第198話 付き合いとは名ばかりのデート 前編

 俺は時間より少し前に駅前に着いたので天音が来るまでぼんやりと待つ。


「待った?」

「いや、今とこ」


 暫くすると、天音がやってきて、今日は只の付き合いなのに、なんだかデートの待ち合わせのような会話をする。天音と俺。


 天音は夏と言うこともあり、丈が少し短めのキャミソールワンピのような服の上にノースリーブの上着を着て、大胆に脇と胸元が開いた服装でやってきた。


 その服装は、シアのような美しいバランスの元で均整の取れた体よりも、メリハリに溢れた天音の体の魅力を引き出し、辺りを歩いている男たちをくぎ付けにしている。


 性的魅力を思いきり利用しているので結構ズルい気もするけど、それも天音の魅力の一部だからアリだと思う。


 俺も物凄く可愛いし、とても天音に似合う服装だと思う。


「その服、天音の魅力を引き出していてとても似合ってる。凄く可愛いと思う」

「え、あ、そ、そう。ありがと……」


 俺は七海にこっぴどく言われてきたので、女の子が私服できたらとりあえず褒めるという行動が身に沁みついていた。


 その癖を使う機会が今まであまりなかったんだけど、今回それなりに効果はあったらしく、天音が少し照れながら目を反らして俺に礼を言った。


 あれ?俺って意外にリア充してる?

 いやいや、今日はただの付き合いだし、気のせいだな。


 俺は一瞬リア充かもしれないと思ったけど、首を振って思い直した。


「そ、それじゃあ、行きましょ」


 恥ずかしがりながらも天音は俺の腕に自身の腕を絡め、そのパーティ内でも随一の母性の塊を俺の腕に押し付ける。


「うわっ!?な、なにするんだよ?」

「いいでしょ、別に。減るもんじゃないし」

「まぁそうだけどな」

「じゃあ、いいじゃない」

「分かったよ」


 俺は驚いて天音に抗議したけど、確かに俺には何も減る物はないし、それどころか腕の幸せな感触が逆にプラスになると言っても過言ではないので、俺は受け入れた。


 今日は、他にも気になる視線がいくつかあったけど、スパエモの施術後の中では一番周りからヘイトの視線を感じた。俺達は二人で連れだって電車に乗った。


 探索者達が最後の休みに、ということで混むかと思ったけど、一応二人で座れる程度には空いていたので腰を下ろす。


「それでどこに行くんだ?」

「中華タウンよ?」

「え?そこでいいのか?」


 席に座った俺は今日の行先を知らされていなかったので、天音に尋ねると、おおよそ買い物とは無縁そうな場所の名前が提示された。


 中華タウンと言えば、沢山の真っ赤な建物が立ち並び、中華民国と言う国の料理を出す店が沢山ひしめき合っている、所謂グルメタウンだ。


 何かを買い物をする場所としてはあまり適当とは言えない気がするんだけど。


 そう思った俺は思わず尋ねる。


「いいのよ。ちょっと料理関係の道具が欲しいのよ」

「そうなんだ」


 俺はあまり詳しくないので分からないけど、料理好きの天音がそういうなら中華タウンにはさぞ本格的な料理道具店があるに違いない。


 それから俺達はたわいのないこと話しながら電車に揺られること一時間半。


 目的地へとたどり着いた。


「ここが中華タウンか。テレビで見るのとは大違いだな」

「ホントね」


 俺と天音は中華タウンの入り口でその煌びやかに装飾された門に目を奪われる。


 あれ?天音の反応が、初めて来たみたいな感想になっているけど気のせいだよな?


