第354話 間の悪い女(第三者視点)

 タイトなスーツを身に纏う美女、城ケ崎桃花。


「はい、はい。佐藤普人の件ですが、こちらからで向こうかと思いまして。え!?あ、はい、すぐに出向きます!!」


 彼女は普人に直接提案に行くことの許可を取ろうとしたが、本社から早く行けと怒鳴られて電話口にも関わらず、ペコペコと頭を下げながら電話を切った。


「許可を貰ったというか、急げと言われたわ。何かあったのかしら」


 本社の上司が慌てた様子だったので、首を傾げる桃花。


 桃花に情報を上げられて以来、本社側は諜報部を使って普人のことを調べていたのだが、その際に他のいくつかの組織も普人を狙っていることが判明していた。


 どこの組織も手だししておらず、にらみ合いが続いている状態だったが、普人達と新藤の接触によって均衡が崩れ、どこの組織もこぞって普人を獲得しようと動き出したという報告を受けた所であった。


 そのため、本社としては自分達もその戦いに急いで参戦しないと乗り遅れると考え、桃花を急がせたのである。


「さぁ?他にも狙っている組織が居て、それらが動きだしたとかじゃないですか?」

「~~!?それは一大事ね。急ぎましょう」


 桃花の呟きに後輩が適当に返事をするが、この後輩の言葉は当てずっぽうで言ったにも関わらず、状況を完全に当てていた。


 桃花はその何の根拠もない呟きを真に受けて、すぐに普人の所に行くための準備を促す。


「急ぎましょうって社員が誰もいなくなったら駄目でしょう?店長だけで言ってきてくださいよ」

「あ、それもそうね」


 後輩は桃花の言葉に呆れた声色で返事をすると、桃花は今気づいたとでも言わんばかりの表情で返事をして、すぐに荷物をまとめて外出した。


「ここが神ノ宮学園……」


 桃花は、巨大な学園に少し圧倒されつつも、中に入ろうとする。


「ここは関係者や約束がある方以外立ち入り禁止ですよ」


 しかし、守衛がやってきてあっさりと止められてしまった。


「あの~、ここの寮に住んでいる方に用があるんですけど……」

「ダンジョンアドベンチャーの店長?しかし、アポがある訳じゃないですよね?それじゃあダメです」


 下手に出ながら守衛に名刺を渡して取り次いでもらおうとするが、全く取り合ってもらえない。


「ま、まぁそうですけど、そこをなんとか!!」


 しかし、引き下がる訳にいかない桃花は、拝み倒し作戦に出る。


「何を言われても駄目なものは駄目です。お引き取り下さい」

「くっ。こうなったら、実力行使よ!!」


 桃花も探索者の端くれ。一般人よりも圧倒的に身体能力が高い。その力を使って強引に校門を抜けようとした。


「ダメですよ?」

「え!?」


 しかし、その動きにも守衛はきちんと対応してきた。守衛も探索者であった、しかもかなり高ランクの。


 桃花は腕を掴まれてしまう。


「キャー!!助けて、痴漢よぉおおおおおお!!」


 実力行使がだめだと分かった途端、えん罪作戦に切り替える。


 これはかなり卑怯な所業であるが、上司からきつく言われているので諦めるわけにはいかなかった。


「ちょ、あんた!?」


 高ランクの探索者と言えど、痴漢と間違われてしまってはどうしようもない。


「おい、あの守衛痴漢らしいぞ」

「マジかよ。守衛が痴漢とかヤバいでしょ」


 通行人が野次馬として集まってきてひそひそ話をし始め、中にはカメラを向けようとする人間までいる始末。


 そんなものに録られるわけにいかない守衛は、思わず手に力を緩めてしまった。


「今よ!!」

「あ!?」


 桃花も探索者としてのランクは低くないので、その隙をついて学園内に侵入を果たした。守衛はしまったという顔になるがすでに遅し。


 守衛も後を追いかけたいが、痴漢に間違われている現状で追いかけるわけにも行かず、桃花を取り逃してしまう。


「よし、成功!!」


 桃花はほくそ笑んで口内を歩いていく。


「確か寮は……」


 事前に校内の建物の位置関係は把握していたので寮へと向かう。


「こんにちはー」

「いらっしゃいませ。お客様。どのようなご用件でしょうか?」


 寮に足を踏み入れると、桃花は寮母である橘霞に出迎えられた。


「ここに佐藤普人君という生徒が居ると思うんですけど、お話させていただきたいと思いまして」

「大変申し訳ございません。佐藤様は現在外出しております」


 用件を伝えた桃花であったが、霞から伝えられた言葉は無常なものだった。


「え!?」


 桃花は思いがけない事態に驚愕する。


「えっと……どちらに行ったかとかは……」

「申し訳ございません。私には分かりかねます」

「そ、そうですよね……」


 念のため、普人の行先を霞に尋ねる桃花であったが、有能なメイドである彼女が知っていても居なくても情報を渡すわけもなく、途方に暮れた。


「あ、美しいお姉さん、どうかされたんですか?」


 しかし、そんな桃花の下に救いの神、佐倉孝明が現れた。


 彼は桃花を見るなり、その美しさに心を奪われて、仰々しい態度でクルクルとターンを決めて桃花の前にやってくる。


 手を取って跪いて手の甲に口づけして問いかけた。


「え、えっとあなたは?」

「俺は佐倉孝明。神ノ宮学園の一年生で、ここの寮生です」


 困惑して尋ねる桃花にまるで執事のように恭しく挨拶をする孝明。


「そ、そう。それで聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「ええ、なんなりと」

「佐藤普人君に会いたいんだけど、どこにいるか知ってる?」


 孝明の素性を聞いてこれ幸いと普人のことを訪ねる桃花。


「またアイツかぁあああああああああ!!」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいい!!」


 しかし、先程までの態度と打って変わって荒々しい態度で叫ぶ孝明に、桃花は恐怖した。


「あ、あの人です!!」

「分かりました」


 そこに守衛が女性の職員を連れてくる。


「ちょっと話を聞かせてもらえますか?」

「あ、はい」


 女性の職員が桃花の肩に手を置き、有無を言わせない雰囲気で尋ねると、桃花は涙目で頷くしかなかった。


 その後、学園の一室で桃花はこってりと絞られる羽目になった。





◼️◼️◼️◼️◼️


いつもお読みいただきありがとうございます!!


新作の執筆等もあり、来月から毎日1話更新になるかもしれません。


楽しみにされてる方には大変申し訳ございませんが、どうぞご理解いただければ幸いです。


引き続き宜しくお願いします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る