第256話 眼福プク
突然壁面から噴き出した液体によってずぶ濡れになった俺達。ただの水ならよかったのんだけど、なんだかネットリと粘性のある液体で、体中がべとべとになった。
「いやぁーん。べとべと~」
「ねばねば」
「なにこれ、気持ち悪い!!」
「体中べとべとね」
ただずぶ濡れになるだけならまだしも、なんだかよく分からないねばねばした液体をかぶるのは非常に気持ちが悪い。
これもジャックとジョージが来たくなかった理由の一つだと思う。
ただ、女の子達がねばねばした粘液に濡れる姿、特に、髪の毛や顔、そして肌に少し白く濁った粘液が残り、嫌そうにしている姿は非常に艶めかしくて、健全な男子高校生には目に毒だった。
特に鎧の類を身につけていな天音や零は肌に服が張り付いて、それはそれは男心にダイレクトアタックするほどに淫靡な姿。
七海は?と聞かれるかもしれないけど、七海はぺったんこだし、そもそも妹なのでうんともすんともいわなかった。
「七海、綺麗にしてくれ」
もっと見ていたい俺だったけど、気づかれるのもマズいし、目に毒だから、断腸の思いで早々に七海に洗い流してもらうことにする。
あの姿を見ながら探索するのは気が散っていけない。
「うへぇ……分かった。皆息を止めてね。ウォーター!!」
七海が杖を掲げると、上からザバーっと滝のように水が降り注いだ。俺はそれでねばねばを洗い落とした。皆も同じように洗い落としていた。
「ウォーム!!」
その後で七海の魔法で全員の水分を乾かしてサッパリとする。
「はぁ……これでちゃんと探索ができるな」
「ベトベトは嫌だよもう」
「ん」
「ほんとほんと」
「もう嫌だわ」
洗い終わった皆は口々にもうこりごりと言った様子だ。
「兎に角、このままだと時間が掛かってしょうがない。宝箱を取りながら駆けで踏破しよう」
『了解』
―ブシャアアアアアアアアアアアアアアッ
気を取り直して俺が音頭を取り、全員が返事をしていざ奥に行こうとした瞬間、今度は下から液体が噴出した。
『……』
俺達に無言の帳が下りた。昨日の夜の暖かなものではなく、沸々と湧き出る怒りの無言だった。
「はぁ……どうする?」
「帰りたいかも……」
「私もこれ以上進みたくはないわね」
「私もできれば遠慮したいわ」
俺がため息をついて、皆に確認するとシア以外はすぐにダンジョンから出たいと言った。
「シアはどうだ?」
「ん。帰る」
「了解」
シアもベトベトするのは嫌らしく、俺達はダンジョン攻略は諦めて外に出た。シアのアホ毛はしょんぼりしていた。
多分思ったようなダンジョンじゃなくてがっかりしたんだろうな。それにしても、レベル上げはもうしなくても良くなったはずだけど、未だにダンジョンに行きたがるのは、もう趣味の一環みたいなものになってるんだと思う。
そこで再び体を洗いながし、乾かしてサッパリする。
ただ、外に出たは良いもののジャックとジョージは来るまで移動してしまったため、すでにここにはいなかった。
「さて、今日やることがなくなってしまったけど、何かしたいことあるか?」
「今からテーマパーク行くのもねぇ」
「そうだな」
俺の質問に七海が腕を組んで唸りながら答える。
出来ればテーマパークには朝オープンしたてから最後までぶっ通していきたいものだ。
「あ、せっかく夏だし、アメリカには有名なビーチもあるから海に行ってみない?」
天音がパッと閃いたような顔をして俺達に提案する。
確かにそれならテーマパーク程遊びに時間がかからないだろうし、悪くない洗濯じゃないかな。
「あ、さんせーい!!」
「ん」
「私も構わないわ」
「俺もいいぞ」
満場一致で可決されたので俺はラックに頼んで、数回影転移を繰り返し、ビーチが有名な辺りにやってきた。
「うわぁああああああああ!!すんごい綺麗な砂浜と海だね!!」
「これはまたよくこんな場所を見つけたわね」
「凄いわね。これなら人目を気にしなくて済むわ」
「綺麗」
ただ、ラックが気を聞かせてくれたのか、そこは周りを切り立った崖で囲まれた人気のない入り江で、入り江の先には太陽に照らされて青く澄んだ海が広がっていた。
「ラック、ありがとな」
「ウォンッ」
俺はラックの気遣いに嬉しくなってラックを呼び出して顔をワシャワシャと撫でまわした。
「それじゃあ、お兄ちゃん着替えてくるね」
「ああ。それにしても皆水着持ってたんだな?」
「ええ、この前こんなこともあるかと思って皆で買いに行ってきたから」
「へぇ、そうだったんだ」
「佐藤君はそんなことしないと思うけど覗かないようにね」
「分かってるよ」
皆どうやら水着を買ってきていたらしく、ぞろぞろと岩陰に着替えに行った。俺は水に浸かるダンジョンもあると思って買っていた海パンにさっと着替え、ビーチパラソルや、ビーチチェアーにビニールシートなんかを敷いて色々準備しておいた。
暫くして皆が岩陰から出てくると、そこに居たのは四人のファンタジー世界の住人と見紛う少女達だった。
七海は中国のお団子頭のように髪の毛をまとめ、水色のドット模様が描かれたフリルの付いた可愛らしい水着を着ていて、その幼い可愛らしさがグッと引き出されていて妖精という言葉が似合う。
シアは髪の毛を後ろで編み込むように纏め、髪の色に近い白のビキニタイプの水着だった。所々に小さなフリルが付いていて、まさに天使と呼ぶにふさわしい可愛らしさだ。
零は特に髪の毛はまとめることなくそのままで、スタイルを強調する黒いビキニを身につけているものの、パレオを纏うことで大人らしさを演出している。
天音に次ぐプロポーションと誰よりも大人びた雰囲気で、天使というよりは女神という言葉がふさわしい。ただ、少し恥ずかし気なところは可愛らしい。
最後に天音は髪の毛を後ろでポニーテルの様な位置にお団子としてまとめ、スタイルを強調する様な布面積の低く、暗くて色相の薄い紫のビキニを身につけて、堂々と歩いてやってきた。
容姿もさることながら、そのスタイルは世界でも類を見ない程に見事なプロポーション。言葉は悪いかもしれないけど、天然のサキュバスとも言える官能的な姿だった。
「お兄ちゃんどう?」
「可愛い?」
「似合うかしら?」
「ど、どうかしら」
全員が俺に感想を尋ねる。
「七海は妖精みたいに可憐だし、シアは天使みたいに可愛らしくて、零は女神みたいに綺麗だ」
「やった!!」
「うれし」
「そ、そう。ありがと」
俺の褒め言葉に三人は嬉しそうに頬を赤らめて答える。
「ちょ、ちょっと私は?」
「天音はあの、そうだな……サキュバスみたいに淫靡で妖艶で滅茶苦茶可愛いと思うぞ」
自分だけ何も言われなかった天音の抗議に、ちょっと言いづらかったけど素直な感想を述べる。
「なんで私だけサキュバスなのよ!!」
「あいた!?」
そしたら天音から鋭いツッコミを貰うことになった。
だって、他に言いようがなかったんだよ……。
俺は心の中で呟いた。
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