第377話 幕開け

 様々な動きが激しさを増す中で本日、その一つの決着がつく。


 それは生徒会長の選挙だ。


 真面眼鏡先輩とギャル先輩が付き合うことになり、生徒会長選挙を辞退してから西脇先輩と神崎先輩の二人は、壮絶な演説バトルを繰り広げていた。


 片や北条時音生徒会長から指名を受けた後継者候補神崎杏先輩。片や元副生徒会長であり、生徒会長を支えながら様々な実務をこなしてきた西脇周防先輩。


 神崎先輩の方針は、後継者というだけあって時音先輩のやって来たことを踏襲しつつ、現在にそぐわない部分に関しては、時代に合わせて変化させていこう、という物だ。


 対する西脇先輩の方針は、旧態依然とした無駄な行事や作業などが多いので、出来るだけ効率化を行い、より重要なことに力を注いでいくようにしていく方針だった。探索者の育成に関しても全員が同じカリキュラムと言うのは手間がかかるので探索者資格のランクによる実習の免除などを謳っていた。


 個人的にはシアとパーティを組むことで実習と試験への参加を強制されているので、嫌という訳ではないけど、無くなるのなら嬉しいということで、西脇先輩推しだ。


「これはかなり票が割れるかもなぁ」


 俺達は今生徒総会に参加するために講堂に集まっていた。周りの人間達のひそひそ話を盗み聞きしてきて戻ってきたらしい。


 いつもこんな風にして情報を集めているのか?


「そうなのか?」


 どちらもワンマンというか傲慢な学校運営をしていこう、という感じじゃないから最悪どちらでも構わないと思っていたため、そこまで世論というか、生徒達の評価と言うのは気にしていなかった。


 しかし、アキの事を聞けばその理由に興味が出る。


「ああ。ある程度話を聞いて回ってきたけど、本当に同じくらいの割合だった。やっぱり神崎先輩の自信のなさが足を引っ張っているみたいだな。そして西脇先輩の方針に賛同している人間も増えている。結果的にトントンになっている感じだ」

「それは中々熱い戦いになりそうだな」


 しかし、接戦となるとなると、お互い最後の演説で皆の気持ちを掴まなければならない。今回は中々白熱した生徒総会になりそうだ。


「んだなぁ。俺としては可愛らしい女の子の方が生徒会長がいいから神崎先輩をおしていくけどな」

「お前は本当にブレないな。まぁそれが良いところなんだけど。俺は悪いけど西脇先輩かなぁ。別にどっちの方が優れているというつもりはないけど、やっぱダンジョン探索部のルールが変わってくれるのは助かる」


 アキと俺で意見が割れる。


 しかし、アキの理由はいつものことなので責めたり、説得したりしようとは思わない。むしろ意見が一貫していて呆れを通り越して感心する。


「確かにお前は今更ではあるけど、探索者枠で入ったわけじゃなくて一般の特待生だからな。アレクシアちゃんに付き合わされるのは嫌か?」

「いや?」

「嫌ってほどじゃないけど、無くなるならそれに越したことはないだろ」


 俺がさっき考えていたことをトレースするように尋ねるアキ。それと同時に反対方向からシアも同じように質問してきたので、俺は肩を竦めて答えた。


「かぁ~!!アレクシアちゃんみたいな女の子と一緒にダンジョンに潜って実習受けるなんてご褒美だろうに。むしろ俺なら無くなってほしくないね!!全くこの贅沢者が」

 アキは忌々しげに俺に怒鳴る。


「そういう考え方もあるわけか。でもそれなら学校の実習っていう縛りがない方がいいな」


 でもどうせ一緒に潜るなら監視役が付いたり、評価されたりするのは面倒だ。気兼ねなくラックを外に出して楽しく探索したい。


「へーへー、のろけてくれちゃって。お前はアレクシアちゃんとプライベートでもパーティ組んでるもんな。実習がなくても一緒だもんなぁ!!いいよなぁ!!」


 さらに不満を爆発させるアキ。


 今度みんなに誰かいないか確認して、紹介してやった方がいいかもしれない。


「ん。今度一緒にレベル上げいく」

「それも悪くないな」

 

 最近は仕事のことばかり考えていたがので、何も考えずにレベル上げや探索するのも悪くないなと思う。


「いいなぁデスよ」


 そんな俺たちを指をくわえて羨ましそうに眺めるノエル。


「まだだめ」

「分かってるデスよ。七海様の御許しを待つデスよ」


 しかし、やはり何か取り決めがあるのか、まだパーティに入ることはできないらしい。


 特にその決定に七海が関わっているということは気になるところではあるけど、七海がおかしなことを言うはずはないので、何か理由があるのだろう。


 俺が突っ込むところじゃないんだろうな。


「そろそろ始まるようだぞ」


 アキが俺達に知らせる。


 ザワザワと騒がしかった周りが徐々に静かになっていく。俺達もみんなと同時に佇まい正して正面を向いてきちんと椅子に座る。


「さて、一体どっちが生徒会長になるんだろうな?」

「ん」


 俺が一人呟くと、シアが俺のつぶやきに反応した。


 こうして決戦の幕が明けた。

 


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