第392話 尋問

「これから、有罪となったお兄ちゃん達の尋問を行います」

『はい』


 俺と東雲さんは俺の部屋で正座させられている。勿論東雲さんは服を着直していた。


 なぜこうなったかと言えば、東雲さんがレベル上げのお礼と言って、いきなり服を脱ぎだした場面に七海がやってきて目撃されたからだ。


 ただ、俺は絶対に悪くないと声を大にして言いたい。


「あの~、俺は……「シャラップだよ、お兄ちゃん!!」


 そう言おうとしたら、七海にビシリと指を付けられ、俺の言葉は叩き落されてしまった。


「まず、このような事態になった経緯を話してください」

「はい……」


 七海の進行によって俺は包み隠さずに東雲さんとのレベル上げの事を話した。元々一緒にレベル上げにいくことは話していたので、特に問題ないと思う。


「うーん。話を聞く限り有罪になる要素が見当たりませんでした。次は東雲さん?お願いします」

「え、あ、あの、あなた達は一体……?」


 七海に話を向けられた東雲さんは困惑する。


 七海は俺からの説明では東雲さんが、裸になる理由が見えてこないので、東雲さんに尋ねたけど、そもそも東雲さんは零と七海とは初対面だ。さらに四人は一体何処からやってきたんだと言う疑問もあると思う。


「あ、私は佐藤七海。お兄ちゃんの妹だよ!!」

「私は黒崎零。佐藤君のパーティメンバーね」

「私たちの説明はいらないわね」

「ん」


 各々が簡単な自己紹介をする。


「そ、そうですか……わ、私は東雲凛と申します……それで今回のことですが佐藤君は何も悪くありません……私が勝手にやったことです……」


 東雲さんは腑に落ちたのか、いきなり現れたことには触れずに、自分も自己紹介した後で、さっきのシーンに付いて弁明する。


 東雲さんはレベル上げ前より人に対しての怯えが少なくなったのか、声は小さいものの、聞き取れる音量かつ、以前よりもハッキリとした口調で話した。


「それじゃあ、なんでお礼が服を脱ぐことだったんですか?」


 七海が今回の騒動の確信に触れる。


「あ、あの……私は本当に自分で戦えなくて……今回佐藤君に頼んで……自分でも敵を倒せるようになって……レベルも沢山上がって……とても感謝しているんです……でも……何を報酬にあげたらいいか分からなくて……」

「ふーん。なるほどねぇ……。それだけですか?」


 東雲さんが今回の行動に至った理由を述べる。しかし、七海は何か含みのある言い方でさらに問い詰めた。


「えっと……実は、レベル上げの途中にエリクサーを何本もいただきまして……もう、これは体で支払う位しか思いつかず……」

『エ、エリクサー!?』


 東雲さんの返事にシア以外が驚きの声を上げる。シアはアホ毛も特に反応を示しておらず、別におかしいと思っていないらしい。


 俺もそんなに驚かれる理由が分からない。


「お兄ちゃん!!エリクサーなんて使ったの!?」

「あ、ああ。エリクサーなんてそこらのダンジョンで簡単に手に入るだろ?余ってるし、別にいいかなって」


 七海が血相を変えて俺に尋ねてきたので、俺は狼狽えながらも肯定した。


 そこそこ珍しいアイテムではあるけど、モンスターからのドロップアイテムでいつも手に入る物だし、別にそんなに気にするほどの代物じゃない。


「あぁ~、そうだった。佐藤君はそういう人だったわ」

「あぁ~、私も思い出した」

「はぁ~……お兄ちゃんってばホントにもう……」


 そしたら、俺の返事に何か皆呆れたような表情をした。


「ふーくんは両親にもエリクサーをくれた。好き」


 シアだけは相変わらずマイペースで反応が違ったけど。でもこんな時にそんなことを言われても反応のしようがない。


「皆一体どうしたんだ……?」

「はぁ……あのね、佐藤君」

「は、はい……」


 困惑する俺に零が頭を抱えながら話し始める。


「エリクサーは確かに佐藤君は沢山持っているかもしれないけど、どこかに販売したらどのくらいの価値があると思う?」

「ひゃ、五百万円くらいですかね?」

「全く違うわ。最低価格が五億円くらいよ」

「ご、五億!?」


 零にエリクサーの価値を問われる。


 上級ポーションは百万円くらいだったはず。エリクサーなら五倍くらいはするかな。


 そう思って答えたら、まさかのその百倍だった。


「そう。あなたはそんなアイテムを東雲さんにあげてたのよ?分かる?レベル上げに付き合ってもらって、数十億なんて金額のアイテムを送られたら、確かにこういう判断になってしまうのもおかしな話じゃないわ。まぁ数千万でも充分おかしいけどね」

「た、確かに……」


 言われてみて初めて気づく。俺たちにとって数千万ってボーナス魔石を監禁すればすぐに到達する金額だし、数十億も何日か探索すればいける範囲内だ。


 でも、東雲さんがそうとは限らない。探索者の裏試験も同学年の奴らは、まだ何も知らないみたいだしな。


 俺は裏試験の熟練度を上げてるから今の状態に居られるわけで、皆はまだエリクサーを手に入れられないんだ。


「ということで、やっぱり今回の件はお兄ちゃんが悪いということに決定しました!!」

「え!?」


 エリクサーの件を納得した所に、七海が改めて判決を言い渡す。


「その内、お兄ちゃんには罰が言い渡されるので、おとなしく待っていてください。それじゃあ、またね、お兄ちゃん」

「私たちは、シアちゃんと東雲さんを寮に送り届けるわ」


 驚愕している俺に、七海と零が声をかけると、五人が連れ立って部屋から出て行った。


「はぁ……寝るか……」


 なんだか疲れた俺は眠りについた。

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