第156話 我慢できずに出てしまう声

「ん……んん……ここは?」

「お、起きたか」


 俺は目を覚ました天音に声を掛ける。


「えっと、どういう状況?」


 天音は目の前にある俺の顔に困惑しつつ、俺に尋ねた。


「天音がサウナでのぼせてぶっ倒れたのを介抱してるところだな」


 俺は団扇で天音を仰ぎながら、彼女の顔を見下ろして状況を説明する。


「え!?あ!?ご、ごめん!!」

「いや、起きなくていいから、もう少し休んでろ」


 慌てて起きようとする天音を上から押さえてそのまま俺の膝の上に頭を戻す。


 まだ目が覚めたというだけで体が大丈夫かどうかは分からない。もう少し休んでいた方が安心だと思う。


「ううっ。恥ずかしい……」

「だから無理するなって言ったのに」


 真っ赤にした顔を両掌で覆って恥ずかしがる天音に、俺はあきれるように言った。


 全く負けず嫌いだからってぶっ倒れるまで無理することはないだろうに。


「ふ、普人君とアレクシアが化け物過ぎるんだよ」

「ひどいな」


 天音が手と手の間から目だけ出して俺を睨む。


 全く人を化け物だなんて。サウナが全然熱くなかっただけだというのに。


「あれ?服が着替えさせられてる……まさか……」


 天音は自分が館内着に着替えさせれているのを見て、服の合せ部分をキュッと締めて俺を訝し気な表情で見つめる。


「そ、そんなことするわけないだろ!!七海たちが着替えさせたんだよ。全員探索者だからな人一人くらい着替えさせるのは訳ないだろ!?」


 俺は謂れのない疑惑を持たれて慌てて否定と言い訳をした。


「ふふふっ。冗談よ」

「はぁ……ったく」


 俺の返事に急に表情を変えて笑う天音。俺はそんな天音にヤレヤレと肩を竦めた。


「ありがとね」

「いや、気にすんな」


 俺の膝上で微笑む天音に俺は微笑み返した。


「あ、あーちゃん起きてる!!」


 丁度話が途切れた所に七海が、シアと零がやって来た。


「迷惑かけてごめんねぇ」

「気にしなくていいよ」

「ん」

「そうね。ただ次からは無理しないでね」


 ぞろぞろと入ってきたメンバーに、天音が力のない笑顔で謝り、七海たちは気にするなと首を張った。


「あははは……。次からは気をつけるよ」


 みんなの言葉に天音は申し訳なさげに苦笑する。


「あーちゃん、具合はどう?」

「そうね、もう動くのは問題ないと思うわ」


 七海の質問に天音は俺の膝からゆっくり体を起こし、立ち上がって体の状態を確認する。


「うん、問題なさそう」

「そっか。それじゃあ、マッサージ行こうよ。そこでも休めるだろうし」

「いいわね、スパに来たらマッサージ受けなくちゃ!!」


 天音の体が問題ないことを確認した七海は、皆をマッサージに誘う。俺は体自体はマッサージが必要ないくらい毎日快調なので、特にして貰う必要があるわけじゃないけど、マッサージをして貰うことの気持ちよさはまた別にあるので、是非とも受けたい。


 そういえば昔はよく七海が俺の背中に乗って、足で踏んでマッサージしてくれてたっけ。大きくなってからはしなくなったけど、懐かしいな。


 俺は小さい七海が俺の背中の上で一生懸命踏んでくれてる姿を思い出した。


 それはともかく、今はもう閉店時間を過ぎてる。

 お店自他の施設を使うサービスはいいとして、人が関わるサービスは大丈夫なんだろうか。


「そういえば、閉店時間過ぎてるけど、マッサージとかも大丈夫だって?」


 ふと思い出したように尋ねる俺。


「うん!!何処でも使えるって!!」


 全然問題ないらしい。なんだかまた恐縮してしまいそうになるけど、せっかくの好意なので思い切り楽しむ事にする。


「それならいいな」

「うん!!」


 俺が七海に笑いかけると、七海も嬉しそうに笑った。


 まさかここの施設だけじゃなく、そういう別サービスもちゃんと全部やってくれるなんて、ホント至れり尽せりだな。


「そうと決まったら、マッサージエリアに行こう!!」

『おー!!』


 七海の音頭で俺達はマッサージエリアに向かった。


「いらっしゃいませー!!」

「こんにちはー!!」


 元気よく挨拶された七海は、同じように元気よく挨拶を返す。


「ようこそお越しくださいました。お話は伺っております。五名様でよろしいですか?」

「はい、そうです!!」


 にこやかに出迎えてくれたのは優しそうなお姉さん。話もすでに榊原さんから伝わっているようで、俺達に愛想よく対応してくれる。


「うふふ、元気のいいお嬢さんですね。それでですね。マッサージにも沢山種類がありまして。中には服をお脱ぎ頂くものもございますが、いかがしますか?」

「今日は服を着たまま受けられるマッサージをお願いします!!」


 七海の高いテンションを微笑ましそうに眺めながら質問するお姉さんに、七海はそのままの元気で答えた。


 ここで服を脱ぐものとか言われてたら、速攻退避していたな。七海も分別がちゃんとあってよかった。


 俺はひそかに安堵の息を吐いた。


「分かりました。五種類ございまして……」


 お姉さんが今服を着たまま受けられるマッサージの名前と特徴をつらつらと説明してくれる。


 その説明を聞いた七海は、他の三人と相談してとりあえず一つのマッサージに決めるようだ。


「それじゃあ、とりあえず最初のもみほぐしとツボ押しのやつでお願いします」

「承りました。それではあちらの部屋にお進みください」

「ありがとうございます!!」


 ひとまず最初は無難な普通っぽいマッサージから選ぶと、俺達は指定された部屋へと移動した。


「お待ちしてました。それぞれの施術用ベッドにまずうつ伏せで寝転んでください」

「分かりました」


 中には六名の女性が待っていて、全員可愛らしい容姿をしていた。


 こういう所で働く人たちは皆可愛くないとダメなのかな。


 俺はそんなどうでもいいことを考えながら、代表して答えた七海に応じて、空いてるベッドにうつ伏せになって寝転ぶ。


「それでは施術を始めさせていただきますね」

「よろしくお願いします」


 全員の準備が整うと、全く同じタイミングで施術を始められた。


『あぁああああああああああああ』


 そして次の瞬間、全員の口からおっさんみたいな声が漏れてしまうのであった。

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