第358話 候補

 週末があけ、また学校が始まる。


 先週は依頼によって休んでいないので、今週はローテーションで回すことでもっとゆっくりできるように心がけたい。


 出来るだけ沢山の人を助けたいとは思うけど、それによって自分が体を壊してしまっては元も子もない。


 俺はいつも通りの時間に目を覚まし、ラックと戯れながらニュースを見て、時間になったら食堂に向かう。


「おはよう」

「おう、おはよう」


 アキと挨拶を交わし、ほかの寮生達とも軽く挨拶をしながら食堂の椅子に腰を下ろした。


「なぁ。誰が勝つと思う?」

「ん?何の話だ?」


 アキが何かの話題を振ってきたけど、何のことか分からず首を傾げる。


「忘れたのかよ。生徒会長だよ」

「ああ、そういえばそうか。忙しかったからすっかり忘れていた」


 アキが呆れながら紡いだ言葉に、俺はそういえばそうだったと思い出す。


 九月も二週目に入り、本格的に生徒会長の選挙が始まるらしい。


「そういや、誰が立候補してるんだ?」

「それは……」


 アキが話してくれたところによると、生徒会長に立候補しているのは四人。全員が二年生だ。


 一人目は副生徒会長を務めていた、西脇周防先輩。彼は俺達一年生の寮生歓迎会で仕事をほっぽり出して俺たちとの会話に興じていた生徒会長を連れ戻しに来たのが、ファーストコンタクトだ。


 それからもしばしば似たような様子が見受けられていて、少し苦労人のような雰囲気が窺える。


 二人目は神崎杏。ちんまりした容姿と挙動不審な態度。その様子から草食系の小動物のようて可愛いと評判だ。


「守ってあげたくなるんだよな」


 それがアキの感想であった。


 しかし。おおよそ生徒会長に出るようなタイプではないと思って尋ねてみると、案の定他薦ということだった。


 他薦したのはなんと我らが生徒会長である北条時音先輩だ。現行の生徒会長であり、職務を全うした彼女からの推薦だ。それだけで支持率が高くなると思う。


 三人目と四人目は全く会ったことも見たこともなかった先輩達だった。


 一人は今時珍しい、委員長という言葉がピッタリの眼鏡を掛けた非常に真面目な先輩だ。


 不純異性交遊の完全排除。


 それが彼の掲げる公約であり、融通のきかない堅物と呼ばれていて、この人が生徒会長になると、色んな物が禁止されてしまうのでないか、と不安視されている。


 この人物が生徒会長になれば、女子生徒との会話さえ禁止されそうなので、支持率は低そうらしい。


 最後の四人目は、まさにステレオタイプのギャル。肌を小麦色に焼き、制服を着崩して、そこはかとなく無防備さを露呈していて、じつにけしからんようだ。


 彼女は探索者枠の生徒のため、真面目な一般枠の人に比べて、少々ハメを外している。


「あのおっぱいがなぁ……ぐへへ」


 アキは話しながら気持ちの悪い笑みを浮かべる。明らかに男子からの票を狙っている。


 また公約が「自由」。彼女が生徒会長になったらさっきの委員長とは正反対で、あまり堅苦しくない、大らかな校風にしたいようだ。


「まぁ、個人的にはギャル先輩に勝って欲しいところだけど、多分西脇先輩か神崎先輩のどちらかになると思うけどな」


 それぞれ紹介した上でアキの予想ではその二人に絞られているらしい。


 たしかに生徒会の仕事を知っているほうが、新しい仕事を覚えるのも、引き継ぎもスムーズに済む。


 それを考えるならその二人のうちどちらかが選ばれるのが妥当だと思う。


「おお、やってるな」

「ああ、そうだな」


 朝食を食べ終えて支度をした俺たちは学校を目指して出発したら、早速選挙活動に出くわした。


「私が生徒会長になった暁には!!」


 人一倍真面目そうなその姿は委員長だと思う。


 かなり熱心に演説しているな。人が聞いてくれているかは別として。


 内容がちょっと縛りつけが厳しすぎてあまり人の興味を引けていないらしい。


「おはようございます。頑張ってください」

「おはよう。ありがと……まちたまえ!!けしからん!!けしからんぞ、君たち!!」


 俺達はその前を通り過ぎる時に軽く挨拶をしたら、俺達を見るなら表情を険しく変えて、俺達を引き止めた。


「な、なんですか、一体!?」


 ツカツカと詰め寄ってくる委員長先輩に俺は困惑する。


「愚か者!!女生徒と並んで歩くなど言語道断!!」

「いや、そんなこと言われても、友人と一緒に投稿するのは普通のことですし」

「いいや、駄目だ駄目だ!!私が生徒会長になったら必ず禁止して見せるからな!!」


 俺に向かってツバを吐きかける勢いで俺に詰めよって叫ぶ委員長先輩。俺が反論しても一切聞く耳を持たない。


 女子に何か恨みでもあるのだろうか。


「くそっ……リア充どもめ。絶対に根絶やしにしてくれるわ」


 俺達を忌々しげに見つめる先輩。


 何か深い理由でもあるのかと考えたのも束の間、モテないことに対するただの私怨だった……。


「はぁ……それじゃあ俺達は行きますね」


 俺達を見つめているようで、未だにどこかを見つめながらブツブツと呟く先輩に、呆れるように声をかけ、教室を目指した。


『あれはないな』


 それが、俺、アキ、シア、ノエルが出した共通見解だった。

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