第319話 聖女の危機
俺たちは国の上層部たちの醜態や国の暗部を曝け出す秘密を回収し、ノエルが居る場所へと戻ってきた。
―バキッ
もう誰にも気兼ねする必要はないので、俺達はどうどうと歩いて柵を破壊し、敷地内に入っていく。
空が白んできてもうすぐ夜明けと言ったところだ。
「主様~!!酷いのじゃ~!!」
空から蝙蝠の姿のまま俺達の元に降りてくる生物がいた。
「ん?あ、ミラか?」
「そうなのじゃ!!我を置いてどこかにいくとはどういう了見なのじゃ!?独りぼっちは嫌なのじゃ~」
蝙蝠は俺の目の前で変身を解いて、俺に抱き着いてくる。
「おっとっと。あぁ~、悪い悪い。すぐ敵を倒しに行ったから連れて行くのを忘れていた」
俺はバランスを崩して転びそうなりながら受け止めてやった後、苦笑いを浮かべて返事をした。
やっべぇ~、完全に忘れてた。ミラには空からの偵察を任せて、連絡はシア経由でやっていたので、近くに居なくてそのままここに置いていってしまった。
「全く酷いのじゃ!!」
ミラは目の端の涙を浮かべてむぅ~っと俺の顔を睨んでくる。
その顔は全く怖くなくてむしろ可愛らしく、ほっぺがモチモチしてそうだなとか関係のない感想が浮かんでくるけど、俺は頭を振って振り払った。
「すまんすまん、甘いものでも買ってやるから機嫌を直してくれ」
「むぅ~、仕方ないの。食べ放題で手を打つのじゃ!!」
俺がポンポンと頭を撫でると、にへら~とご満悦といった表情になるミラ。しかし、すぐにマズいと思ったのか、すぐに顔を引き締め、不承不承といった表情を取り繕って条件を追加する。
そのくらいなら何の問題もないな。
「おお、いいぞ。今度連れて行く」
「うむ。それなら許すのじゃ!!」
俺がその条件を飲むと、ミラはにっこりと笑って許してくれた後、俺の胸に顔を埋めた。
「んほーっ!!スーハ―スーハ―。若い男の匂い!!香しいのじゃ!!」
「やめい!!」
「ぶへっ!?」
何をするのかと思ったら俺の匂いをこれでもかと吸い込んで幼女とは思えないような恍惚の表情を浮かべだしたので、俺はミラを地面に落とした。
「何するのじゃ!!せっかく主様の匂いを堪能していたのに」
「気持ち悪いことをするんじゃない!!」
「そうだよ!!お兄ちゃんの匂いをクンカクンカしていいのは私だけなんだからね!!」
ムキーっと俺に突っかかって聞きつつ、実際は俺の体の匂いを嗅ごうとしているミラを押しとどめていると、七海がドヤ顔で胸を張って答える。
一体いつからそういうルールになったんだ?
俺の知らぬ間に七海ルールが制定されていた。
「ん。私も嗅ぎたい」
「え!?」
ここにまさかのシアの参戦。
ま、まさか……。
「い、いや、私はそんなことしないから!!」
「そうよ!!私も変態じゃないわ」
俺はまさかと思って天音と零の方を見ると二人は慌てて手を振って顔をブンブンを左右に振った。
ふぅ……、流石にこの二人は常識があるらしい。
俺は心から安堵した。
「はぁ……。今はそんなことしてる場合じゃないだろ。ノエルの所にいくぞ」
『はぁーい』「ん」
俺は三人に向き直り、七海とミラ、そしてシアが返事をして再びノエルの居る小屋を目指して歩いた。
―コンコンッ
小屋の前の辿り着いた俺は今度は正面から堂々とノックをする。しかし、返事がない。
「かなり体調が悪そうだったから、あの後またすぐ寝たかな?」
「そうかもしれないわね」
暫く待ってみたけど、なんの返事もないので、独り言をつぶやくと、その呟きを天音が拾って答える。
「うーん、起こすのも悪いし、起きるまで俺達も休むか」
「それもいいんじゃない?私達も遊んでこの時間まで起きてたし、眠いもの」
「それじゃあ、そうするか」
俺は後ろを振り返り、一番近くにいた天音とやり取りをしてノエルが起きてくるのを待つことにした。
俺達も一日遊び倒したし、突然こんなことになったからな。
―ギギィ~
しかし、俺達も休もうと思って準備をしようとしたその時、ゆっくりとドアが開いて中からひょっこりとノエルが顔を出す。
「どちら様ですよ……?」
顔を出したノエルは顔は真っ青で今にも倒れそうなほどだ。
「あ、あなたを助けるように依頼を受けた者です。だ、大丈夫ですか?」
「え、あ……」
「おっと」
俺は思わず尋ねたけど、ノエルは俺の顔を見た途端、ふらりと倒れてきて俺がそれを抱きとめた。
「勇者様、すみませんデスよ……」
懸命に顔を起こして謝るノエル。
「いやいや、そんなことよりもこれを飲んでください」
「だから……それは……飲めないですよ……」
あまりに体調の悪そうなノエルにすぐにエリクサーを差し出したけど、まだ事件が解決していないと思ったのかノエルは飲むことを拒否する。
「もうあなたを害する軍も国の上層部もいません。国民も勿論殺されたりしないので安心して飲んでください」
「そう……なんですか?ふふふっ……やっぱりあなたは……私の勇者様ですよ~……」
「おい!!」
俺が再度もうノエルを脅かすものはいないと説明してエリクサーを渡そうとしたんだけど、国民が害されることはないと知った途端、ノエルは力を失い、俺は急に重くなったノエルに驚愕して叫ぶ。
「どうしたの!?お兄ちゃん!!」
「大変だ!!ノエルが気絶した!!」
七海がただならぬ様子に慌てて声を掛けてきたので、状況を伝える。
「私に見せてもらえるかしら?これでも多少医術の心得があるわ」
「あ、ああ、分かった」
冷静な零が身を乗り出してきたので、俺はすぐに小屋の中のベッドの上にノエルを寝かせると、零が診断を始めた。
「この子……このままじゃ死ぬわ……」
数分後、呆然としている零の口から出たのは残酷な言葉だった。
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