第266話 日本の秘密兵器(第三者視点)
「報告!!ハーバードゥマウンテンに穴が開きました!!」
「またか!?一体どうなっている!!」
その日、アメリカのとある一室は騒然となっていた。
それもそのはず。ロサンゼルス付近の山という山に突如として大穴が空き、地形が大きく変わってしまったからだ。モンスターが溢れた影響で登山などをしている人間がおらず、被害が出ていないのが幸いだった。
ただ、現在の所なぜそのようなことが起こっているのか分からず、他国の侵略か、はたまた未知の知的生命体による侵略活動か、それとも凶悪なモンスターがダンジョンから出てきてしまったか、など色々な憶測が飛び交い、蜘蛛の子を散らすような騒ぎだ。
「入電!!SSSランク探索者のカイザー氏がディスティニーランドにて日本人の観光客に絡み、トラブルになった模様!!」
下っ端らしい若い男が焦った様子で室内に入ってきて、その場を取り仕切っているリーダーに、全く関係のない情報を齎した。
「またアイツか!!強いからって好き放題しやがって。今はどこの国も核を保持していないし、モンスター達によって余裕がないからこそ保たれている平和だというのに、日本人観光客に何かあったらどうするつもりだ、全く。多大な金を払えばもみ消せなくもないが、そろそろあいつの女癖の悪さに目を瞑るのも限界だぞ……。まぁいい。それは後でどうにもなる問題だ。そんな下らないことを報告している暇があったら、さっさと他の奴らと同じようにこの謎の事件の原因を解明しろ!!」
リーダーは若い男からの報告に、カイザーの悪行を思い出しながら悪態をつく。
カイザーの女癖の悪さはアメリカ上層部で知らないものはいない。今まで何度も同じようなことを繰り返してきた。その度に相手に多額の金を握らせて黙らせてきたが、カイザーの悪行は目に余る。
ただ、アメリカでも最強の探索者であるため、上層部も強く言うことが出来ないのだ。しかしそれでも、リーダーにとっては今はそんなことよりも目の前の問題を解決する方が大切だった。
そのため、報告してきた男に他のメンバーと同じ作業をさせようと指示を出した。
「あの……その前にカイザー氏なんですが、話によりますと相手の日本人観光客に瞬殺されたようです。その時の証言で空を割っただの、山を削ったという話がありました」
「なんだと!?あのカイザーが負けた!?」
―ザワザワッザワザワッ
報告に来た男は逡巡しながら報告を続けると、リーダーは大声を出して驚いた。
仮にもアメリカ最強の探索者だ。性格はクソだが、確かに実力者なのだ。そんじょそこらの相手に負けるはずがない。
「それが誤報だという可能性は?」
「ディスティニーランドで観測した人間が多数おります。おそらく事実かと」
「そうか……」
確認のため報告にきた男に尋ねると、報告が嘘である可能性は極めて低い。
つまり、いつの間にかSSSランクよりも強い日本人がアメリカにやってきていて、もしかしたら侵略行為を受けるかもしれないということだ。
日本の秘密兵器かもしれない。国防上そのまま野放しにしておくことはできない。
「空を割った、山に穴をあけた、というならあのカイザーに勝つことが出来るのもさもありなんということか。しかし、先程から口頭での説明ばかりだが、写真や動画などの情報はないのか?」
報告に来た男は先ほどからデータや証拠を出さずに証言のみを報告していた。普通であれば、その状況を動画で撮っている人間が沢山とは言えずとも、必ず数名は居るはずだ。
そのデータがないことに疑問を持ったのである。
「それが……その日本人のうちの一人が魔法を使用すると、辺りの携帯電話やカメラなども壊れてしまい、そういったデータが一切ないんです」
「ちっ。そこまでやってきたか。ただ、スマホなどで撮られたくないと言うことはやましい事をしている証拠だ。すぐにその日本人たちを確保に向かう。証言だけでは少し弱いが、本人たちが罪を認めればどうにでもなるだろう。その日本人たちはどうした?」
報告してきた男の返答に忌々し気にリーダー。しかし、すぐに思考を切り替えてその怪しい日本人たちを捕まえて吐かせることにして、日本人たちの居場所を尋ねる。
「どうやらディスティニーランドを出た後はラスベガスの街に向かったようです」
「そうか。お前たちもよく聞け!!今回の事件の容疑者らしき日本人のグループが浮かび上がった。これから確保に向かう。全員すぐに準備をしろ!!」
『はっ』
居場所が分かったリーダーはすぐに支持を出し、部下たちも一人を除いて返事をして、すぐに動き出そうとした。
「あの~、そのカイザー氏が敗北するような兵器みたいな相手をどうやって確保するんです?」
しかし、報告に来た男が恐る恐る手を上げて、山に穴をあけ、空を割るような凶悪な兵器である相手への対抗手段について尋ねる。
『……』
その場にいた誰もが口を噤み、沈黙が支配した。
「と、兎に角、今は国の存亡の危機だ!!これでもこの国の国防を預かる者達か!!近隣の軍にも依頼してすぐに確保に向かうぞ!!」
『イ、イエッサー!!』
その沈黙をリーダーが破り、強引に発破をかけると、全員が慌てて返事をし、ラスベガスの街に向かった。
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