第345話 接触
次の日の放課後、俺達は学校が終わるなり合流し、目的地である探索者協会豊島支部を目指した。
「あ、零がいるな」
「え?どこよ?」
「あそこだよ」
豊島支部の敷地の近くに辿り着くと、入り口の付近で零は柵に背中を預けて待っているのが見える。
とても目立つ容姿をしているにも関わらず、男も女も一切に零に見向きする事もなく近くを通り過ぎているので、少しだけ隠密系スキルを使用しているのかもしれない。
俺が手を上げて合図をすると、零は俺達に気付いて近づいてきた。
「よく分かったわね?」
「ん?少しくらいの隠密なら誰でも分かるだろ?」
零はやっぱり少し気配を消していたらしい。
でも全然本気ではなかったはずだ。
俺が見つけられるくらいには。
「まぁ……それもそうね」
零は少し考えた後、俺に同意するように頷いた。
「はぁ~、私も少しくらい隠密の練習しようかな」
『ムリムリ』
天音が何か思う所があったらしく、突然そんなことを言いだしたが、俺達全員が顔の前で手を横に振ってツッコミを入れた。
「なんでよ!?」
「どう考えてもあーちゃんって隠れられるようなタイプじゃん」
「ん」
皆から総バッシングを受けた天音が俺達に抗議したけど、七海が呆れるように返事をしてシアが同意する。
俺達がこんな風に叫んでも見向きもされないのも零の力だろう。
「滅茶苦茶心外なんだけど!?」
「ほらほら、そんなことよりも早く用事を済ませましょうよ」
「はぁ……それもそうね。ついてきて」
む~っと少し頬を膨らませる天音。しかし、零に諭され、ため息を吐いて気持ちを切り替えて俺達を探索者組合の敷地内を先導していった。
「あ、おじさん、連れてきたわよ」
「おお!!流石我が愛しき姪。ありがとう!!」
組合の建物の入り口の傍で待っていた俺よりも背が高く、ガッシリとした肉体を持ち、無精ひげを生やした男が天音に気付くなり、駆け寄ってきて手を広げて抱き着こうとする。
確かに記憶の片隅に彼に会ったことを覚えていた。間違いなく、俺が朱島ダンジョンでダンジョンリバースが起こった後で脱出した時に絡んできた男だ。
「だから抱き着かないでって言ってるでしょ!!このロリコン!!」
「ぐはぁっ!?」
天音はそんな叔父をボディブローで撃退。天音の叔父はふっとんだ。
「てててっ。天音~、流石に酷くないか?」
「この前も抱き着くなって言ったでしょ!?」
地面に叩付けられた天音の叔父は起き上がって頭を押さえると、涙目で天音を見上げるが、彼女は凄い剣幕で叔父に怒鳴り始めた。
たしかに年頃の女の子が中年の男に突然抱きしめられそうになれば、ああいう反応をしてもおかしくはないと思う。
そういうところが抜けてると言われる所以なんだろうな。
「分かった分かった……今度から気を付けるよ」
「全くもう……」
暫く怒鳴られていた天音の叔父は、両手をあげて降参のポーズして苦笑いを浮かべて頭を下げる。
天音は叔父の様子を見て腰に手を当ててフンッと息を吐いた後、表情を仕方ないなと和らげて叔父を立たせた。
「とにかくまぁこんな所じゃなんだ、中に入ろう」
天音の叔父は立ち上がって佇まいを正すと、俺達を伴って探索者組合内に招き入れる。
「みっともないところを見せたな。俺は探索者組合豊島支部緊急対策室室長、新藤一心だ」
セキュリティがしっかりしている区画にある一室に案内されるなり、俺達は天音の叔父である新藤さんから自己紹介から受けた。
「え、ああ、どうも。佐藤普人です」
「佐藤七海です」
「葛城アレクシア」
「ああ、宜しくな。座ってくれ」
俺達も名乗った後で、勧められるなり、コの字に設置されたソファーに腰を下ろす。
「零とは初対面じゃないんですか?」
「ああ。黒崎もこの業界は長いからな。何度か会ったことがあるから面識はあるな」
