第11話


 翌日、まだ作ってなかった料理を作り、今出ている食材の足りないレシピ以外の料理を作ることに成功したので、今日は生産ギルドに行ってみることにした。



 ちなみに出来上がった料理の情報は概ねこんな感じだ。



【パン】:小麦を使ったごく一般的なパン。何もかもが普通である。 レア度:コモン 品質:最低  腹具合を15%回復。



【サラダ】:様々な野菜を使って作られたサラダ。これといった特徴はない。 レア度:コモン 品質:最低  腹具合を10%回復。



【サンドイッチ】:パンに野菜を挟んだ料理。不味くはないが、美味くもない。 レア度:コモン 品質:最低  腹具合を17%回復。



【ふかし芋】:ただふかしただけのじゃがいも。素朴な味なので、好きな人にはたまらない一品。 レア度:コモン 品質:最低  腹具合を8%回復。



【マーマレード】:みかんを砂糖で煮込んだ調味料。あらゆる用途で使用可能。 レア度:コモン 品質:最低  腹具合を3%回復。



【マーマレードサンド】:パンにマーマレードを塗っただけのもの。 レア度:コモン 品質:最低  腹具合を16%回復。



【三種の果物盛り合わせ】:りんご・みかん・ももを切って皿に盛りつけただけの一品。 レア度:コモン 品質:最低  腹具合を13%回復。




対象が料理だからか、新たに腹具合の回復という項目が増えているが、概ね他のアイテムと同様の表記のようだ。



「そうだ、ギルドに行く前にステータスのチェックをしておこう」



 凝り性な性格が仇となってしまったのか、今の今まで自身の能力の確認を怠っていたことに気付き、反省しながらもすぐにステータスの確認を行う。





【名前】:スケゾー


【職業】:生産職


【ステータス】



 HP  60  レベルアップまであと367


 MP  15  レベルアップまであと269


 STR  H    レベルアップまであと485


 VIT  H    レベルアップまであと471


 AGI  H    レベルアップまであと443


 DEX  G-   レベルアップまであと470


 INT  H    レベルアップまであと433


 MND  H    レベルアップまであと455


 LUK  H+   レベルアップまであと860




【スキル】:初級鑑定Lv21、初級木工Lv16、初級農作Lv12、初級石工Lv11、初級採掘Lv11、初級鍛冶Lv9、初級調理Lv5


【称号】:なし




 さすがにいろいろとやっていたこともあり、ステータスの能力値とスキルレベルが依然確認した時よりも軒並み上昇している。



 そして、いつのまにか【初級調理】というスキルをゲットしていたのだが、インフォメーションのウインドウを確認するとしれっと“【初級調理】を獲得しました”と出ていたため、どうやら俺の確認不足だったようだ。



 それから各パラメータについては以前プレイしていたVRMMOと同じで、+と-それから何も表記されないフラットがあって、+の次はアルファベットが変化するようだ。



 以前と同じ仕様であれば、アルファベットは最低の【H-】から始まって最高は【SSS+】となるはずだ。



 右側に表記されている“レベルアップまであと○○”については、確かな情報が無いため推測の域を脱することができないが、おそらく次の段階に上がるための経験値のようなもので、特定の行動を起こすことでポイントのようなものが発生し、それが残りの数字から減算されていっているものと思われる。



 これ以上の推察はいたずらに時間を浪費する無駄な行為だと考えた俺は、こういった解析系の話題は専門家に任せることにして、生産ギルドに向かう準備を進めることにした。








「しらばっくれてんじゃねぇーよ!!」



 生産ギルドにやって来た俺を出迎えてくれたのは、建物内に響き渡る男の怒声であった。



 当然であるが、その声は俺に向けられたものではなく、他のプレイヤーに向けてのものだ。



 男の目の前には、まるで小動物という表現が似合うほどの小柄な少女が佇んでおり、男の声にビクビクと肩を震わせていた。



「だ、だから何度も言ってるじゃないですか。そんな名前のプレイヤーなんて知らないって」


「はっ、そんなんでこの俺が騙されるとでも思ってるのか、ああ?」


「騙すも何も、本当のことですから」


「うるせぇ! とにかくてめぇがスケゾーなんだろう?」




 男と少女が口論している中、どこかで聞いた名前が耳に入ってくる。



(スケゾーって……この騒ぎの原因の一端は俺かよ!)



 二人のやり取りから察するに、男が少女のことを今巷を騒がせているスケゾーというプレイヤーだと勘違いし、絡んでいるというところまでは理解できた。



 自分のことなのであまり過大な評価はしたくないのだが、他のプレイヤーの動向は掲示板などで確認しており、その内容を見れば俺というプレイヤーがどう映っているのかぐらいはなんとなくわかるのだ。



 現時点において生み出すことが困難とされる品質が【最低】以外の高い品質のアイテムを生産し、他のプレイヤーよりも充実した品揃えを誇っている生産職プレイヤーというのが他のプレイヤーの印象らしい。



 その正体は分からず、分かっているのは名前と作り出すアイテムのみのため、彗星の如く現れた謎のプレイヤーとしても注目が集まっていると掲示板の書き込みが盛り上がっていた。



 少し脱線してしまったが、今の状況を見て俺は動けずにいた。



 というのも、男と少女の口論の原因はスケゾーというプレイヤーの存在、つまり俺だ。だがしかし、直接的に俺が何かした訳でもなく、仮に正義感を振りかざして俺がスケゾーだと名乗り出たところで待っているのは更なる面倒事を引き起こす結果しかないだろう。



 少女を助けるため名乗り出れば面倒事になり、このまま黙ってやり過ごせば、関係者なのに何もしなかったという罪悪感に苛まれるというどっちつかずな状態に陥っている状態なのだ。



(くそう、どっちを選んでも待っているのはバットエンディングとか、とんだクソゲーじゃないか!)



