上を見ろ

ぐっしー

第1話

ともき「申し訳ありません!」


携帯で話した声は

夜の町に響きわたる俺のなんとも情けない声。

でもいいんだ。だってこんな田舎町。夜になれば人っ子1人いないんだから。

何を言ったって大丈夫。例えば


ともき「くそったれー!!」


・・・


ほらね(笑)

よし、調子に乗って


ともき「うんこ!うんこうんこ!!ぶりぶりぶりぶ」

野良犬「ワンワンワン!!う〜!ワン!!」

ともき「うぉ!びっくりしたぁ、、、」

野良犬「う〜・・・」

ともき「はぁ(ため息をついて)ほれ」


野良犬は俺のあげた食べかけのパンを美味しそうに食べている。


ともき「相手をしてくれるのはお前だけかよ」


電話では謝り倒し

夜中の町で意味不明な事を大声で叫び

野良犬に話しかけている俺は「ともき」

25歳。身長168センチ。体重は70キロ。世間ではおおらかなはずなO型。


そう。


もちろん独身。


そう。


もちろん彼女なんていない。


そう。


もちろん友達もいない。


はぁ?もちろんもちろんやかましい?


もちろん仕事もうまくいかない。毎日毎日同じことの繰り返し。


ともき「お前はいいなぁ。野良だから毎日刺激的だろ?」

野良犬「ワン?」


野良犬に話しかけながら缶ビールを開けピーナッツの袋を開ける。

これ、俺の楽しみ。


ともき「よし、今日はもういいや。一緒に飲もうぜ。名前は、、、ピーナッツと名付けよう」

野良犬「ワンワン!」

ともき「嬉しいか!よ〜しよしよし!・・・はぁ。」


俺の楽しみ。本当は違う。


辛さ

寂しさ

不甲斐なさ

情けなさ


なんとも言えない感情をただボカしているだけなんだよな。


ともき「こんなはずじゃなかったんだよなぁ」

野良犬「・・・」

ともき「昔はこれでも学校では人気者でさ。女の子たちにもそこそこモテたんだぜ」

野良犬「・・・」

ともき「足も早かったしスポーツも割と得意でさ」

野良犬「・・・」

ともき「勉強もそこそこで、このまま良い会社に就職して母さんも楽にしてあげてさ」

野良犬「・・・」

ともき「俺、絵が得意でさ?見る?これを自慢したくてさ」

野良犬「どれ?おーともき!凄いじゃないか!!」

ともき「えへへ!学校で1番の賞を取ったんだよ!」


話しをしていくうちに過去の時代に戻っていく。

野良犬が父として話が進んでいく。

まったく、わけがわからないよね。これもお酒のせいだよ。

そうだよ。


きっと


野良犬「こりゃともきは将来は画家か有名な漫画家になるなぁ!」

ともき「そうかなぁ(照)これもまた新しく書いたんだ!どう!!」

野良犬「う〜ん、新しいなぁ。よし!記念にこれは額に飾ろう!」

ともき「恥ずかしいよ」

野良犬「母さん!見てごらんよ!ともきがまた絵を」

ともき「恥ずかしいよ〜!」

野良犬「パパはな、字が汚いからともきが羨ましいよ」

ともき「えー?じゃあパパ何か字を書いて見て」

野良犬「よし(泣という字を書く)どうだ!」

ともき「これ泣く?読みづらいよー」

野良犬「芸術的だろう?アッハッハ!ともきはすごいな!」

ともき「でも、僕の絵を褒めてくれるのパパくらいだから」

野良犬「なんだと?じゃあ父さんがともきの絵をず〜っと褒め続けてやる!」

ともき「えぇ(笑)」

野良犬「ともきはすごい!さすが俺の子だ!天才だー!!」

ともき「パパ変なの〜」」

野良犬「フレ!フレ!ともき!フレ!フレ!ともき!

