第160話 感謝の殴打一万回!!
「しっ」
「はぁ!!」
「せいやぁ!!」
「とりゃ!!」
「ゴッドブレス!!」
俺達は数分の後にこちらにやってきたモンスター達を再び陸地に行かせないために戦い続けていた。
七海の魔法は自分が敵だと認識した相手にダメージを魔法だ。周りへの影響が少ないにもかかわらず、敵へは甚大なダメージを齎すことができる、とても優れた魔法だった。
そろそろ十分はゆうに経ったと思うけど、市街地の方は大丈夫だろうか。こっちで七海の魔法の爆音を聞いているせいで、街の方の音が聞き取れないので、状況が把握できない。
いや、聞こうと思えば聞けるかもしれない。
俺は耳を澄ます。
『グギャギャギャギャッ』
『キャーッ!!誰か助けてぇ!!』
『嫌ぁ!!』
『ブヘェッ』
『大丈夫ですか!?もう大丈夫ですよ!!』
マッチョマーマンが母親と子供を追いかけていく光景が視える。そして、襲われる間際、一度見たことがある制服を着た人間の一人が、マッチョマーマンに攻撃を仕掛け、撃退していた。
しかし、至る所で町の破壊が起こり、街中から煙が上がっている。どうやら結構な被害が出ているらしい。この辺りは観光地のせいか、探索者が多くない地域みたいで緊急対策室所属の隊員数十名以外の探索者をほとんど見かけない。
ちっ。これじゃあ、被害が甚大だ。
『こちら緊急対策室港南地区。至急救援を派遣されたし。凶悪モンスターが町中に多数侵入し、被害が広がっている。我々だけでは手が足りない。Sランク探索者黒崎零氏によると、海から夥しい量のモンスターが迫ってきており、彼女はそちらの対処をしているとのこと。こちらから見る限り、巨大な氷の壁が町と海辺に境界線が引かれている。おそらく黒崎氏かその仲間の仕業によるものと推測。未だに衝撃音が止んでいないので激戦が続いている模様。こちらに彼女の助力は期待できない。繰り返す……』
緊急対策室の隊員の通信が耳に聞こえる。
氷の壁で俺達のところ以外からの侵入を防いだとは言え、街には多数のモンスターが入り込んでいた。街に被害を出さないように、人に被害を出さないようにと考えながらモンスターを殲滅していくのはかなり大変だと思う。
俺達がこれほど簡単に多数の敵を屠ることが出来るのは、周りに何もないので誰も巻き込まずに戦えることと、目の前は海だけなので、地形への影響を気にせず魔法をぶっ放せるからだ。
街の中ではそうはいかない。
あれだけのモンスターを人や建物への被害を出さずに殲滅するには、かなりの人手が必要になるはずだ。
俺は少しでも被害を減らすため、タイミング見計らってラックに指示を出した。
「このままじゃ埒が明かないな……」
「そうね……はぁ……はぁ……」
「お兄ちゃん!!はぁ……はぁ……。魔力きついかも!!」
「確かにそろそろ体力的にもきつくなってくるわね」
「ん」
俺の呟きにそれぞれがモンスターと向かい合いながら返事をする。
能動系熟練度を高めていないらしい天音と探索者になって日が浅い七海の体力がそろそろきつくなってきているようだ。シアはレベル上げしまくっていたおかげか特に問題なさそうだ。零は流石Sランク探索者と言ったところで、特に息に乱れはない。
ここはひとまず二人を休ませた方が良さそうだ。
「一旦、七海と天音は後ろに下がって休め!!その分俺がカバーする!!」
「カバーするったって……はぁ……はぁ……お兄ちゃん素手じゃん!!」
「そ、そうよ!!……はぁ……はぁ……素手じゃあ押し込まれるわ!!」
俺が声を掛けると、二人が必死にモンスターを倒してながら俺に反論する。
二人とも俺のことを心配してくれるらしい。
しかし、俺は妹のためなら魔王でも屠ってみせる。この程度のモンスターなんて容易い。
「大丈夫だって!!お兄ちゃんが嘘ついたことがあるか?」
「はぁ……はぁ……ないけど……」
俺が七海に振り返って問いかけると、七海は心配そうに俺を見つめる。
「なら、お兄ちゃんに任せておけ」
「もう!!分かったよ!!任せるよ、お兄ちゃん!!」
俺が出来るだけニッコリ笑うと、七海は仕方ないなと笑って叫んだ。
「よし、ちょっと俺が本気出すからその間に下がれ!!いいな!!」
「うん!!」
「わかった!!」
話が決まったので、二人に指示を出すと、俺は前に飛び出す。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
俺は今まで打っていたパンチを三倍速で打ち出した。
―パパパパパパパパパパパァンッ
―パパパパパパパパパパパァンッ
―パパパパパパパパパパパァンッ
当然のように三倍速で敵が消える。
「す、すごい……」
「あーちゃん、下がるよ!!」
「え!?あ!!ごめん!!」
俺のすぐ近くで見ていた天音がなかなか後ろに下がらないので、七海が迎えに来て連れて行った。
「大丈夫?」
シアが剣を振りながら近づいてきて声を掛けてくる。
「ああ!!問題ない!!」
俺はサムズアップしながら器用にパンチを打ち込んだ。
それからはただひたすらに目の前の敵を粉砕していく。確実に一万発以上パンチを放っていると思う。俺は気づけば無音の世界にいた。
ここはどこだ?
世界は灰色で色を失い、敵もシアたちも止まって見える。
そういえば野球選手なんかはたまにボールが止まって見えるなんて言うことを聞いたことがある。これはもしかしたら似たような状況なのかもしれない。
体の中に流れる血流。心臓の鼓動。そう言ったものまで感じられる。
そしていつしか、それらとは全く別の力が自分に流れていることに気付く。余りに圧倒的な力の奔流。俺の力に手を伸ばした。
『"気功"の熟練度が一定に達しました。表記条件を満たしました』
久しく聞いていなかったアナの声が脳内に響き渡った。
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