第350話 情報共有(第三者視点)

「ちょっと女子会するから普人君は適当に過ごしていてね」


 依頼の内容を話し終え、夕食を食べた後、零は突然そんなことを言った。


「おう、分かった」


 普人は特に拒む理由もないので頷く。


「覗いちゃダメだよ、お兄ちゃん」

「そうよ、女子会は男子禁制なんだからね」

「ん」

「酷いな。そんなことしないぞ」


 七海と天音、アレクシアが普人が近寄らないように釘を刺すと、普人はいかにも心外だという表情で肩を竦めて、ソファーに座ってテレビを見始めた。


「皆ついて来て」


 零は女子たちの方に向き直って神妙な顔をして促す。


「了解」

「ん」

「分かったわ」


 真剣な雰囲気を感じ取った面々は気を引き締めて頷き返し、瞳から飲み物とお菓子を受け取って七海の部屋に移動した。


「それでいきなり女子会をするっていうから話を合わせたけど、一体どういうことなの?」


 七海の部屋のテーブルに飲み物とお菓子を用意した七海、アレクシア、天音、零の四人。先程の零の言葉は完全にアドリブだったが、ただならぬ様子に全員が話を合わせて移動したのだった。


「それなんだけど、私たちは先日天音ちゃんの叔父さんと会ったじゃない?」

「ええ、そうね」


 天音の質問に零が問いかける形で聞き返すと、彼女は軽く手を挙げて頷く。


「事前に連絡を取って約束を取り付けて普人君含む私たちのパーティがどこかの組織の人と会うのってあれが初めてだったと思うの」

「そうだったかしら?」

「おそらくね」

「それがこの女子会とどう関係してくるの?」


 七海は未だの零が自分達を集めた理由が分からず、腕を組んでうーんと唸りながら再び尋ねる。


「それは、この際四の五の言ってる状況じゃなさそうだから七海ちゃんとアレクシアちゃんにも知っておいてほしいんだけど、まず前提として私たちのパーティは複数の組織に目を付けられているの。普人君は特にね」

「え!?」

「ん!?」


 零が二人がまだ知らなかったことを思い出して、前提条件を説明すると、七海とアレクシアが驚愕した。


 二人はまさかそんなことになっているとは全く思っていなかったのだ。


「ここではっきり言っておくと、普人君はおそらく世界最強の探索者よ。本人にその自覚はないみたいだけど」

「え!?そうなの!?」

「ん。入学したての頃から異常だった」


 零はさらに話を続け、七海はさらなる驚きを、アレクシアは同意する。


 七海が驚くのも無理はない。七海は探索者になった傍から普人くらいしか見る相手がいなかったし、その頃にはアレクシアもかなり強くなっていたのだから。


 一方でアレクシアは普人の力を目の当たりにして協力を依頼したのだから知っているのは当然だった。


「七海ちゃんはすでにおかしい状態になっていた普人君が基準になっていたから気付かなかったみたいけど、アレクシアちゃんは気づいていたのね?」


 驚かずに同意するアレクシアに伺う零。


「ん。両親を助けるため、出来るだけ早くレベルをあげたくて、学校に近くてダンジョンリバースが起こってランクが上がった朱島ダンジョンに忍び込んだ時、ふーくんに助けられた。ブラックコボリンの群れに嬲り殺されそうになったところに、ふーくんがやってきて一瞬で殲滅してた」

「ブラックコボリンはBランクのモンスター。探索者になったばかりの人間が太刀打ちできるような相手じゃないの。それを一瞬で殲滅できるってだけでそのおかしさが分かると思う」

「そうだったんだ……」


 二人の会話を聞き、七海は改めて兄の力を理解する。


「それに、あなたたちが見つけた野良のダンジョン。あそこはとんでもない場所だったわ。一階層からAランクモンスターが出てくるんだもの」

「えっと、お兄ちゃんとお姉ちゃんはピクニックでもするみたいに攻略してたんだけど……」

「ね?ヤバいでしょ」

「そうみたいだね……ははははっ」


 さらなる衝撃の事実を突きつけられて七海は苦笑いを浮かべるしかなかった。


 それと同時に当時のんきに普人達の後をついていっていたのを思い出し、もし二人が強くなかったら自分が無事では済まなかっただろうと思うと、思わず体が震えた。


「そして極めつけはあの海からのスタンピード。あれは私達だけだったら確実に数で押し切られてた」

「ああ~、確かにあの時はダメかと思ったかも」

「あの数は本当にヤバかったわよね」

「ん」


 最後の礼として挙げたスパエモに行ったときに遭遇した海からの侵略。あの時は各々命の危機を感じていたことを思い出す。


「私もあれは本当に死ぬかもしれないと思ったわ。でも、そんな状況もたった一撃でどうにかしてしまったのを考えれば、その異常さが分かるわよね」

「確かに」

「ん」

「本当よね」


 自身も同じ思いを共有しているので、同じように同意しながら、零はそんな状況さえ覆すことが出来る力を持っているということを力説する。


 それには他の三人も何度も頷いて同意した。


「そして、情報統制しているから少ないけど、私達と同様に普人君の力を理解している人たちがいるの。そういう人達が所属する組織に目を付けられているって訳ね」

「はぇ~、そんなことになってたんだぁ」


 七海は零の説明を受けて感心するように呟く。


「そう。それで今回の探索者協会豊島支部の緊急対策室の室長との接触。これによって、私達に目を付けていた組織達に、探索者協会が私達を取り込もうとしていると思われた可能性があるの」

「なるほど。そういうことなんだ!!」


 徐々に繋がっていく点と点。七海にも話が見えてくる。


「ええ。今回の普人君への女の子達の接触は、私達と探索者協会の接触によって、今まではお互いに牽制しあっていた各組織が、こぞって普人君の獲得に動き出した結果じゃないかと思うわ」

「あぁ~!!そういうことね!!」


 ようやく完全に話が繋がった所で、天音が頭にひらめきマークでも出したかのようにすっきりとした表情を見せた。


「ごめん。私が深く考えずに叔父さんと会わせたせいだね」

「んーん、気にしないで。私も気づかなかったし。それに、いい機会だと思うわ」


 しかし、次の瞬間この事態の引き金を引いたのが自分だということを理解して天音は力なく俯くが、零が慰めると同時に希望があることを伝える。


「どういうこと?」

「さっきも言った通り普人君の戦闘力は単体で最強よ。でも彼だけならどれだけの力を持っていても所詮は人間。出来ることと出来ないことがある」

「うんそうだね」


 天音は理解できずに尋ねると、零が話を続け、その内容に天音が同意した。


 普人だけでは普人がいない場所を守ったり、普人が行けない場所で情報を探ったり、できないことはたくさんある。


「でも、そこにラックが加わることで、出来ないことはほとんどないと言っていいほどの戦力になるわ」

「確かに」


 しかし、ラックがいるだけでその出来ない事のほとんどをカバーすることが出来る。ラックはあまりに優秀過ぎた。


「そうなると現状普人君本人もそうだけど、普人君が大事だと思っている人間も他の勢力に害される可能性はゼロに近いわ。だとすれば道は一つ」


 出来ないことがないということは、守りたいものを全て守ることができるということ。つまり、誰にも縛られる必要はないということだ。


 零は全員の顔を見回す。


「ふーくんが新規勢力になる」

「そういうことね」


 零と目が合った際に、アレクシアが自身の考えと同じ返事してくれたことで、零は我が意を得たりと頷いた。

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