第199話 付き合いとは名ばかりのデート 後編
「新浜博覧館?」
俺が連れられてきた場所にはそう書いてある。
「ええ、ここにはギフトショップの他にカフェもあるからちょうどいいのよ」
「お、ここでようやく買い物か?」
天音の説明にショップと名のつく単語が出てきたので訊ねる。
「しないけどね!!」
「なんでだよ!!」
「ふふふ」
しかし、返ってきたのはしないという言葉。俺は思わずツッコミを入れた。天音はそんな俺に何も言わずに笑った。
「お待たせしました~」
「はぁ?」
その言葉の通り、俺と天音はカフェでお茶とコーヒーを啜る、つもりだった。しかし、運ばれてきたのはどう見ても大きなコップに入ったジュース。
一体いつの間に……。
そうか注文してすぐトイレに立ったかと思ったらそういうことか!!
俺はニヤニヤしている天音を見て彼女の策略を理解した。
「これ……明らかにカップルが飲む奴じゃないか……」
「ふふふ、ドッキリ、大、成・功!!」
俺の驚く顔を見ることが出来た彼女は大変満足そうな顔をしていた。
「まぁ、交互に呑めば問題ないか」
「そんなのダメに決まってるじゃん!!こういうのは一緒に呑むのが作法なのよ?」
「はぁ……分かったよ……」
俺が一緒に呑むのを避けようとすると、天音がそれを却下する。俺は諦めて従うことにした。
「こ、これ顔をめっちゃ近いな」
「そ、そうね。流石に私も恥ずかしいかも」
実際に飲もうとしてみるとお互いの距離は殆どゼロ。その距離の近さにお互いに意識して恥ずかしくなる。
『……』
恥ずかしさを我慢して二人でストローからジュースを飲んでみた。
一層恥ずかしくなってお互いに照れ笑い。それから三十分ほど休んだ俺達は次の場所に行く事にした。
「ここから買い物だな?」
「ついてからのお楽しみ!!」
ようやく買い物かと思いきや、行き先をはぐらかす天音。俺は彼女を責めるつもりはないので、大人しくついていく。それから暫くは中華タウンの名所やパワースポットなどを巡って歩いた。
「そろそろ買い物だよな?」
「ふふふ、ざーんねん!!占いでした!!」
「買い物関係ねぇ!!」
俺が期待を込めて訊ねると全く買い物をする気がない場所だったので、またツッコミを入れてしまった。
天音も女性らしく、占いに興味があるらしい。
やってきた場所では手相、タロットの他、様々な種類の占いをしてもらうことができるようだ。
「ふふふふっ。全部受けましょ!!」
「はぁっ。好きにしたらいいだろ?」
俺もそうだけど、天音もお金に困っていないので全部受けるつもりらしい。なぜか俺も付き合わされた。
「世界中のツキがあなたに集まっています」
「覇道を歩む手相をしてらっしゃいますね」
「あなたの前に運命が屈します」
「あなたはどの方角に行っても、ツキの方からやってくるでしょう」
俺に関しては総じてこんなことを言われた。
やはり俺はとってもついているらしい。
俺は自分の幸運を他者から評価されることで自信を深くした。
「あなたって大概おかしいと思ってたけど、占いでも分かるのね……」
その結果を聞いた天音におかしい人として認定されてしまった。
「霜月様、あなたは佐藤様と相性はばっちりです。絶対に離れてはいけませんよ」
「~~!?」
天音に関しては鑑定士に応じてマチマチの結果が出たんだけど、それでもどこでも口を揃えて言われたのは、俺と天音との相性。
これがバッチリらしい。
あまりに毎回言われるので、天音は顔を真っ赤に染めていた。
流石に俺も恥ずかしい。
ただ、天音に関しては一定の信用はしているけど、まだ俺達に近寄ってきた目的が分かっていない現状としては、そういう対象としてみることは難しい。
悪い奴じゃないと思うけどな。
「もう流石に買い物だろ?」
「ふふふ。それはどうかな?」
何度目かの確認に、天音は意味深に笑い、再び俺の腕をかき抱いて目的地に向かった。
中華街を出て別の場所に向かって歩いていく。
「ここで休憩しましょ」
この辺りの景色やお店、建物に関してお互いに話をしながら連れてこられたのは海の見える公園だった。俺たちはベンチに腰を下ろした。
「キレイね」
「そうだな」
今はもうすぐ日が水平線に沈むころで、海面が真っ白に輝いてとても綺麗だった。
気づけば天音の頭が肩に乗せられている。気にしたら駄目だと思って俺は何も考えずに海を眺めることに意識を傾けた。
二人でぼーっと海を眺めた後、俺達は再び中華街の方に歩き始めた。
「なぁ。そろそろいい時間だけど、買い物はいいのか?」
「あ、そうね。ちょっと待っててね」
「はっ?」
そろそろ帰らないと帰るのが遅くなってしまうので問いかけると、いきなり腕を話したと思ったら、そそくさと雑貨店のようなお店に入っていった。
「お待たせ」
数分で戻ってきたと思ったら、その手には中華タウン限定のキャラクターのキーホルダーが握られていた。
「え、まさか……」
「ええ、そうよ。これが今日の買い物♪」
俺が
「料理関係ねぇじゃねぇか!!」
俺は思わずツッコミを入れてしまった!!
まさかこんなもののために付き合わされるとは……。
はぁ……全然買い物に付き合っていない気がするけど、まぁ天音が目的を達したのならそれでいいか。
「はぁ……まぁいい。それじゃあ、帰るか」
「ええ、今日は付き合ってくれてありがとね、普人君」
「い、いや、こっちこそ」
俺が独り言ちた後、帰りを促すと軽く首を傾げ嬉しそうに笑って天音は俺に礼を言った。
不意に見せたその笑顔が、とても魅力的で思わずドキリとしてしまったのは内緒である。
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