第22話


「はあ、はあ、はあ、な、なにこれ。めちゃくちゃ難しいんですけど……」



 結論から言おう、この研ぎ場という施設かなりの難物であった。研磨するための機械は、工場などで使われる電動式の研磨機によく似た形状をしたいたが、コンセントなどが出ていなかったので、電気で動くものではないようだ。



 そこはゲームの世界なのでそこまでリアリティを求めたりはしないが、ただこういう機械って、どういう原理で動いているのか詳細が知りたくなったりするんだよなー。



 いろいろと考えたが作業に集中することを優先し意気揚々と最初の一本目を研ぎ始め、徐々に石の剣が研ぎ澄まされていくところまではよかったのだが、仕上げに入ろうとしたところで問題が発生した。



 なんと、今まで順調に研いでいた石の剣が何の前触れもなくポキリと折れてしまったのだ。そのあまりの唐突な結末と、石の剣が折れる音が予想よりも大きかったことで思わず「わあっ!」と声を上げてしまった。



 どうしてうまくいかなかったのか頭の中で思案していると、今まで黙って見ていたアイツが余計な一言を言ってきた。



「うむうむ、ローマは一日してならずニワよ。ご主人」


「ああ?」


「だから、何でもかんでも自分の思う様に上手くはいかな――」


「お前がそれを言うなぁ!!」


「ずべらぼべっ」



 研磨が上手くいかないことに苛立ちを感じていたところに、ドロンのいつもの軽口に過剰に反応してしまい怒りのアッパーが炸裂する。



 そして、当然の如くその物理的な勢いは止まることなくドロンに伝わり、工房の壁部分に激突という形で幕を閉じた。幸いなことに壁に傷一つ付くことはなかったのだが、ドロンがぶつかった部分に不浄な何かかが纏わりついていそうだったので、あとで綺麗に拭いておこうと心の中に留め置いた。



 ようやく静かになった工房で作業に集中するが、なかなか思う様に研磨が成功しない。途中まではうまくいくのだが、ある一定のラインを超えると途端に脆く折れてしまう。



 三本目の石の剣がお釈迦になり、四本目の研磨に取り掛かろうとしたところでアイツが再び復活してきた。



「だいぶ苦戦しているようですニワねー」


「……」


「さっきっから、ポキポキポキポキ折れまくりですニワねー」


「……」


「どうしたらいいか、教えて欲しいニワか?」


「……ん? おい、ちょっと待て。その口ぶりからすると、研磨のやり方知ってるのか?」


「知ってるニワよ」


「……」



 これである。こいつはあろうことか研磨のやり方を知っているにも関わらず、今の今まで黙っていやがったのだ。俺が奴にアッパーを炸裂させ実際に復活してきたのは、俺が二本目の石の剣を研磨している最中だ。つまり、研磨のことについて教えるチャンスはいくらでもあったのに、三本目が折れるところも黙って見ていたし四本目に取り掛かろうとしている今ですら下手をすれば言わなかった可能性もある。



「おい、ちょっと話がある。表出ろ」


「なんですかニワ?」



 その後ドロンがどうなったのか、それを知るものは誰もいない……ただ一人を除いて。それからプレイヤーの行動を監視しているGMが、畑に埋もれたままそこから抜け出そうと暴れている一体のハニワんずの姿を目撃したが、過去の映像から何が起こったのかを察しそのまま次のプレイヤーの監視へと移っていった。去り際にGMがその監視モニターに映っているハニワんずに向かってこう呟いたそうだ。「そりゃそうなるわ」と……。



 いろいろとイライラすることが連続していたが、これでようやく前に進むことができることを良しとし、作業を再開する。



 ちなみにドロンに制裁を加える前に研磨について聞き出しているので、そこは安心して欲しい。



 奴曰く、研磨には研磨可能な度合いのようなものがあって、そのタイミングを見極めて工程を進めていかなければいけないらしい。当然だがぎりぎりまで研磨することで高い効果が見込めるが、その分失敗する確率も高くなる。



 すでに実証済みだが、失敗すると研磨していたものは壊れて消失してしまう。成功すると品質と耐久度が上乗せされるのだが、研磨を掛けるタイミングによって上乗せされる耐久度にばらつきがあるらしい。



「とりあえず、まずは軽く研磨してみるか」



 ひとまず成功例を出すために、品質が最低の耐久度が80という石の剣を軽めに研磨してみた。するとようやく成功し、品質が劣化の耐久度が87という石の剣が出来上がった。



「なるほど、一度研磨したものは二度は研磨できないのか。それとも今の研磨機では一回分しか研磨できないのか? まあ、そこは保留だな」



 なにはともあれ、ようやく研磨に成功し足掛かりを掴んだことに安堵する。それから言葉通りさらに研鑽を積み、なんとなく限界のタイミングが掴めてきた。



「うし、今の段階ではこれが限界だな」



 そう言って今日研磨した石の剣の中で一番の出来になったものを掲げる。ちなみにできたものの詳細はこんな感じだ。




【石の剣】レア度:レア  耐久度:200 / 200  効果:【STR上昇 低小】、【AGI上昇 最低】、【DEX上昇 最低】 品質:高質




 まさに圧巻の一言である。研磨の説明では耐久度と品質が向上すると表記されていたが、それ以外にもレア度と効果にも影響を与えることがわかった。



 ただの石の剣がまさかここまで強化されてしまうとは思わず、まじまじと観察し何度も何度も鑑定をしてしまう。



《特定条件を満たしました。プレイヤー【スケゾー】は【初級研磨】を獲得しました。【初級鑑定】がLv25になりました。【鑑定精度上昇Ⅰ】が【鑑定精度上昇Ⅱ】になりました》



 新しいことをやればさらに新しいことが出てくるわけで、今回もいろいろと手に入れることができた。



 まず新たなスキル【初級研磨】を手に入れたのは普通だとして、問題は【初級鑑定】のレベルが25になったことで、すでに修得していた【鑑定精度上昇Ⅰ】というアーツが【鑑定精度上昇Ⅱ】に上がった。



 さっそく確認してみると【初級研磨】は文字通り研磨の成功率などの諸々に補正が掛かるスキルでレベルが上がれば上がるほど失敗する確率と掛けることができる度合いが多くなるようだ。



 次にパッシブアーツの【鑑定精度上昇Ⅱ】だが、今まで鑑定できなかったものが鑑定できるようになるようで、例えばずっと謎に包まれていた【何かの草】という名前のアイテムが【薬草】だということが判明した。



「よし、いいぞ。これでポーションが作れるんじゃないか」



 薬草といえば回復アイテムであるポーションの材料というイメージが俺の中である。実のところポーションの調合はこのMOAOを始めた時から頭の隅にあって、ずっと探していたのだがなかなかそれらしい材料が見つからずにいた。



 他の生産作業もあり、今の今まで積極的に手を付けずにいたが鑑定能力がアップしたこのタイミングで探していたものが見つかるとは思わなかった。



「あとは調合する方法がわかればいいんだが、その辺りはたぶんアイツが知ってるだろからあとで吐かせるとして、他の装備も研磨してしまおう」



 それから、自分が作った装備を可能な限り研磨した結果、全体的に能力が向上したとんでも装備が完成してしまうこととなり、達成感が半端なかった。



 余談だが、試しにその研磨済みの装備をオークションにいくつか出してみると、物凄い競り合いが行われ最終的に12000マニーという価格で落札された。



 そして、その装備の出所や詳細についての情報が掲示板で飛び交うこととなり、しばらくはその話題で持ち切りになったのは言うまでもないことであった。

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