第2話
「……ここは?」
そこは何もない真っ白な空間だった。どれくらいの広さなのか、ここがどこかさえもわからない虚無の空間が広がっている。
俺が呟いた言葉に返答するように、突如として女性の声が響き渡った。
「ようこそ【メイク・オア・アドベント・オンライン】の世界へ。ここは【メイク・オア・アドベント・オンライン】にログインすると最初にやってくる場所です」
「君は?」
「わたしは、この世界にやって来たプレイヤーが最初に設定する内容を案内するナビゲーターでございます。早速ですが、ご説明に移させていただきます」
彼女の説明によると、VRMMO【メイク・オア・アドベント・オンライン】は、まず二つの役割を選択する。
一つが職人となってあらゆるものを売り捌き、戦闘職が取ってきた素材を使いさらに新たなものを作り出していく生産職で、もう一つが生産職のプレイヤーが使う素材を集め、その素材を売ったお金で生産職の作った装備やアイテムなどを買いさらに強い敵と戦っていくという戦闘職だ。
端的に言えば、ものを作るかモンスターと戦うかのどちらかを選べということになる。
《必要事項を入力してください》
【名前】:
【職業】:生産職 / 戦闘職
ナビゲーターである彼女の説明を聞き終えると、目の前にウインドウが表示される。
そこには、ゲームで使用するキャラクターの名前入力と二つの職業のうちどちらかを選ばせる項目があった。
俺が以前プレイしていたVRMMO【マイン・オブ・ファンタジー・オンライン】こと“MOFO”では、自身の“しゅんすけ”という名前から取って【シューゾー】という名前で登録していた。
……なに? もっと熱くなるのかだって? 確かに同じ名前だが、そんなわけないだろう。
だが、今回は気持ちを新たにするという意味でも別の名前で登録した。
【名前】:スケゾー
【職業】:生産職
単純明快な名前にするため、しゅんすけの“すけ”を取って【スケゾー】と名付けてみた。
最後に何も問題ないことを確認し、決定ボタンを押す。すると「これで登録しますがよろしいですか?」という最終確認をしてきたので、“OK”ボタンを押して確定させた。
「これで登録は完了しましたが、なにか質問はございませんか?」
「そういえば、今の俺の見た目ってどうなってるんだ?」
「現実世界の姿と同じでございます」
「見た目を変えることってできないんだっけ?」
「残念ながら、それは不可能です」
仮想空間において現実との齟齬を少しでもなくすため、性別や容姿などの外見的特徴は変更できない仕様になっている。
旧世代のオンラインゲームでは、男性プレイヤーが女性キャラを使用して行う“ネカマプレイ”などというプレイスタイルがあり、一時期プレイヤーの間で物議を醸していたようだが、今どきのオンラインゲームはその心配がないので安心だ。
尤も、男性は女性に女性は男性になってみたいという願望は少なからずあるため、可能であればいつか実現して欲しいと個人的には思っている。
……言っておくが、俺にそっちの趣味はない。ないったらない。
性別や見た目が無理でも、せめて目の色や髪の色くらいは変えても問題ないんじゃないか? よし、これはあとで意見として報告してみよう。
「それでは【メイク・オア・アドベント・オンライン】をお楽しみくださいませ!」
ナビゲーターがそう言うと、突然周囲が白い視界に包まれていく。
そして、視界は次第に晴れていき、壮大な音楽と映像と共に先ほどの女性のものとは別の声でナレーションが始まった。
《悠久の時の流れの中で、幾多の神々が誕生した。
その中の一柱の神が一つの世界を創造する。
その名も【エルドグラン】
“恵みの大地”という意味を持つこの名には、豊かで平穏なる世界になるようにという創造神の意志が込められていた。
そして、四大元素である火・水・風・土の大精霊を生み出した創造神は、彼らにエルドグランの行く末を託し自ら創造した世界を旅立つ。
残された大精霊たちは、自身の力を使い大地・山・海・空、その他のありとあらゆる自然を生み出した。
それからしばらくして、生み出された自然から生命が誕生する。
幾年という時を経て生命は進化を遂げ、のちに人間が現れた。
人間は文明を築き、物を作り出す“メーカー”と狩りを行う“ハンター”という二つの役割を担って生活をするようになる。
今宵、新たに一人のメーカーがこのエルドグランに産声を上げる――》
「そして、それ以降そのメーカーの姿を見た者は、誰一人としていなかったのであった……完」
オープニングムービーが終わり、視界がクリアになっていく。徐々に見えてくる風景を視界に捉えながら、ありきたりなボケをかましてみた。
特に突っこまれることもなく、ただただ沈黙がその場を支配するかに思えたが、どうやら俺のボケを聞いた周囲のプレイヤーが怪訝な表情を浮かべたり、肩を揺らしながら笑いを堪えたりする者もいたようで少し安堵した。
滑らずに済んだものの、変な人物であることに変わりはなく、注目を集めてしまったようで少し居たたまれなくなった。
そんな中、空気を読んだかのように突如としてウインドウが出現する。
《ようこそ【メイク・オア・アドベント・オンライン】の世界へ。
このゲームでは、プレイヤーは生産職と戦闘職に別れそれぞれのプレイスタイルで自由に遊ぶことができます。
さっそくですが、チュートリアルを始めますか? YES / NO》
開始早々いきなりのチュートリアルだったが、いつまでもここにいたくなかったため、チュートリアルを開始するためYESを選択する。
《チュートリアル1 操作方法を覚えよう!
