第026話 なんだ、ただの2Pカラーか

「のわぁああああああああああああ!!」


 落ちる、落ちる、落ちる。


 一体どこまで落ちるのか分からないけど、俺は特に身の危険を感じていなかった。直感が働かないということは、多分なんとかなるんだと思う。


 これは落とし穴かな?

 そんな罠がダンジョンにはあるって聞くし。

 それにしては長いけど。


 それから数十秒ほど落下すると地面が見えてきた。そういえば光が落ちてきた所にしかないのにも関わらず、俺は辺りが認識できた。


 これは五感で俺の視力とかが向上しているおかげなのかもしれない。


 明らかに人間を超えた能力を見ると、探索者って言うのは本当に凄い存在なんだと感じた。


―ズドンッ


 床に足から突き刺さるように着地するが、床が陥没することはなかった。俺の体も特に問題なさそうだ。どれだけの高さから落ちたか分からないけど、無傷で着地できた。


「ふぅ、到着」


 俺は思考を打ち切って辺りを見回す。


 元々いた迷宮ダンジョンに比べて薄暗いけど、造り自体は同じみたいだ。上を見上げると、落ちてきた穴は既に閉じ始めていて、もう間もなく完全に閉じてしまいそうだった。


「とりあえず出口を探すか……」


 ここで待っていても助けが来るとは思えないし、道が続いている先へと進むことにした。敵の気配が元々のダンジョンと比べて多い。罠だけあってその中は通常よりも厳しい設定になっているのかもしれない。


 多少薄暗く見えるダンジョンをより一層気を引き締めて進んでいく。一分程歩いてモンスターの気配が十メートル程先にある所まで近づき、どんなモンスターがいるのか壁から顔を出して窺ってみる。


「あれは……黒い……コボリン?」


 通常ダンジョンを闊歩していたコボリンは粗末な布を身に着けただけの服装だったけど、この黒いコボリンは立派な鎧を身に着け、手にはククリ刀のように酷く湾曲した得物をもって徘徊していた。


 鼻をヒクヒクと動かしながら付近を見回っている所をみると、偵察か何かをしているのかもしれないけど、後方にいる俺のことはまだ見つけていないらしい。


 落ちた場所からは一本道。このコボリンがいる場所を通らなければ先へは進めない。


「よし……いくぞ」


 俺は気を引き締めて黒いコボリン、もといブラックコボリンの背後へとゆっくりと迫った。幸い拍子抜けもいいところで、全く気取られることもなく、俺の攻撃の射程内まで近づくことができた。


「ふっ!!」


―パァンッ!!


 俺が意を決して拳を振りぬくと、ブラックコボリンはこのダンジョンで出会った他のモンスターと同様にはじけ飛んでしまった。


「思ったよりあっけなかったな……」


 罠の中なので滅茶苦茶強い敵とかが出てくるのかと警戒したけど、実際蓋を開けてみれば、通常ダンジョンとそう変わらない程度。


 見た目が通常ダンジョンとは違うだけだった。


「うぉおおおおおおおおお!!」


 でも落ちた魔石の大きさが通常ダンジョンとは段違いで、直径五センチ程度の大きさの魔石が落ちていて興奮して叫んでしまった。直径一.五センチ程度のEランクモンスターの魔石よりも大きく、小指の先程度の大きさだったFランクダンジョンとはけた違いだった。


「これいくらくらいになるんだろう……」


 今まで見たことがない大きさの魔石にゴクリと喉が鳴った。


 それにしても通常のコボリンと何も変わらないモンスターを倒しただけなのにこんな大きな魔石が貰えるなんて、このモンスターは罠と見せかけた、見た目が違う事に対する恐怖を克服する、という試練を乗り越えたものにだけ与えられる報酬なのかもしれない。


 俺はそれからも、装備が見た目だけ派手になった黒いモンスターたちを倒しまくりながら、直感が告げる奥への道を突き進んでいく。どのモンスターも黒いコボリンと同じくらいの魔石を落としてくれて俺はウハウハな気分になった。


「後はここから出られたら最高なんだけどなぁ……」


 魔石はリュックに入れているけど、もうそろそろ一杯になってしまうし、そもそも外に出て換金できなければただの石だ。だから早く帰り道を見つけたいのに、なかなか脱出する方法がわからないままだ。


「俺の直感は間違いなくこっちだって言ってるんだけど、道を間違ったかな?」


 俺は自分の直感が信じられず、少し不安になった。ただ、今のところ他に頼れるモノもないので、直感を信じて辿り着くところまで行ってみようと思い直し、さらに奥へと進んでいくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る