「じゃあ、早速いきましょ」

「あ、ああ」


 天音に腕を引っ張られて俺の考えは押しやられ、門をくぐり中華タウンのメインストリートへと入るのであった。


「普人君はご飯は食べてきた?」

「いや?」

「そう、それじゃあ、まずは食べ歩きして腹ごしらえしましょ」

「わかった」


 タウン内に入るなり尋ねる天音に首を振ると、天音は肉まんを店頭販売している店を指さして笑顔で提案する。俺としては何も問題ないのでその提案に乗った。

 

「すいません、中華まん下さい」

「いくつだい?」

「普人君は?」

「俺も同じでいいよ」

「そう。それじゃあ中華まん二つで」

「あいよ」


 天音が主導して店主に話しかけ、俺の分まで注文してくれる。


 こういう時は男の方がリードするものなんだろうけど、天音の性格に引っ張られて俺は大人しく着いて回る感じになっている。


「俺が払うよ」


 俺はせめて支払いは自分がすると買って出る。


「いいって。今日は買い物に付き合ってもらうんだから、私が払うよ」

「わかった。とでも言うと思ったか?断じてノーだ。これで」

「あいよ」


 天音が今日は付き合ってもらってるんだからとインターセプトしてきたけど、俺は構わずに早業で財布から千円を取り出して店主に渡した。


「あぁああああ!!」


 俺にしてやられた天音は、何やってんのよ!!、とでもいいたげな顔をしている。


 そんな顔されても撤回したりはしない。


 俺はニヤリと笑った。


「はい」

「はぁ……ありがと」


 俺は店主から中華まんとおつりを受け取り、中華まんの一つを天音に渡す。天音は俺を暫くジト目で見た後、諦めた様にため息をついて受け取った。


「そこで食べましょ」

「そうだな」


 俺達は店からずれたところで中華まんを頬張る。


「美味いな」

「ええ」


 コンビニで売っている肉まんとは全然違う。


 肉の旨味がぎっしりと詰め込まれていて、肉汁が溢れ出す。モチモチの皮とのハーモニーが絶妙で素晴らしい。


 天音も幸せそうな顔で頬張っている。


 俺達はすぐにぺろりと平らげてしまった。


「次はあそこに行きましょ!!」

「あ、ああ」


 天音はまだ食べたりないらしく、次の店を指さし、俺の手を取ってぐいぐいと引っ張っていく。俺は困惑しながら抵抗せずになすがまま、天音に手を引っ張られて次の店に向かった。


 俺は天音の柔らかな手の感触にドギマギしてしまった。


「いらっしゃいませ~」


 次の店も店頭で購入するタイプ。天音は探索者として動いていることもあり、人一倍食べる。朝から食べていないとしたら、中華まんだけでは足りないよね。


「ここは?」

「ふふふ、ここは焼小籠包が有名なお店よ」

「へぇ~、俺小籠包好きだわ」

「良かったわ」


 この店は小籠包で有名な店らしい。俺達は有名だというその小籠包を頼んだ。


 小籠包は俺も好きなので楽しみだ。


「あっつっ」

「はふはふ」


 やってきた小籠包は、口に入れて皮を突き破った瞬間に熱々の肉汁が口いっぱいに広がる。天音は物凄く熱そうにしているけど、俺は少し熱い程度済んだ。


 熱々の小籠包は物凄く美味しかった。


「もう腹ごしらえは終わりか?」

「ふふふ、まだよ!!」

「了解」


 小籠包を食べ終わった俺は、今度こそ買い物行くのかと尋ねると、まだ食べたりないらしい。


「次はここよ」

「エッグタルトか……」

「そうね」


 そして、エッグタルトを食べた。


 今までエッグタルトというお菓子を食べたことがなかったけど、外はサクサク、中はプリンで濃厚で滑らかで、見た目とは裏腹に暖かくて美味しかった。


「デザートまで食べたし、そろそろ買い物だろ?」

「ぶっぶー、次は食休みよ!!」

「一体いつ買い物するんだよ!?」


 ここまで一切買い物する気配なし。


 にししと笑う天音に俺は思わず叫んだ。


 まぁ確かに、ここまで歩きながらいくつかの料理を食べてきて、ある程度腹が膨らみ、少し休むにはちょうどいい頃合いだと思うけど。

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