第158話 接敵

「お兄ちゃん!!」

「七海!!ってなんだその恰好は!?」


 スパの外に出た俺の元に七海たちが走り寄ってくる。


 しかし、その恰好がとんでもないものだった。

 なんとバスタオル一枚を捲いてるだけ。

 全員が全員バスタオル一枚なので目のやり場に困る。


 そんな姿を他の人に見られたらマズいだろ!!


「時間がないからそのまま来たんだよ!!」

「だとしても、そんな恰好で外に出ちゃダメじゃないか!!」

「いいから!!今は時間がないでしょ!?」

「むむむ。仕方ない。状況は分かっているのか?」


 叱る俺に反論する七海。


 はぁ……確かに時間がないからここは目を瞑ろう。


「ええ、分かってるわ!!海の方からモンスターが大量にこっちに向かってきてるんでしょ?」


 俺の質問に答えたのは天音。


「ああ。かなり夥しい量の気配を感じる」

「どうするの?」


 天音の質問に俺が答えると、彼女は再び今後の方針を尋ねる。


 できれば街への被害は出来るだけ抑えたい。しかし、こうしてる間にもかなりの数のモンスターたちが陸に上陸してきている。一刻の猶予もない。


「零、こういう時はどうしたらいいんだ?」


 悩んだ結果、こういう事態に一番馴れているであろう零に尋ねた。


 やっぱりこういうことは年長者であり、経験の豊富な零に聞いてみるのが良いと思う。


「そうね、この区画を管理する探索者組合に連絡を入れて救援を待つかしら」


 救援はいつ来るか分からない。それではモンスターがどんどん町の中に入り込んで被害が大きくなってしまう。


「それじゃあ遅い。何のモンスターかは分からないけど、気配を見る限り、前の朱島ダンジョンとそう変わらない。だったら救援が来るまでの間、俺達が掃除しに行こう」

「はぁ……あなたならそういうと思ったわ。支部への連絡は私がしておく」


 零は手のかかる弟でも見るような顔をして携帯電話を取り出した。


「任せた。みんな行こう!!」

『おぉ~!!』


 俺達は換装もせずに現場に向かった。


「これは一刻の猶予もないな」


 現場に辿り着いた俺は、その光景を見て呟く。その光景とは、海辺を埋め尽くす程のモンスターがぞろぞろと走り出しているものだった。


 これだけのモンスターが全て一般人ばかりの街に入ったら一溜まりもない。


「そうみたいね。一応連絡は入れたけど、救援到着まで十分はかかりそうよ」


 十分か。結構かかるな。

 街の方は何とかしてくれることを祈る。

 こっちは俺達が食い止める。


「分かった。皆やるぞ、換装!!」 


 俺の指示で、俺達は皆換装リングで装備を変更した。


 皆の服装もバスタオルから武装へと変わる。


「ひとまずアイツらが行ける方向を制限しよう。七海!!」

「うん、まっかせて!!いくよぉ!!~~アイスバレー!!」


 流石俺の妹。俺が何をして欲しいか瞬時に理解して数十秒の詠唱の後、魔法名を唱えた。


 海と陸地を隔てるように巨大な氷の壁が八の字に形成される。これでこれから陸に上陸するモンスターは、俺達の方に向かってくるしかなくなったはず。


 ただ、全てのモンスターの町の中への侵入を防ぐことはできなかった。いくらかは氷の壁が出来る前に街の中に入ってしまっていた。


 それにしても、やっぱり七海の魔法は我が妹ながら惚れ惚れする威力だな。


「相変わらずとんでもない魔法ね……」

「ほんとそれ……」

「ほら、ぼーっとしてないでさっさと行くぞ!!」


 二人が七海の魔法を見て呆けているので、声を掛けて俺とシアと七海は走り出す。


「あ、待ってよ!!」

「わ、分かったわ!!」


 俺に声を掛けられ、ハッとした二人も俺達の後を追いかけてきた。


「あれは……魚人?」


 陸地に上がって来始めているのは、顔が魚っぽい、滅茶苦茶筋肉質なマッチョマンだった。


 俺の嫌いなGが、人間っぽくなった上に、人間大に大きくなっている漫画の事を思い出す。


 あれは駆逐するべきものだ!!


「あれはマッチョマーマンね。以前の朱島ダンジョンのモンスタークラスの強さよ」


 追いついた零が隣で解説してくれる。


 前の朱島ダンジョンクラス。つまり、Eランクモンスター相当ってことか。


「それじゃあ、俺達の相手じゃないな!!」

「ん!!経験値!!」

「あったり前だよね!!」


 俺の声に同意するようにシアと七海が声を上げる。


「ま、あなた達なら問題ないでしょうね」

「確かにね」


 俺達の意気込みに何故か呆れるような二人。


「いくぞ!!」

『おおー!!』


 そんな二人を尻目に、俺達はマッチョマーマンへと突撃していく。後から二人もついてくる。


「せいっ!!」

「ふっ!!」

「はぁっ!!」

「やっ!!」

「グラビティストライク!!」


 俺達は全員で攻撃を仕掛ける。


―パパパパパパパパパパパパァンッ!!

―スパパパパパパパパパパパァンッ!!

―パパパパパパパパパパパパァンッ!!

―スパパパパパパパパパパパァンッ!!

―ドォオオオオオオオオオオオンッ!!


 物理攻撃組の攻撃で一度に数十匹~百匹近く消えるのに対して、七海の一撃は一度に数百匹消える。もちろん魔法だけに多少のロスはあるもののその間に打てる攻撃なんてたかが知れている。


 もう完全に超えられてしまったか……。

 

 俺は七海の魔法攻撃を見つめながら感慨に耽りつつ、次から次へと海から湧いてくるモンスターの処理を進めていった。

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