第028話 緊急事態(第三者視点)
探索者組合豊川支部。
神ノ宮学園がある豊川区域を統括する探索者組合の支部である。普人がダンジョンに入ってしばらくした後、その支部の緊急対策室ではある緊急事態に見舞われていた。
「緊急報告!!Eランクダンジョン、朱島ダンジョンにて
コールセンターのオペレーターに近い装いをした職員が室内に響き渡るほどの声量で緊急事態を告げる。途端に場が雰囲気が変わり、緊張感に包まれる。
「なんだと!?一体いつ起こった!?」
信じられない事態に、責任者の男性職員は机に手をたたきつけて椅子から勢いよく立ち上がった。
「今から三十分ほど前だそうです」
「そうか……あの最初期のダンジョンは今まで一度もリバースしていなかった。それなのに一体なぜ今になって……」
責任者の男は難しい顔をしながらブツブツお呟き始めた。
ダンジョンリバースとは、リバースという言葉通り、すでにあるダンジョンの構造、モンスター、宝箱から出るアイテムなどが、まるでダンジョンが生まれ変わるように全て一新される現象のことだ。
それだけなら何が緊急事態なんだ、という話だが、一番の問題は中に探索者たちが居ても居なくても関係なしに構造が作り替えられ、モンスターも変化する、という所にある。
リバースで生まれ変わるモンスターは今までと比べて強くなることが多いので、元のダンジョンの適性ランクの探索者たちが遭遇すればひとたまりもない。それだけに留まらず、ダンジョンの構造変化に巻き込まれて死ぬこともある上に、構造自体が変わって迷ってそのまま行方不明というケースもある。
それだけにダンジョンリバースは余談が許されない災害なのだ。
「それで状況は?」
「現在、連絡が取れない探索者たちが七組あります。それ以外の探索者はすでに脱出済みです」
「そうか。捜索隊の方は?」
「今現在緊急招集をかけておりますが、高ランクのメンバーは遠出しておりまして、集まりが悪いです」
「ちっ。分かった。俺達が現場に向かうぞ!!」
『はい!!』
まだ捜索隊が集まっていないことにいら立ちながらも、責任者の男は対策室のメンバーを連れてダンジョンへと向かった。
「皆さん、離れてください!!ここは危険です!!」
「私たちが安全に誘導しますので、慌てず騒がずついてきてください!!」
「怪我人の方はこちらに集まってください!!」
緊急対策室のメンバーが現場に辿り着くと、人が溢れて場が騒然としていた。多くは近くに居た一般人と探索者達。一般人は突然起こった地震によって身動きがとれなくなった人間達で、探索者たちは命からがら逃げ延びてきた人間達だ。
このダンジョンに隣接している探索者組合の職員たちが誘導したり、怪我人を治療したりしている。
「はぁ……はぁ……新藤室長!!」
緊急対策室の面々が車から降りて職員たちの元に近づくと、職員の一人が慌てて駆け寄ってきて責任者の男、新藤に息を切らせて声を掛けた。
「おう。支所長、今はどうなっている?」
「は、はい。先ほどまで連絡がつかなかった六組の探索者はすでに帰還し、すでに無事を確認しております。しかし、たった一人だけまだ帰ってきていない探索者が一人だけいるという報告を受けております」
「なんだと!?」
状況は良くなっていたが、今中にはたった一人で残っている探索者がいると聞いて、新藤は声を荒げる。
たった一人しかいないのであれば、同じように逃げていた探索者達に助けてもらうことも出来ず、モンスターに襲われたか、ダンジョンに飲み込まれてしまった可能性が高い。
「それで!?そいつの名前は!?」
「佐藤
「なんてことだ……」
前途ある若人が一人、ダンジョンリバースという何年かに一度の災厄に巻き込まれて命を失ってしまうとは。
新藤はやり切れない気持ちでいっぱいになった。
ただ、探しもせずに諦めるわけにはいかない。
「よし、お前ら!!その佐藤ってやつを探すぞ!!」
『はい!!』
緊急対策室のメンバーは隊列を組んでダンジョンの入り口に向かい、そして中へと入ろうとすると、ダンジョン内の暗闇から人影が現れた。
「あれ?皆さんそんなに怖い顔をしてどうされたんですか?」
現れた青年は不思議そうに首を傾げならそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます