第24話


「これより、ポーション作りに着手する!」


「ご主人、誰に向かって宣言してるニワ?」



 ドロンの呆れを含んだ物言いに全力で無視を決め込むことにした俺は、さっそくポーション作製に乗り出すことにした。



 現状MOAOでの回復アイテムに関する状況を説明すると、ポーションを含めた回復系アイテムは生産職プレイヤーの間ではほとんど生産されておらず、ショップにもオークションにも出品はされていない。



 理由としては、現在生産職プレイヤー達が主に生産している物品が武器と防具ということが一つ、戦闘職プレイヤー達の間で回復アイテムがNPCの店で売っているものでも事足りているというこの二点が挙げられる。



 ただそんな中でも一部のプレイヤーはポーションを作るための活動を行っているようだが、その成果は芳しくなく完成には至っていないようだ。



「とりあえず、ポーションといえば調合だよな。素材の一つが薬草なのは確定だとして、もう一つはなんだ?」


「……」



 現在俺の手元にあるのは【薬草】だけであり、調合するためには薬草の他に最低あと一つ何か材料が必要だ。基本的にRPGにおいてポーションとはHPを回復するためのアイテムだと相場が決まっており、それを調合するためには薬草の効果を高める何かを足すというのがセオリーだったりするのだが……。



「……あ、そうだ。おい、ドロン」


「なんですかご主人」


「お前、ポーションを調合するために必要な材料とか知ってたりしないよな?」



 前回の二の舞になりたくなかった俺は、奴が何かしらの情報を持っていないのか確認の意味を込めて聞いてみた。すると、どうやら俺の予想は正しかったようでこんな答えが返ってくる。



「ポーションなら【薬草】と【ブルーキノコ】でできるニワよ」


「おい、なんでそれを先に言わないんだ?」


「聞かれなかったからニワ」


「……」



“聞かれなかったらなんも答えんのかい!”という関西人風のツッコミが喉の奥まで出かかったが、それを辛うじて飲み込み欲しかった情報が得られたということだけでも良しということにした。



 だが、これはあとになって気付くことになるのだが、基本的にハニワんずは生産のサポートをしてはくれるものの、こういった生産に関わるレシピなどの情報はなかなか教えてくれない傾向にあると掲示板で書き込まれていた。



 どうやらハニワんずにはステータスにない好感度のようなものがあり、それが高いとそういった情報を教えてくれることがあると検証組の手によってのちに明らかになるのだが、あれだけ俺の体罰を食らっておいてこいつの好感度が高いはずはない。



 体罰云々に関してはドロンの自業自得な部分もあるので、すべての行いが俺のせいだということでもない。ではなぜドロンは俺に生産に関わる重要な情報を教えてくれるのかという疑問に行き着く。



 そこで俺が一度ログアウトした時、上司の三河さんが話していた内容を思い出す。彼女の話ではドロンのあのひねくれた性格が選ばれるケースというのはかなり確率が低いレアケースだと言っていた。であれば、そのレアケースが性格だけでなく重要な情報を教えてくれる頻度に影響を与えているのではないかという考えに至った。



 好感度に関係なく情報を教えてくれるというのであれば、あの性格を加味した時にその部分で相殺されている可能性は十分ある。



 だが、そういったものは一切関係なく、ただ単純にドロンが馬鹿で教えちゃいけない情報をペラペラと喋っている可能性もそれはそれで捨てきれないという考えにも行き着いたのだ。そこで俺の予想が当たっているかどうか確認するため、ドロンにこう質問した。



「おい、ドロン。その情報喋っていい情報なのか? 運営から喋っちゃダメだって言われてないのか?」


「うーん……あっ」



 俺の問い掛けに手を顎の部分であろう場所に当てつつ思案する雰囲気を見せたと思ったら、突然何かに思い至ったかのような声を出した。



 それだけで俺はすべてを理解した。今まで俺がうだうだと宣った考察は全部間違いであったということに。そして、ただこいつが馬鹿だったということに……。



「あ、あのーご主人。さっきのはき、聞かなかったことにして欲しいニワ……てへ」


「そんなことで誤魔化されると思ってるのかお前? 今まで散々俺をイライラさせてきたんだ。もののついでにもう一つ二つ言っちゃいけないことをここで全て吐け」


「全て吐けって言ってるのに、ものついでに一つ二つとはこれ如何にニワ?」



 それからドロンにもっと情報を吐けと迫ったが、さすがにこれ以上はまずいと思ったのか頑なに答えようとしなかった。いつものように肉体的言語で体に聞いてもいいのだが、今回の場合はこちらから仕掛けることになるので運営が黙っていない可能性がある。



 諸々の事情を考慮した結果、今回は何もせずにこのままとした。下手に拷問して運営から何かしらのペナルティを課せられても困るし、大体今回のことだけでなく今だって推測ではあるが、ある程度黙認されている可能性も無きにしも非ずな状況なんだから。



「もういい、いつもの作業に戻れ」


「え、それだけニワ? いつものように殴らないニワか?」


「その言い方だと俺がいつもお前を好き勝手に殴ってるように聞こえるんだが?」


「……実際間違ってないと思うんですがニワ?」



 誠に以って遺憾である。誰が好き好んではにわをいたぶるものか。俺が奴に手を上げるのは、奴に絶対の非があるからだ。そして、今までのこいつの性格を鑑みるに口で言ったところでこの性分は十中八九直らない。口で言って直らないのなら、直接的な方法で矯正するという方法を取るのは至極真っ当なことではないだろうか?



 それ故に俺が奴に対して行っている体罰の直接的な原因を作っているのは、他でもないドロン自身だということだ。



 これ以上の情報は出ないだろうと判断し、自力で何とかしてみることにした俺は、ドロンの額にデコピンをかましながら作業に戻れとだけ伝えて工房から追い出した。



 額をさすりながら「やっぱり好き勝手に殴ってるニワ」と呟きながら不承不承俺に俺の指示に従って工房を去っていった。



「さて、生産のお時間だ」



 わざとらしく腕まくりをしながらそう呟いた俺は、さっそくポーションを作るための作業に入る。まずやるべきことは、ドロンが言っていたポーションの材料である【ブルーキノコ】というアイテムを入手しなければならない。



 幸いなことにショップを見ていた時に、マイエリアの施設販売コーナーで【キノコの原木】というものが売られていたので、それではないかと当りをつけ早速購入をしようと思ったのだが……。



「50000マニーか、金が足りん!!」



 今日だけで工房の強化やその他施設の増築などに持っていた全ての有り金を使ってしまい、現在文字通りのすってんてんな状態なのだ。



 ポーション作りに着手するとかドロンの前で高らかに宣言しておきながら、まさかの金欠でポーションの材料になる可能性のある設備を用意できなくなるとはなんとも情けない話だ。



 だが、そこは腐っても生産職人の端くれ、金がないなら何か作って売ればいいだけの話だ。



「……そうだ、例のアレに手を付けていなかったな。今まで作ったものを生産するより、新しいものを作った方がいいだろうし、ここは一つアレに手を出してみるか」



 そう呟くと、俺は金策のための新たな品物を作るためとある場所へと向かった。

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