第179話 零の戦い(第三者視点)
「ただいま~」
「おかえり」
零がとある場所に帰りつくと、部屋には一人の女性が待ち受けていた。
「桃花、今日は休みだったの?あんたも駆り出されてるはずでしょ?」
まさかまだ日も暮れてない時間帯にその女性がいるとは思わず、思わず問いかける零。
部屋に居たのは城ケ崎桃花。豊島区にあるショッピングモールに入っている、ダンジョンアドベンチャーという探索者向けの商品を幅広取り扱っている店の店長であり、店に来た普人に目を付けた人物である。
そして零の下宿先であるマンション、その家主でもあった。
「ええ。今日は私は休みよ。シフト制で交代でレベル上げしてるからね。とは言え、私たちのような仕事の人間は多少免除されるからマシな方よ」
「それでも大変ね……」
桃花の店では探索者がいなくなるわけにはいかないので、従業員の探索者が持ち回りでレベル上げをしていた。ただし、探索者を相手にしている商売のため、普通の探索者と比べればその義務は軽くなっている。しかし、仕事との両立のため、休みはほとんどないと言っても過言ではなかった。
今日はその数少ない桃花の休みの日である。
桃花はだらしのない格好でソファーに寝そべり、テレビを見ながら零に返事をしている。桃花が疲れている表情を浮かべているので何とも言えない気持ちになる。
「まぁね。この職業を選んだ時点で仕方ないことだけどね。それにしても……零は随分とリフレッシュしてきたようね」
桃花はその眠気眼のまま零にテレビに向かって話していたが、ふと顔を上げてしばらく零を見つめた後、少し目を見開いて驚きながら呟いた。
それもそのはず。零がありえない程に若々しくなっていたからだ。二人は幼馴染の腐れ縁で昔から知っているが、高校生時代を彷彿とさせるフレッシュさに溢れ、肌も目を見張るほどにハリツヤが増していた。
本人が分からないというのは誰でもそうで、零も自分で思っている以上に可愛らしさと若々しさが上がっていた。
「え、ええそうね。私も探索者として引率しなきゃいけなくなったのだけど、幸い知り合いのパーティに入れたから気楽なのよ。それに、そのうちの一人が有名なスパのチケットくれたからね」
「うーん!!はぁ……羨まし。私は例の件で色々動かなきゃいけなくて、出ずっぱりだったから今日は完全休業よ」
零は少し言い淀みながら返事をすると、桃花は横向きから仰向けになって大きく伸びをしながら答える。
「そ、そう。あんまり無理しないようにね」
「何言ってるのよ。ここが無理のしどきでしょ。あんな逸材いないんだから、しっかり捕まえておかないと」
先程同様に言い淀む零。それに対して先程までのだらけきった姿が嘘のように真剣なまなざしでグッと拳を握る桃花。
先程から零が言い淀んでいるのはなぜかと言えば、それは自分が入っているパーティが普人のパーティだと彼女に言っていないからだ。
その上、例の件というのはとどのつまり普人をダンジョンアドベンチャーに引き入れる件である。
隠し事をしつつ、彼女が普人にちょっかいを出すのを邪魔する立場になってしまっていることに対する後ろめたさが、彼女の言動に現れているのであった。
「それはそうだけど、彼の機嫌を損ねるのだけは止めた方がいいわ。これは実際に相対した私からの忠告よ。彼の力はどこかの一組織には手に余るわよ……」
「分かってるって。気を付けるわ」
現状零から言える精一杯の警告。桃花は手をヒラヒラとさせて適当に返事をする。
それ以上踏み込むと桃花に気取られしまう可能性があるため、何も言えない。ただ、出来れば普人の機嫌を損ねるようなことだけはしないで欲しい、そう願わずにはいられなかった。
「それよりもちょっと飲み物持ってきてくれない?」
「はいはい、ちょっと待ってね」
最近の疲れで動くのが面倒な桃花は、零に冷蔵庫から飲み物を取ってくるように頼む。零は呆れたような表情をしながらも冷蔵庫に向かった。
―ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
しかし、その途中で部屋が揺れる。
「これは……」
「地震?」
「いや、これはスタンピードが近くで起こったわね。しかも近いわ」
零は揺れた瞬間にその正体を看破していた。
探知系探索者である零ならでは感知能力。その能力によって正確にどこでスタンピードが起こったかまである程度把握できた。
「どこ?」
「おそらく神ノ宮学園のどれかのダンジョンね」
端的に尋ねる桃花に零は答える。
「それなら大丈夫じゃない?」
「ううん、どうも普通じゃない気がするわ。私はちょっと見に行ってくるわね」
桃花としては探索者が数多く在籍しているあの学園なら大丈夫だと考えたのだが、零にはまだ見えていない何かあると感じていた。
―ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
零が準備をしていると、裏付けるように二度目の揺れが起こる。
「これはマズいわね」
「ええ、流石にこれはヤバいわ」
二人の意見は一致しているが、零のマズいはまた別であった。それはまだこの災害が終わりではないという直感であった。
「私はすぐに見に行ってくるわ」
「分かった。私も職場に連絡してみるわね」
「了解」
零は桃花と簡単な打ち合わせをして、家を飛び出す。
「換装」
武装して外に出て何十階もあるマンションから飛び降りた。普通であれば落ちていく途中でショック死しそうなものだが、探索者にそんな常識は通用しない。
そのまま地面着地すると、重低音と共に地面が陥没する。
周りにいた人たちは驚くが、それを気にすることもなく零は走り出した。ここは学園から歩いて二十分程度は離れているので、まだここまではモンスターが来ていない。だから、街の中に紛れ込んだモンスターが居る場所へと走る。
「あ、もしもし、私黒崎だけど、スタンピードが起こったわ。それも二カ所同時」
―ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
電話を取り出して組合の友人宛に掛けた後、そこまで言ったところで再度揺れが起こる。
「あ、今三か所同時になったわ。そうよ。場所は神ノ宮学園。すぐに出動してくれる?ええ、ええ、お願いね。よし次」
零は用件を伝えると一旦電話を切ってまた別の所に電話を掛ける。
「もしもし、ああ久しぶり。今豊島区にいるんだけど、神ノ宮学園に来れない?ええ、ええ、わかった。よろしくね」
再び電話を切った零は。それから何度か電話を繰り返した後、モンスターの元にたどり着いた。
「貴方達!!逃げなさい!!」
零はモンスターと対峙している高校生くらいのグループとモンスターとの間に割り込む。
「〜〜!?あ、あんたは誰だ!?」
「そんなことはいいのよ。それよりも適性もないのに戦うんじゃないわよ?すぐ死ぬわよ?」
突然現れた零に怯えながら叫ぶ男子高校生。零はすぐに高校生達が探索者適性のない人間だと悟り、モンスターへの牽制を続けながら、少しだけ振り返って脅しをかけた。
「わ、分かった!!おい、皆行くぞ!!」
グループのリーダー的存在人物が特に礼をするでもなく、その場から立ち去る。
「あなたの相手は私よ」
「ブモブモ……」
「まぁすぐ終わるけどね」
「ブモォオオオオオオ」
零は目の前にいる自分の背丈の一.五倍程のモンスターと立ち合い、雄叫びをあげようとしたモンスターを一撃で倒した。
それから出来る限り探知で先回りをしながらモンスターを倒しつつ学校を目指した。
途中でよく知っている気配が近付いて来ているのに気づき、合流することにする。
「あっ」
「あっ」
その気配とは天音のことだった。気づいてはいたが、思わずお互いに顔を見合わせて声を漏らした。
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