「そうね。仕事の関係で何度あったことがあるわ」
零が名乗らなかったのはやはりお互い知り合いだったからみたいだな。
「それはそうと、初めて会った時は名乗りもせずに悪かったな」
ソファーに座るなり、新藤さんが俺に軽く頭を下げる。
「いえ、気にしてないので大丈夫です」
「そうか。そう言ってもらえると助かる」
天音に言われるまで忘れていたので、特に気にした雰囲気を出さずに返事をしたら、新藤さんは安堵の表情を見せた。
「それで、今回俺に話があるという話だったんですが、どういう内容なんでしょうか?」
「君に、というよりは君たちにと言う方が正しいな。黒崎が依頼を受けて君たちはダンジョンの失踪事件に関連した調査を行っていただろう?」
俺は早速本題に入り、俺に対する依頼を尋ねると、新藤さんは少し訂正を受けたうえで、疑問形で俺達がダンジョン調査旅行をしていたことを述べる。
俺は判断できないので零に視線を向ける。
「はい、そうですね。それが何か?」
零が頷いたので肯定して、さらに質問で返した。
「ああ。最近パッタリと失踪する者がいなくなったんだが、未だに見つかっていない者が結構多い。調査に協力していたのなら君たちは転移に関してかなり詳しいだろう?だから、その捜索に協力してもらえないかと思ってな」
「なるほど」
七海の依頼で愛莉珠ちゃんを助けたように、未だに見つかっていない人がいるのか。
それを俺達に探してもらい、可能であれば救出までやってほしいと。
俺としては学校外の時間であれば問題ないけど……。
「分かりました。それなら私宛に機密依頼を出してもらえますか?」
俺の視線を受けて零が話を引き継ぐ。
「分かった。それじゃあ、引き受けてもらえるということでいいんだな?」
「最終的な判断は詳しい内容を見てからになりますが、不備やおかしな内容がない限りは受けさせていただきます」
そのままオッケーしない所は流石だと思う。
きちんと依頼内容を確認しないと思わぬ落とし穴がある可能性がある。国と言っても確認は必要だよね。
「流石にこの仕事を長くやっているだけあってしっかりしているな。勿論それで構わない。俺達もおかしな内容を盛り込むつもりはないからな」
「分かりました」
新藤さんが感心した後、零の返事を了承してくれた。
「よし、仕事の話も終わったし、学校での天音の様子を聞かせてくれないか?」
「はぁ!?」
仕事の話が終わった途端、にへらと表情を緩ませ、新藤さんは天音の日常的な話を聞きたがる。
天音が顔を真っ赤にして声をあげたけど、俺達は天音の普段の様子を話してやった。
「それでは失礼します」
「ああ、またな」
しばし雑談を楽しんだ俺達は、組合の前で新藤さんに見送られ、探索者組合豊島支部を後にする。
「あ、ちょっと待て」
「え?」
駅に向かおうとする俺に声をかけ、肩を組んでくる新藤さん。
「い、一体なんですか!?」
「いいか……天音は嫁にはやらんからな?」
俺は鬱陶しそうに尋ねたら、不機嫌な顔で俺に凄んだ。
「いや、彼女は唯のパーティメンバーで友人ですよ?」
「そうか、それならいいんだ」
俺にはそんな予定は一切ないので普通に返事をしたら、新藤さんはホッと安堵していた。
「普人君、何してるの~!!」
「あ、悪い悪い!!」
付いてきていない俺を天音が振り返って呼び寄せる。
「それじゃあ、また」
新藤さんを振りほどいて頭を下げると、俺は天音たちの元に駆け寄った。
「叔父さんに何を言われてたの?」
「いや、なんでもないよ」
天音が不思議そうに尋ねてきたけど、俺は首を振ってはぐらかして帰路についたのであった。
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