピードで現れるモンスターを蹴散らし、モンスターがあふれ出している場所を見つけた。
そこにあったのは黒い穴。つまりゲートであった。
「あっちゃー。ここにもやっぱりあったんですか?ラックの兄貴?」
そこに突如として一人の黒ずくめの服を着て、忍者のような格好の人間が姿を現す。声により男だということが分かる。
「ウォンッ」
ラックの影魔の一体が肯定するように首を縦に振った。
「あれってゲートってやつなんですよね。その先には別の世界が広がっているっていう」
ゲートを初めて見るその人物は、見たまんまなので間違っていないと思いつつ、知識を持っている影魔に確認をとる。
「ウォンッ」
「あのエルフたちがそう言ってたんでしたっけ?それにしても別世界にはモンスターが腐るほど居るんだなぁ」
再び同意する影魔。
目の前でモンスターが殺戮されていく様子をのんきに見ながら、エルフと初めて顔合わせした時のことを思い出す。
たしかにダンジョンなどというファンタジー溢れる構造物が現れた世界ではあったが、エルフなどという存在が本当に実在するとは思わず、自身を含む、アビス・ガーディアンに喜んで―半ば強制的に―参加した彼らは目が飛び出るほどに驚いていた。
今ではそんなエルフとも仕事仲間である。
「それじゃあ、いっちょ、お願いしますわ」
『ウォンッ!!』
影魔に依頼する黒ずくめの男。影魔たちは勢いよく返事をすると、殲滅に参加しているのとは別の個体達が口の前に光を溜め始めた。
「うひゃあ。絶対あんなの食らった一瞬で蒸発する。ほんとに仲間でよかったぁ……」
男は、影魔たちの口元に集積していく光のエネルギーの波動を感じながら身を震わせる。
―ゴゥッ!!
そして数秒後、その光は一気に解き放たれ、モンスターがあふれ出してくる原因である黒い穴に直撃した。
その光は普人とラックが初めて邂逅した際に、放ったブレスと同じものであり、当時よりも何倍も威力が増している。
そんなものが直撃したら人間など、
―バチバチバチッ
ゲートと影魔たちのブレスがぶつかり合い、目と鼻の先に雷が落ちたかのように錯覚するような轟音を鳴らす。
―バシュンッ
数十秒ほどせめぎあっていた二つの力だが、ゲートの方が耐えられなくなったのか、その黒い穴は姿を消した。
「お疲れさまでした」
『ウォンッ』
任務が終わった影魔は散開し、男は転移してその場から立ち去った。
一方、太平洋上空。
「いやぁ、まさか今でも空のモンスターが発生しているなんて知ったら、各国のトップは顔を真っ青にするでしょうね」
空飛ぶ影魔に跨って、空のモンスターを狩っている黒ずくめの男。先ほどまでジャングルにいた人物とはまた別の人間である。
彼の言った通り、確かに一度は制空権を取り戻した人間であったが、どこからともなく再び雲が現れて、モンスターを生み出すようになっていた。
幸い世界中に現れるわけではなく、一定期間に一つ出現する程度のため、影魔空戦部隊によって殲滅されているおかげで、人類は今も飛行機による輸送ができている。
「モンスターも減ってきたみたいですし、突入しますか」
空のモンスターたちもあっという間に影魔に殲滅され、雲の中へと入り込む。そしてその中心にたどり着くと、やはりそこには黒い穴が存在していた。
「それじゃあ、お願いしますよ」
「ウォンッ」
ここでも地上と同様に影魔たちのブレスによってゲートを破壊した。
最近はこういうことが世界中のあちこちで起こっていたが、世界中に散らばる影魔たちによる監視体制により、現状では未然に防げている状況だった。
また、とある事務所にて。
「うーん」
一人の女性がうなる。部下からの報告書とにらめっこいしてるのだ。
「これはダンジョンとはまた別の存在……なのかしら」
その女性は黒崎零。普人のパーティメンバーであり、表向きはともかくとしてアビス・ガーディアンの実質的なリーダーである。
彼女は報告書を見ながら、システマチックなダンジョンとは違い、何者かの明確な意思を感じ取った。ただ、ダンジョンも時折、誰かの意思が介在するかのような事件が起こることがあるので、その存在と同一なのかどうかを測りかねていた。
「情報が足りないわ。最悪ゲートを通ってあちら側にいくことも考えなければいけないかしら。でもゲートの先は未知数。ダンジョンもまたいつおかしくなるかもしれない現状では動きづらいわ。今はひとまず現状維持としておきましょう」
零はもうしばらく様子を見ることにした。
世界は常に危機にさらされながらも、零と部下、そして世界中に散らばる影魔達によって辛うじてその平和が保たれていた。
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