第327話 戦慄
零と合流し、ブルガリア料理を楽しんだ俺達は、次のダンジョンへと飛んだ後、すぐに零を休ませるため、転移罠の調査を行い、そのままダンジョンで一夜を明かした。
次のダンジョンはギリシャにあり、俺達はやってきた次の日に本島で一日観光してホテルでゆっくりと休んだ後、有名なクレタ島へと渡り、名所を回った後で、クノッソス宮殿の遺跡に立ち寄った。
クノッソスでは、隠し扉があり、それはあまり隠されているようには見えない程に堂々としていた。しかし、訪れた人間で隠し扉を見つけた者は誰もが開けようと挑戦するらしいが、誰もその扉を開けることが出来なかったらしい。
俺達はと言えば、ラックがいることによってそもそも開ける必要もなく、その扉の中に侵入することが出来た。
勿論うちのパーティの誇る感知班である零とラックがいればなんなく開けることが出来たが、周りに人の目が多すぎたので、一度誰の目も届かない場所へと移動して影に潜んで隠し扉の中に侵入したのである。
その中は、ダンジョンとは別の迷宮であり、そこでは、ミノタウロスを筆頭として、フェニックスやケルベロス、キマイラ、ヒドラ、グリフォンなどと言った神話で有名な伝説の生物たちと相対することになった。
『よかろう。そなたに付き従おう』
その中でもフェニックスは言葉を交わすことが出来、威厳を放つ存在であったが、七海の存在を気に入って、七海の従魔になった。
「宜しくね、ヒーちゃん」
「任せてピヨ」
従魔になった際に流石に炎を出したままでは外で過ごすのは難しいことと、大きさが問題になったので、姿を変えてもらった。
その姿は、真っ赤な燃えるような色と黄色寄りの朱色が混ざっていることを除けば、手乗りインコそっくりで、しゃべる姿も手乗りインコのソレそのものだったので、多少人前でしゃべったところで誤魔化せるだろう。
七海は嬉しそうに肩に乗るヒーコの頭を撫でている。
ヒーコというのは火の鳥の頭文字と邪馬台国の女王の名前からつけたらしい。我が妹ながら素晴らしいネーミングセンスだ。
うんうん。
ケルベロスとキマイラ、ヒドラに関しては対話することが叶わず、戦闘することになった。
しかし、俺達が直接戦うことはなかった。なぜなら、ここは任せろとラックが買って出てくれたからだ。
三匹の伝説の生物たちは、ラックと戦い、アッサリと下されたことでラックの配下へと収まった。
彼らは普段は人気のない山奥でのんびりと暮らすらしい。
ラックの影魔が見張り、人に見つからないようにするようだ。それなら問題も起こらないだろう。
そして最後に出会ったグリフォン。彼は、『わ、我との力比べに勝ったのなら、下ってやろうではないか』などと、震えた声の念話で力比べを所望してきた。
俺が相手になろうと思ったんだけど、「私も従魔が欲しいわ」と言って天音が俺達を羨ましそうに見つめるので、流石にダメだと断ることが出来ず、力比べの相手は彼女に譲ることになった。
「今日からあなたはグリちゃんよ」
『う、うむ、よかろう』
天音もアッサリと勝ったというか、力比べを挑んできておいて、グリフォンは何を思ったのか、一瞬で降参して天音に下った。
天音の後ろでラックが「ハッハッハッハッ」と荒い呼吸を繰り返しながら舌を出してジッとグリフォンを見つめていたので、何か関係しているのかもしれない。
ラックが動くたびにビクッと体を震わせているからな。
グリも体の大きさをどうにかしてもらったら、デフォルメされたぬいぐるみみたいな可愛らしい小さなグリフォンとなった。
ただ、あまりに安直すぎるネーミングセンスはうちの七海とは比べることすら烏滸がましいな!!
七海同様に肩に乗せているが、まるでぬいぐるみを乗せているみたいなので、天音がちょっと痛い人みたいになっているのは言わないでおこう。
ただ、ギリシャの迷宮探索は体感ではそれほど経っていなかったのだけど、なぜか外に出ると何日も経過していたので、残りの国では観光をしている時間が無くなってしまった。
それどころか、一日一国では夏休みの期限に間に合わなくなる始末。
その後はひたすらにダンジョン調査をして次のダンジョンに跳び、寝てはまたダンジョンの調査をするという行為を繰り返し、俺達はなんとか予定より早い、休みの最終日の二日前に帰還することができた。
「お疲れ様。調査に付き合ってくれて本当にありがとう」
日本に帰ってくるなり、俺達にニッコリと笑って感謝の言葉を告げる零。
「何言ってんだよ。水臭いな。それに俺達も滅茶苦茶楽しんだから。ちょっと楽しみすぎて帰って来れるかどうか怪しかったくらいだ。な?」
俺は照れ笑いをしながら気にするなと伝え、皆にも同意を促すように問いかけた。
「うん、めっちゃ楽しかったからお互い様だよ!!」
「ん。楽しかった」
「私もとても楽しかったわ。グリちゃんとも出会えたしね」
俺に問いかけられた三人は各々零に嬉しそうに返事をする。
「そう。それなら良かったわ。それはそうと、四人とも凄く楽しんでいたのはいいんだけど、宿題は終わっているのかしら?やってるのをみたおぼえがないんだけど」
ただ、その後の零の言葉で俺達は戦慄し、顔を青くすることになった。
そう。
世の中の学校の夏休みには当然宿題がある。調査旅行しながらしようと思っていたけど、すっかり忘れていた。
『忘れてた!!』
俺達四人は声を合わせて叫んだ。
それから俺達は、皆で佐藤家に集まり、必死になって宿題をこなす羽目になった。
夏休みの宿題は計画的に終わらせような!!
そうじゃないと俺みたいなことになるぞ!!
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