第418話 汚ねぇ花火だ

 キャンプファイヤーの周りでは踊りたい奴らが囲んで踊っている。危険なのであまり近づかないようにしているため、その輪は大きい。


 最近いろいろあったにしては皆の表情は明るい。むしろその不安や悲しみを忘れるように楽し気に振る舞っているのかもしれない。


「今日はあっという間だったな」

「ん」

「そうデスよ」


 俺の呟きに反応するのはシアとノエル。アキは輪の中で踊っている。


 バスで移動して登山して、バーベキューをして下山して、ダンジョンに行ってカレーを作り、気付けばあたりはもう真っ暗。


 こんな行事ならもう数日くらい続いてもいいとは思うけど、世界同時スタンピードや飛行モンスターによる休校になることが多かったので、余裕はないだろう。


 それどころか、どこかで夏期講習みたいに集中して遅れている分を取り戻す必要があるかもしれない。


 そう考えるとげんなりしてしまうなぁ。


「皆で野営するみたいで楽しい」

「確かに似ているデスよ」

「そうだな」


 シアとノエルも隣でキャンプファイヤーを眺めながら呟く。シアの顔は炎に照らされていつもよりも神秘的で可愛らしい。


「ん?」

「い、いや、なんでもないよ」


 しばらくその顔に見とれていたら、シアが俺の方を向いて首を傾げる。僕はとっさに視線を逸らして首を横に振ってごまかした。


 目が離せなくなったなどとは言えない。


 しかし、なぜかシアはピトリとくっついて俺の方に頭を預けてくる。俺は少しドギマギしながらもシアが何も言わないので、そのままキャンプファイヤーを見つめていた。


「あっ。ずるいデスよ!?」


 しばらくして気付いたノエルも反対側で同じようにする。


 いったいどうしてこうなった……。


―ズドォオオオオオオンッ


 ただ、なんだかんだその楽しい平穏は、すさまじい轟音によって壊されてしまった。


「ギャオオオオオオオオオオン!!」


 なぜか突如としてキャンプファイヤーの上に巨大なモンスターが現れたのである。


『キャァアアアアアアアアアッ!!』


 そのせいで蜘蛛の子を散らすような騒ぎとなった。


「アースドラゴン!?ちっ!!すぐに抑え込め!!」

『了解!!』


 その姿はとんでもなくでかいトカゲに見えたけど、どうやらドラゴンの一種らしい。近くにいた先生たちが換装して武装し、すぐにドラゴンに立ち向かう。


「おい、佐藤!!他の教員も呼んで来い!!」

「え?」


 目の前にいるドラゴンはどう見てもBランク程度。そんな焦らなくてもいいと思う。


「え?じゃない!!さっさとしろ!!」

「は、はい」


 俺はこの事態を知らせるために別の場所で待機している教員を呼び行く。


「あ、こら、葛城!?」


 しかし、先生の声で俺は足を止めて振り返った。そこにはドラゴンに肉薄して剣で、下から上へと切り上げようとしているシアの姿が映る。


「ふっ」

「ギャアアアアアアアアアアッ」


 ドラゴンは切れることなく痛みで叫びながら空へと打ちあがった。どうやらシアは魔力で切れ味を強化していなかったようだ。


「イチャイチャを邪魔する奴は許すまじ!!デスよ!!ライトニング!!」

「やぁ!!」


 そこにノエルが詠唱を完了したらしく眉間にしわを寄せて、魔法をぶっ放し、シアも魔力を込めた斬撃を下からいくつも放った。


 空数百メートルにぶちあがったドラゴンにその魔法と斬撃が直撃。


―ドーンッ


 ドラゴンは木っ端みじんにはじけ飛んだ。


「へっ。きたねぇ花火だ!!デスよ!!」

「ん!!」


 その様子を見たノエルはどこかで聞いたことがあるようなセリフを両手を腰に当てドヤ顔で叫び、シアも隣に並んで同じようにポーズをとった。


 こうしてドラゴン騒動は数秒で終わりを告げた。


 それにしてもさっき一瞬ドラゴンが現れた時に黒い穴が見えたような気がするんだけど、気のせいだろうか。


 黒い穴といえば積乱雲の中にもあったとラックが言っていた。もしかしたら空の件も含めてまだ事体は終わっていないのかもしれない。


 嫌な予想が俺の頭をよぎる。


 しかし、今はせっかくドラゴンを倒して二人が満足そうにしているのでその雰囲気を壊さないようにひとまず心の中に留めておくことにきた。


「はぁ……強いとは思っていたが、これほどとはな……」


 先生は二人の姿を見て何やら呆れるように呟いている。


「先生、まだ他の先生を呼びに行く必要がありますか?」

「いや、いい。私が直接行く。それよりもお前たちはここでおとなしくしていろ。い・い・な?」

「は、はい……」


 しかし、何もしないわけにもいかず改めて先生に尋ねたら、先生は首を振り、俺に首を刺すように詰め寄るので、その迫力に思わず首を縦に振った。


「でも、動かなきゃいいんだよな?」


 この後、どうせ皆を探しに行かなきゃいけないんだろうけど、面倒だからラックに頼もう。


「ラック、生徒たちを全員ここに転移させてくれ」

「ウォンッ」


 俺が指示を出してラックが鳴くと、次の瞬間には逃げたはずの生徒達が姿を現した。


「え?あれ?ここは?」

「穴に落ちたはずなのに……」

「急に浮遊感があったと思ったらここは……」

「キャンプ場?」


 突然戻ってきた生徒たちは困惑している。パニックになっていないのは幸いだ。


「さすが俺の獣魔だ」

「ウォンッ」


 俺は見事に仕事を果たしたラックを撫でまわす。


「はぁ!?なんで生徒たちがいるんだよ!!」


 そこに先生が戻ってきて素っ頓狂な声を上げた後、思いきり叫んでいた。

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