第138話 天音のお尻と理不尽な要求

「皆集まったようだな」


 そう話すのは早乙女先輩。


 ダンジョン探索部の部長である彼は今、体育館のような部屋の舞台上から僕たちを見下ろしている。この学校に所属する探索者は一年生から三年生まですべて合わせて百二十人程。それが今この場に一堂に会していた。


「担任から話を聞いている通り、俺達はひたすらに戦闘力の強化を行う。面倒な勉強や講習は一切なしだ。それぞれが適正だと思うダンジョンに潜ってひたすらレベル上げだ。特にノルマはないが、一週間に五日毎日八時間以上ダンジョンに潜る事が義務付けられている。ダンジョンの入出場は記録されるので気を付けるように。一応今日から一週間は移行期間というで義務は免除されているので、その間に何か済ませておきたいことがあればやっておくように」


 なるほど。


 これから俺たちは政府の命令で大手を振って昼間からダンジョンに潜ることが出来るってことだ。しかも最低八時間。不謹慎かもしれないけど、これって最高じゃないだろうか?


 俺は熟練度を、シアはレベルを上げられる時間が増えるってことだ。


 今まで学校があって泊りがけは金曜日だけだったけど、ひたすら潜り続けてもいいってことだよな。これは俄然楽しみになってきた。スタンピードは何度か経験しているし、低ランクのダンジョンのスタンピードなら俺達でも大丈夫だと思う。少なくともDランクまでなら問題ないはずだ。


 ただ、入出場記録に関してはどうにかする必要があるな。

 便利の化身であるラックにどうにかできないか聞いてみよう。


「それからパーティの人数が六人以下の所は人員が組合の方から増やすように指示が来る可能性がある。あらかじめ了承しておいてくれ」


 え、マジか。


 確かにパーティのシステムは一つのパーティ六人まで。六人までは経験値の恩恵に与れるということを考えれば六人になるのがベストだけど、俺には秘密が多いので数を増やしたくないんだけどなぁ。


 俺のパーティに入れるとすれば、筆頭は七海だ。黒崎さんと上手い事話してこっちに来て俺のパーティに入れるようにしたい。


 他の候補は今の所いないけど、出来るだけ身内で固めたいところだ。


「ただ、レベル上げも大事だが、一番大事なのはお前たち自身の健康と安全だ。決して無理だけはしないようにな」

『はい』


 最後に部長として譲れないであろうことを述べると別の話題に切り替える。


「以上だ」


 早乙女先輩が話し終えると壇上から降りて解散となった。


「シア、どこに行きたい?」

「朱島」

「やっぱりあそこか~」


 シアに行きたいダンジョンを聞くとやはり朱島ダンジョンに行きたいらしい。


「もっと言うなら野良のとこ」

「あっちのボーナスモンスターの方が経験値も多いのか?」

「ん」

「マジか。でもあっちには行けないだろうしなぁ。朱島で我慢するしかないか」

「ん」


 確かにあっちの方が落とす魔石も大きいから、もらえる経験値も多いんだろうなぁ。


 でも俺たちは探索者としてすでに豊島区で活動している以上、あっちに戻るのは難しいだろうな。まだ活動していないこれから探索者になる人たちの移動はまだなんとかなりそうだけど。


