第364話 激戦?
「私はそれがいいと思う!!」
「ん」
「分かりやすくていいんじゃないかしら」
俺が提案した名前に皆好意的だ。
アビスガーディアン……。
しかし、思い付きで提案したものの、よく考えてみると零に負けず劣らずの厨二性能を兼ね備えた名前になったような気がしないでもない。
「……」
零は気に入らないみたいで沈黙してしまっている。
これは止めた方が良さそうだな。
俺は別の名前を考えるため、今考えた名前は一旦止めることにする。
「いや、やっぱな「負けたわ。佐藤君……私の完敗よ……」」
しかし、俺がとり消そうと首を振りながら話し出した途中で、被せるように零が悔しそうな表情を浮かべながら拍手をして自身の負けを宣言する。
どういうことなんだ?
「アビス、それはつまり深淵。ラックの影、シャドウでは少しスマートさに欠けることからそっちを選択したのね。そしてガーディアン。これは守護者。プロテクトやディフェンスなどの言葉もある中で、このガーディアンを選ぶところにセンスを感じるわ。つまり深淵の守護者。これは完璧すぎる名前よ!!」
「止めろ!!説明するな!!」
俺のネーミングを朗々と解釈を混ぜながら称賛する零。俺は恥ずかしさの余り叫ぶ。
「どうしてかしら?こんなにも素晴らしい名前なのに?」
零には俺が止める理由が分からないらしく、彼女はコテリと首を傾げた。
そんなに可愛らしく言ってもダメだぞ!!
「わざわざ説明する様なものでもないだろう。それにその名前はダメだ。違うのにする」
「こんなに素敵な名前を買えるなんて言語同断。ここは全員のそれぞれの名前から挙手で選ぶことにします」
俺は改めて説明され、自分の厨二心が思いのほか育っていたことに身震いした。そこで俺の候補を取り消そうとしたが、議長役の零の却下されてしまった。
「いやいや、却下だ」
「駄目です。まずは七海ちゃんの出した『お兄ちゃんハーレム』が良いと思う人は巨してください」
俺が食い下がるも零は聞く耳を持たずにすぐに各案の投票を始める。
『……』
七海が考えたネーミングには誰の手も上がらない。
本人も一切微動だにせずに動かない。
「それでは次にアレクシアちゃんが出した『ふーくんと黒いモフモフ』が良いと思う人は挙手してください」
『……』
再び誰の手も上がらない。七海の時と同様にシアも手を挙げない。アホ毛もバツマークを作っていて、自分が考えた名前を選ぶことを拒否していた。
しかし、俺は自分以外に手を挙げる必要がある。
そして四人の中で一番マシだと思う名前はシアの名前だった。なぜならラックのモフモフが可愛いから。
俺はビシリと手を挙げた。
「『ふーくんと黒いモフモフ』に一票ですね。それでは次に天音ちゃんが上げた『黒狼組』がいいと思う人は挙手してください」
『……』
三度目も誰も上がらない。
もう完全に俺か零のどちらかに絞られてしまった。
嫌な予感しかしない。
「それでは私のブラックパニッシャーか漆黒より洗われる者のどちらかが良いと思う人を挙げてください」
『……』
ここでも誰の手も上がらない。零の表情が少し悔しそうだ。しかし、それと同時に清々しさも感じられた。
あぁああああああ、もう完全に決まった流れじゃねぇかこれ。
「それでは最後に佐藤君が挙げた『アビスガーディアン』が良いと思う人は挙手してください」
『はい!!』
最後に俺が考えた名前が挙げられた途端、俺を除く全員が挙手する。
しかもしれっと母さんまで挙手してる。
一体何やってんだよ……。
しかも俺の方を見てニヤニヤしているし。
はぁ~……やっぱりそういう結果になりますよねぇ……。
俺は深くため息をついて項垂れた。
「はい。ありがとうございます。大変悔しいですが、多数決によりこれから発足する組織の名前は佐藤君の『アビスガーディアン』に決定しました」
『わぁああああああああああ!!』
零が皆の手を下げさせた後で名前が改めて決まったことを告げ、それに呼応するように皆が歓声を上げる。
「それじゃあ、各所がやってるうちに手続きに行ってくるわね」
すると、すぐに零が椅子から立ち上がった。
「え!?もう行くのか!?」
そのあまりのフットワークの軽さに俺は驚く。
「そうよ。こんな素晴らしい名前なら他の誰かが登録してしまうかもしれないわ!!そうなる前に登録しないと!!それじゃあ、今夜は宜しくね!!」
零は俺に返事をするなり、あっという間に部屋から出ていき、気づいた時には家を後にしていた。
くっ。ここでごねれば止めさせられると思ったのに……。
零の動きが動きがあまりに早すぎた。
まさかこんなに早く手続きに行くとは思わなかった。
「クゥン?」
神妙な顔をして俯いていると、ラックが俺の心配そうにのぞき込んでくる。
零を追いかけるか、とでも言いたげだ。
「ああ、いや、心配させたみたいだな。大丈夫だ。決まったものは仕方ないさ」
俺は笑顔を作って安心させるようにラックの頭を撫で、諦めて決まってしまった名前を受け入れることにした。
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