第103話 妹との約束を邪魔するもの
「エモーショナル・スタジオ・ジャパン楽しみだなぁ」
「そうか?」
「うん!!」
次の日、俺達は少し遠出をして遊園地へと向かって電車に揺られていた。
エモーショナル・スタジオ・ジャパンは海外の映画の世界を余すところなく堪能できるテーマパークだ。最近は世界的に人気を誇るアニメやゲームとのコラボレーションや、シーズンイベントの開催なども行われていて、さらに人気を博している。
通称ESJと呼ばれ、年間数百万人の来場者を記録していて、毎年その記録は更新されていた。電車もESJ仕様となっていて、乗る人たちのその期待値を否応無しに引き上げる。
「楽しみ」
七海はもちろんだけど、シアも遊園地は楽しみらしい。どうやら遊園地には行ったことないらしく、初めていくのでドキドキしているようだ。
アホ毛がハートの形になって鼓動しているかのように大きくなったり、小さくなったりしている。
結局ダンジョン探索とその報告で五月一日から三日までを消費してしまったので、大分混んでいるであろう四日に来ることになってしまった。
それから三十分ほど電車に揺られた後、ESJの最寄駅に辿り着く。各駅で人がどんどん乗ってきて着くころには満員に近い状態だった。
「人が多いよぉ!!」
「そうだなぁ。この辺りじゃおそらくここぐらいじゃないか?こんなに人がいるの」
「そうかも。ここ以外にこの辺で遊ぶところなんてないし」
俺達が下りようとすると、乗っていた他の乗客たちも軒並み下車していく。俺たちはその流れに逆らわずに乗って駅の出口に向かって歩く。階段を登り、徐々に外の光が目に入る。
「おお、あれが!!」
「エモーショナル・スタジオ・ジャパンだよ!!」
「ん」
駅の出口の正面にすでにそれと分かる程度にESJの入園ゲートが見えている。道の両脇には飲食店やアパレルショップに家電量販店などなど様々な店が立ち並び、テーマパークの前だということもあって街として賑わっていた。
俺たち以外にここで降りた人のほとんどが道を真っすぐに進んでESJの入場ゲートに並んでいく。開園時間はまだだというのにすでに多くの人がゲート前に群がっていた。
「やっぱりゴールデンウィーク真っただ中だから混んでるなぁ」
「しょうがないね」
俺がぼやき、七海が隣で肩を竦める。
「ちゃんと計画建ててきたんだろ?」
「うん、バッチリだよ。絶対乗りたいのから回るから。そのためにファストパスも買ってもらったんだし」
七海にねだられてダンジョンから帰ってきた日に一日券と待ち時間を短縮してアトラクションを楽しむことが出来るファストパスの一番高い奴を購入していた。
それを使えばある程度は乗れるはずだ。
「それじゃあ、とりあえず一番乗りたい順に回っていこう」
「おっけー!!」
「シアもそれでいいか?」
「ん。任せる」
シアに確認した俺たちは入場ゲートに並び、七海にESJの話を聞きながら時間をつぶす。一時間ほど経ってようやく開園し、列が動き始める。
「ようやく入場できるな」
「うん、早く行きたい!!」
それから十五分後に俺たちはやっと中に入ることができた。
「お兄ちゃん!!撮って撮って」
中に入るなり、七海がはしゃいでESJのシンボルマークのオブジェの前で飛び跳ねる。
「分かった分かった。待ってろ」
俺は首にかけていた高そうなカメラを構えた。
このカメラは昨日シアと探索者組合に行った帰りに七海をシャッターに収めるために購入したものだ。いくらだったかは無粋なので言うつもりはない。
「撮るぞー!!」
「いいよ~!!」
「はい、ちーず!!」
俺が叫ぶと七海が手を振ったのでシャッターを下ろした。我ながらうまく撮れたと思う。
「撮れたぞぉー!!」
「それじゃあ、最初は絶対スーパーサンテンドーワールドだよ!!」
スーパーサンテンドーワールドは、三天堂というゲーム会社とのコラボレーションのアトラクションがある区画のことだ。七海はSWOTCHを含むその会社のゲームでよく遊んでいた。
だからその世界にまるで入ったような体験ができるスーパーサンテンドーワールドから回るつもりだったらしい。
俺たちは七海の先導にしたがってスーパーサンテンドーワールドへと向かって歩き出す。
しかし……。
―ウゥウウウウウウウウウウウウウウン!!
その途中で園内にサイレンのけたたましい音が鳴り響いた。
「え?え?何?いったいなんなの?」
七海は突然の大きな音に動揺して辺りをキョロキョロと見回す。俺たち以外の来場者たちも立ち止まってきょろきょろと眺めまわす。
『エモーショナル・スタジオ・ジャパンにお越しの皆さま、緊急連絡いたします。当園の近隣にあります『獣窟』ダンジョンのスタンピードが発生いたしました。係員の指示に従い、避難をお願いいたします。くれぐれも慌てず騒がず、落ち着いて移動してください。繰り返します……』
園内放送でもたらされたのはダンジョンのスタンピードの情報。すぐに係員たちが城内に散らばり、来場者の避難誘導が始まる。
「えぇ~!?せっかく来たのにそりゃないよぉ!!」
そんな中、七海が涙を浮かべて叫んだ。
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