 俺が心の中で悪態をついていると、ここで救世主が現れた。



「それくらいで、やめておいたらどうかしら」


「お前、誰だ?」



 男に声を掛けてきたのは、女性だった。女性といっても、まだ十代後半から二十代前半くらいの少女から女性になる年代ではあるが、概ね女性と称して問題ない年頃だろう。



 身の丈は百六十センチ中頃と女性としてはやや高めだが、肉付きがよく特にある一部分がたわわに実っている。真っ赤な長髪を後ろで纏めており、俗に言うポニーテールというやつだ。



 目つきが少しだけきつい印象があるものの、顔の各パーツは整っており、美人と言っても差し支えないほどだ。



「あら、あたしのことを知らないやつがいるなんて、あたしもまだまだってことかしらね」


「はぁ? お前一体言ってやがるんだ?」



 要領を得ない物言いに男が怪訝な表情を浮かべていると、突然女性の雰囲気が変わりその場に緊張感が漂い始める。



「あたしはメイリス。元【マイン・オブ・ファンタジー・オンライン】生産ギルド【クリエイトワーカーズ】のギルドマスターをやっていたと言えば分かるかしら?」


「な、なんだと!? おめぇがあの“#我道邪姫__がどうじゃき__#”だってのか」


「……その呼び方はやめてちょうだい」



 どうやら男に声を掛けたのは、名のあるプレイヤーらしく俺同様に様子を窺っていたプレイヤーたちが「あれが噂の邪姫か」とか「あの男終わったな」などという言葉が聞こえてくる。



「あれが、噂に聞く我道邪姫か」


「噂ってなんだ?」


「なんでも、MOFOで最初にして最後の伝説のグランドマスターを引退に追い込んだ張本人らしい」


「マジかよ、あの噂って都市伝説じゃなかったのか」


「本当みたいだぜ。あいつの“我が道を行く”っていうスタイルが原因で、グランドマスターが無名時代に全生産職のプレイヤーから総スカンを食らったらしい」



 周囲のプレイヤーから様々な憶測が飛び交う中、話が脱線しかけていることに気付いた彼女が、咳ばらいを一つして軌道修正のため話を元に戻した。



「とにかく、二人のやり取りを最初から見てたけど、あなたの一方的な物言いにしか聞こえないわ」


「おっ俺は、ただこいつがスケゾーじゃないかって思ったから声を掛けただけだ! 何もやっちゃいねぇ」


「あたしは最初から見てたって言ったでしょ。彼女はずっと「スケゾーという名前は知らない」って言ってたじゃない。それにあなたのやったことは、MOAOの利用規約である【ハラスメント行為】に十分抵触すると思うのだけれど?」


「ぐっ」



 メイリスに指摘され、初めて自分がやっていた行為が良くないものだったと気付いたようで、男が言葉を詰まらせている。



 VRMMO【メイク・オア・アドベント・オンライン】ことMOAOには、プレイする際に守らなければならない規約というものが存在する。



 その多くは、現実世界の法律に違反するような行為を禁止するという内容が基本となっていて、意外と厳しい。特に対人関係において、相手の名誉を傷つける行為や誹謗中傷などはもちろんのこと、ゲームのルールが適用されない状態で肉体的または精神的な暴力行為を行った場合【ハラスメント行為】として厳しいペナルティを受けることになっている。



「そこのあなた」


「は、はひぃ」


「今回の彼の行動は、あなたに対するハラスメント行為になるんだけど、どうする? ゲームマスターに報告すれば、対処してくれると思うわ。というか、こういう場合ハラスメント行為を受けた可能性があるということで、インフォメーションに表示されているはずだけれど?」


「え? あ、はい、確かにそういう内容のメッセージが来てました」


「それで? 申請するの?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! お、俺が悪かった。この通り謝るから、申請しないでくれっ!!」



 自分が不利な立場にあると感じた男が、急に態度を急変させ少女に頭を下げた。被害を受けた少女も、そこまで大事にするつもりもないため、今回は申請しないという運びとなった。



 あれだけの横柄な態度だった男も、他のプレイヤーの視線に居たたまれなくなったのか、逃げるように生産ギルドを後にした。



「あ、ありがとうございました」


「お礼はいいわ。その代わりあたしの質問に答えてちょうだい。あなた、本当にスケゾーじゃないのよね?」


「はい、わたしのプレイヤー名はタマキですし。あっ、自己紹介がまだでしたね。改めて、タマキです」


「メイリスよ」



 事態が収まったことに、俺を含めその場にいたプレイヤーたちが安堵の表情を浮かべる。二人に視線を向けたその時、たまたまメイリスと名乗った彼女と目が合ったのだが、肩を竦めながら微笑んできたので、俺も苦笑いで反応しておいた。



 それから、タマキという少女はこれから自分のマイエリアに行くため再びメイリスにお礼を言って生産ギルドの奥の扉へと入って行った。タマキと別れた彼女も、ちょうどログアウトの時間だったのか、気付いた時には生産ギルドから姿が消えていた。



「なんか、いろいろあったけど、俺が名乗り出なくてよかったから良しとしておこう」



 面倒事に巻き込まれずに済んだことをメイリスに感謝しつつ、生産ギルドの受付カウンターに向かった。

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