ともき「パパそう言ってたじゃん、約束したじゃん」

野良犬「フレ!フレ!ともき!フレ!フレ!ともき!」

ともき「なのに」

野良犬「フレ!フレ!ともき!フレ!フレ!ともき!」

ともき「なんで死んじゃったんだよ!!」


元の世界に戻る。

野良犬はびっくりして走って逃げていく。


ともき「・・・」


俺は本当は絵を描く仕事がしたかった。親父が喜ぶ顔が見たかった。

でもさ。その親父が死んじゃったらそんなことできないよ。

誰が母さんを守るのさ。

親父は大腸ガンと診断されてから半年も持たなかった。発見が遅かったんだよな。

携帯には親父の写真がうつっている。


ともき「親父、この頃まだ元気そうだなぁ」


昔を思い出し親父のやりとりを思い出す。


親父「ともき、男は女の人を守らなきゃいけないんだ。だから男の方が体も大きいし力も強いんだ」

ともき「うん!」

親父「だから女の人には優しくな!男は絶対に泣くんじゃないぞ!」

ともき「わかった!僕絶対に泣かない!」

親父「でもな、母さんだけは別だぞ。母さんは男よりも世界一強いから逆らうな」

ともき「あはは!なにそれー!」

親父「よしよし!たくさん笑え!笑う証拠はたくさん頑張っている証拠になる!立派な男になれよ!」

ともき「うん!」

親父「だがな、どうしても辛くなったりしんどくなった時のために良い場所を教えてやる。これは父さんもたまにこっそり使っている場所だ。そこはな・・・」


ふと我にかえるともき。


ともき「しんどいときに・・・そこは・・・」


考え込むともき。


ともき「・・・忘れた。全然思い出せない。なんだよ!」


どれだけ考えても思い出すことができない。

なんだよ。ってことはどうせ大した場所じゃないんだ。諦めよう。

そう考えていた時だった。


野良犬「ワンワン!!ワォ〜ン!!」


さっきの野良犬の鳴き声が暗闇から聞こえてくる。

なんだろう。俺は無意識に野良犬の鳴く方へと走り出した。


草木をかき分け、田んぼ道を通り

向かった先に光が当たっている。


ともき「これ・・・電話ボックス」


野良犬は俺の姿を確認すると暗闇へと戻っていった。

その顔は少し笑っているように見えた。


ともき「ここは、小さい頃俺が迷子になった時に」


まだ小学生くらいだっただろうか。友達とかくれんぼをしていて隠れていても誰も見つけてくれなくて

雨が降ってきたんだ。

それで雨宿りをするために入った電話ボックスだ。


ともき「まだあったんだ。あの時は心細かったよなぁ」


まだ小さかった俺は1人でいることが寂しくて


辛くて


悲しくて


でも親父にずっと言われていた


「男は泣くな」


を幼いながらずっと守っていたんだ。

その親父が教えてくれた


辛くなった時のための良い場所


ともき「ここ・・・か」


俺は電話ボックスに近づきゆっくりと扉を開けた。


ともき「ここが?人気がないからってことか?元々この町自体人気なんて」


すると電話ボックス正面に紙が貼ってあるのを見つけた。そこには


「右を見ろ」


ともき「はぁ?」


右を見るとまた紙が貼ってあるのに気づいた。そこには


「左を見ろ」


ともき「左?」


左を見るとまた紙が貼ってある。そこには


「下を見ろ」


下を見るとまた紙が貼ってある。


「上を見ろ」


はぁ。子供じみた仕掛けだ。馬鹿馬鹿しい。こんな夜中に僕はなにをやってるんだ。

明日も早い。早く帰ろう。

そう思いながら俺は上を見上げた


ともき「・・・」


俺はその瞬間全身が震え


涙が止まらなくなった


どうしようもない声が止まらなくなった。


ともき「ぐ・・・う、うぅうぅ、、えふ!えふ!アァァッァアア、アーーーーーー!!!」


ずっと泣くことを禁じられてきた。泣きかたがわからない。これが正しい泣きかたなのかもわからない。

きっとさっきの野良犬の方が綺麗に泣いていたのではないか。


「上を見ろ」


上には紙が貼ってあり

そこには汚い文字で


「泣いていいんだよ」


っと書いてあった。

この汚い「泣」という字は間違いなく亡き親父の字だった。

親父が

「泣いてもいい」

っという思いを言葉では伝えることなできなかったのだろう。


俺は泣いた。

体中の水分がなくなり枯れ果てるほどに。


しばらく時間が経った。

それが何分なのか

何時間なのかはわからない。泣くということはこんなにも疲れ、重いものが取れていくような感覚になるのだとは知らなかった。

僕は携帯を取り出し母に電話をしようとした。


ともき「充電切れてる・・・あ」


そう。ここは電話ボックス。

僕は財布から10円玉を取り出しお金を入れ手帳で番号を調べ母親に電話をかけた。


ともき「もしもし、母さん・・・俺さ、仕事やめるわ」


しばらく沈黙したあと俺ははっきりと母さんに思いを伝えた。


ともき「俺さ・・・画家になりたい」


初めて母さんに思いを伝えれた日。この電話ボックスが、人生を変えた。

そんな時にも親父の言葉を思い出す。


「言葉よりも、行動で周りを光らせろ」

野良犬「ワォ〜〜〜〜ン」


この日


1番綺麗な泣き声が町に響き渡った。


終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

上を見ろ ぐっしー @14841484

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