内容:基本操作を覚えるためまずは一定距離を歩いてみてください。
報酬:100マニー》
最初は基本的な操作方法から始めるようだ。こういうのは面倒とか言って飛ばしちゃう人も多いけど、俺個人としては好きだったりする。
どうやらこのゲームの通貨単位は“マニー”らしいな。安直だが、わかりやすくていいかもな……安直だけど。
兎にも角にも、まずは操作に慣れるべきだと判断した俺は、チュートリアルに従い行動を開始した。
《チュートリアル10 生産ギルドに登録しよう!
内容:生産ギルドに行き、ギルドメンバーになる。
報酬:300マニー、生産ギルドの証》
ここまで基本操作のチュートリアルばかりだったが、ここにきてようやくそれらしい指令が出された。
ちなみに、今までのチュートリアルは歩けだの走れだのジャンプしろだのといった感じのもので、本当に基本的な操作ばかりのものだった。
そのお陰で、今の俺の所持金は3000マニー弱ほどあるのでそのことについて特に文句があるわけではない。
「地図によれば生産ギルドはこっちだな。じゃあさっさと向かいますかね」
表示されたマップのアイコンに従って歩を進める。視界に広がる街並みの感想としては、ファンタジーというのが適当だろう。
石畳の敷かれた大通りにレンガ造りの建物が建ち並び、荷馬車を引く商人風の格好をしたNPCの姿も見受けられる。
現実で言えば、昔からあるヨーロッパの街並みとほとんど変わらない。強いて違いを挙げるならば、自動車が走っていないくらいだ。
「どうやらここが生産ギルドらしいな」
街並みに目を奪われながら歩いていると、目的地である生産ギルドへと到着する。ギルドの内装は、受付カウンターが数ヶ所あり奥の方で何人かのギルド職員が事務作業をしているようだ。
俺はギルド内部を一瞥したあと、一番奥のカウンターにいた女性NPCがいる受付に向かった。
「生産ギルドへようこそ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ギルドメンバーの新規登録がしたいんだけど」
「かしこまりました。では、以下の情報に誤りがないことをご確認ください」
彼女が言い終わると同時にウインドウが出現し、最初に登録したプレイヤー名のスケゾーと生産職であるという情報が表示されていた。
“以下の情報が正しければYESのボタンを押してください”という指示に従い、ボタンをタップする。
「ギルドメンバーの登録を確認しました。これであなたも正式な生産ギルドのメンバーとなります。こちらの生産ギルドの証がギルドメンバーの身分証明となりますので、決して無くさぬよう保管をお願いします」
女性が差し出してきたのは一枚のカードで、そこには以下のような内容が表記されていた。
【プレイヤー名】:スケゾー
【職業】:生産職
【ギルドランク】:木級(ウッド)
【クエストクリア回数】:0
【称号】:なし
注目すべき点は、やはりギルドランクと称号だろう。現状どんなランクが存在しているのか不明だが、少なくともレベルやアルファベット表記ではないところが個人的には気になった。
称号に関しては、これもランクと同様にその詳細は謎のベールに包まれているが、ゲームを進めていくうちに増えるものだと考えている。
そんなことを考えていると、新たにウインドウが出現し次のチュートリアルが表示された。
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