 実家の近くの野良ダンジョンに行けないことが凄く残念そうなシア。アホ毛がしょぼくれている。


「ちょっと、普人君、私をおいて行かないでよ」


 俺とシアで勝手に話を進めていると、天音が会話に割り込んでくる。


 あ、そうだ忘れていた。


「天音か。ちょっと相談があるんだけどいいか?」

「な、なによ……」


 真面目な表情で言う俺に天音は思わずたじろぐ。


「こういう事態にならなかったら話すつもりはなかったんだけどな。ちょっと人の居ない場所に行こう」


 俺は先を促すように出口に歩き始める。


「な、なに……告白かしら」


 俺の話を聞きながら立ち止まる天音。


「ほら、何か言っていないでさっさと行くぞ」

「あ、待ってよ!!」


 俺はそれに気づいて振り返って呼び寄せると、天音が俺達に駆け寄ってきて肩を並べて俺の部屋へと向かった。


「へぇ。綺麗にしてるじゃない」

「ん」


 天音は俺の部屋に入るなり、室内を嘗め回すように観察して感想を述べる。シアも同意するように頷いた。アホ毛は興味津々と言った感じで見回しているような動きをしている。


「ほとんど寝に帰ってるだけみたいなところあるしな」

「ふーん。あ、そうだ!!」


 俺が肩を竦めて答えると、天音は思い出したかのようにポンと掌を叩いて、いきなり四つん這いになってベッドの下をあさり始めた。


 四つん這いになんてなる物だから、こいつの短いスカートからお尻が丸出しである。そこには縞模様に彩られ、両端が紐で結ばれている布が顔を出していた。天音のシアよりも肉付きの良いお尻にむっちりと食い込むそれは、とてもエッチな三角形とラグビーボールのような形を描いていた。


 紐パンかよ……。


 俺は思わず心の中で突っ込みを入れてしまった。


「何にもないじゃーん」


 俺がしばし凝視していたことなど知らずに、望んだ結果を得られなかったらしい天音は、残念な表情を浮かべて立ち膝と正座の中間のような体勢になった。


 どんでもない光景を見てしまったな……。


 俺は思い出して思わず赤面する。


「あれ?どうしたの?」

「え?いや、なんでもないよ?」

「えぇ~怪しいなぁ?」


 俺が赤面しているのに気づいた天音は俺に問い詰めるように下から顔を覗き込んでくる。


「あっ」


 何かに気付いたらしい天音はハッとした表情になって制服のスカートのお尻側を押さえた後、恥ずかしそうに顔を赤らめて俺を睨んだ。


「見た?」

「な、何を?」


 どうやら先ほどまでの自身の行動を鑑みて俺が赤面している理由に辿り着いたようだ。しかし、肯定するわけにも行かないので俺はしどろもどろになりながらもしらばっくれる。


「見ぃた?」

「だから、何を……」


 一歩俺に近づいて再度聞き返す天音に俺は冷や汗をかきながら再び白を切る。


「わ、私のパンツ……」

「み、見てないぞ?」


 すると、具体的なことを言っていなかった天音が顔を背けて顔を赤らめながら明確な名称を上げた。


 うっ。


 俺は思わず心の中で呻く。


 その表情は元々の容姿も相まってシアの笑顔同様に、モブキャラの俺には非常に破壊力の高いものだったんだけど、なんとか再度知らないふりをした。


「本当に?」

「本当だって!!」


 さらに一歩俺に近づいて、俺の下から上目遣いで俺を見つめる天音。俺はその顔を見ていられなくて思わず顔を背けて答えた。


「シア、どう?」


 埒が明かない天音は俺から視線を外して、シアを見る。


「ん。ふーくん凝視してた。私のも見る?」

「見ないから!!」


 ここで意外な所から本当の事を暴露されてしまう。なぜか自分のスカートをたくし上げて自分のパンツを見せようとするシアに俺は首を振った。


 シアの裏切り者!!


「やっぱりね!!普人のエッチ!!」

「いや、完全に不可抗力じゃないか!!」


 見ていたことがバレた俺は、無実を主張する。


 目の前で丸出しになっていたのに見ないとか無理じゃん!!理不尽だ!!


「でも見たんでしょ?」

「まぁそうだけど」


 しかし、事実として咎めるような口調の天音に俺は頷くしかない。


「じゃあ、その落とし前はどうつけてくれるのかしら?」

「え?」


 完全に相手から見せてきたパンツに対する賠償を求められて困惑する俺。


 なんだか痴漢冤罪にあったような気分だ。


「ま、まぁ、今度私の買い物に付き合ってくれるならチャラにしてあげてもいいわ」


 そんな俺に、そっぽを向いて髪の毛を指で弄び、もじもじしながら天音が許しの条件を提示する。


「え、なんでそういうことになんの?」


 なんで勝手に見せられたのに、俺は賠償を求められているのだろうか。


「行くの?行かないの?」


 凄むように俺を睨んで、天音が俺に選択を迫る。


「はい、行かせていただきます」


 こういう時の女性には逆らっていけないという直感が働き、俺は思わず引き受けてしまった。


 こうして俺はなぜか天音の買い物に付き合う約束を取り付けられることになった。


 あれ、何を言おうとしてたんだっけ?

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