第359話 真面眼鏡先輩とギャル

「まさかあれで立候補するとはなぁ」


 授業が終わり、まだ探索自粛期間中の俺達はそのまま寮へと帰宅する。俺は委員長の鏡といっても過言ではない見た目の先輩を思い出しながら呟いた。


「気持ちは分からんでもないけどなぁ。俺は毎日見つけられているしよ。撲滅したくなる気持ちもわかるぜ?」


 俺がぼやくとアキがジト目で俺の方を睨み付ける。この前アキに言われて俺は案外青春を謳歌していることに気付かされたのでバツが悪い。


 俺は確かに高校デビューに失敗したはずだ。


 しかし、気づけば一人ダンジョンに潜っていたのにシアと出会い、七海が覚醒し、天音が加わり、零が保護者として付いてくれた。


 美少女と美女に囲まれ、ステータスがないながらもBランクモンスターを倒せるほどの探索者になれた。


 確かに客観的にみればリア充に見えても仕方がないので、俺は苦笑いを浮かべるしかできない。


「悪かったって。とはいえ、俺には謝るくらいしかできないんだけどな。それは置いておいて誰が選ばれると思う?」


 話が俺に悪い方が進もうとしていたので、平謝りしながら俺は話題を元に戻す。


「そうだなぁ。順当にいけばやっぱり後継者として指名を受けている神崎先輩になるんじゃないか?」

「やっぱりそういうことになるのか」


 後継者としての指名。


 そうはっきりと言われている訳ではないけど、前生徒会長から推薦を受けるということは、それだけで前生徒会長から生徒会長を任せられるだけの力を持っているとお墨付き貰っているようなものだ。


 そうなれば投票者の中の前生徒会長支持者の多くは後継者に票を入れるのは自然の流れだ。


「そりゃあそうだ。生徒会長からの推薦なんてシード枠みたいなものだろ。その次が副会長、次がギャル、最後がさっきの闇落ち寸前の委員長って感じだな、今所は」

「なるほどな」


 アキの予想は大よそ納得のいくものだった。


 ただ、ギャルと委員長は中々難しいところだ。もし二人しか立候補がいないのなら、ギャルよりは真面目そうな委員長を推すものじゃないのか?


「ただ、もし大逆転の可能性があるとすればあのギャル先輩だろうな」

「え!?なんでだよ」


 俺はアキの言葉に目を見開いて驚き、思わず聞き返した。


「自分で言うのもなんだけど、高校生なんて日々鬱屈したものを抱えているもんだ。あの先輩の公約は、自由。勿論行き過ぎたものは学校側が止めるだろうけど、今よりも校則や風紀が緩くなるのなら、あのギャル先輩に賭けてみようかなと思う奴もいるはずだ」

「はぁ~、なるほどなぁ」


 アキの説明に俺は感心する。


 確かに縛りが多くなればストレスも溜まる。実際ダンジョン探索部の試験やら実地講習やらは、探索者ランクを上げれば免除されるとかあってもいいはずだ。


 そういう面を解消してくれるのならギャル先輩でもいいと思う人はきっといるに違いない。


 ただ、あのギャル先輩はそういう面よりは、服装や持ち物、異性との交遊などの風紀的な部分での自由を掲げているようなので、そういう人たちとは合わなさそうだけど。


 実際一般の特待生枠で入学した俺だけど、探索者適性のある者ばかりが入る寮に入り、特に門限なども設定されていないことを考えると、別段不満に感じたことはないんだよな。


 髪の毛もオシャレとして染めるという意味は分かるけど、校則に反してまで染めようとは思わない。


「お、噂をすれば、と言う奴だな」


 俺達が校舎の外に出ると、朝見かけた真面眼鏡まじめがね先輩とギャル先輩が同じ場所で演説していた。


 ギャル先輩を直接見るのは初めてだけど、アキが言っていた通りの見た目で、確かにギャルだと思った。


「おい、君はなんで私の横で演説しているのかね!?」

「えぇ~、たまたま私がやろうとしたところにあんたがいただけだしぃ」


 真面眼鏡先輩はすぐ隣で演説するギャル先輩を鬱陶しそうに見ながら声を荒げると、ギャル先輩は全く諸共せずに面白がって笑って見せる。


 あの様子を見る限りギャル先輩は明らかに分かっていて嫌がらせでやっているに違いない。


「ふん、ならば私が違う所に行こう」


 真面眼鏡先輩は自分の邪魔をするギャル先輩に、移動したら意味がなくなるだろと言いたげな表情でその場を去ろうとする。


「あ、私も違う所に行きたくなっちゃったなぁ」


 しかし、ギャル先輩も猫のようなフットワークの軽さで後を追う。


「な!?なんでついてくるのかね!?」

「えぇ~!?メガネ君自意識過剰過ぎない~?」


 それを見た真面眼鏡先輩は狼狽えて声をあげるが、ギャル先輩はニシシと笑いながら真面眼鏡先輩をしたから覗きこむ。


「~~!?」


 真面眼鏡先輩は思わず顔を赤らめて顔を逸らした。


「ふむ。どうやら胸元に目を吸い寄せられたようだな。しかし、鉄壁の真面目さで目を逸らしたと」


 俺の隣で顎に手を添えて真面眼鏡先輩の行動を分析するアキ。


 止めてやれよ……。あんなに胸元を開けて前かがみになったらそりゃあ目が行くのも仕方ないだろ。男の本能として。


 それからもギャル先輩は真面眼鏡先輩の後をついて嫌がらせを続けるのであった。

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