第二十二話〜第二十四話
第二十二話
(祠の確認だけはした。ここは諦めて片山さんに会いに行こう)
小次郎は水門守の片山さんに会いに向かう事にした。
(ここに居ても待つだけだしな。昼も過ぎたしコンビニに行って腹ごしらえしながら考えよう。)
手長神社を一旦出て、湖畔公園近くのコンビニで買い出しして、公園で休憩となった。
諏訪湖の花火大会で賑わう湖畔公園だが、今は観光で湖畔を回る観光バスが行き交っていた。
マップを見ながら呟く。
(このまま県道18号で湖畔を回って走れば目的の水門だな。暗くならないうちに着く。……でも、水門守の片山さんには会えるだろうか?)
小次郎は釜口水門に向かった。
小一時間で到着。
設備は新しい水門だった。
自転車を降りて、押しながら水門の南側に歩いていった。
南側には、水門の管理事務所等が有り、公園と言うか、イベント用のスペース等で整備された印象。
周辺を歩いて、お供えを探したが、どうやら南側には無さそうだったので、再び北側に歩いた。
ここに到着して、南側に行く時は気が付かなかったが、諏訪湖寄りの隅っこに、小さな花と一緒にぼた餅が供えられているのを見付けた。
(有った。これが片山さんのお供えかな?)
花の
(次にお供えに来るのはいつになるのだろう。片山さんを知る人を探してみる方が良さそうだ。管理事務所なら何か聞けるかも知れない。行ってみよう。)
小次郎は自転車を押して、南側に戻った。
南側に出て直ぐ右手に、大きめの建物が有る。
『長野県建設事務所 釜口水門管理事務所』と看板が掛けてある。
小次郎は迷わず中へ入ると、受付の人に尋ねた。
受付の人では何も分からない様子だったが、奥のデスクにいた人が寄ってきて話し掛けてくれた。
「茨城から旅をしている南沢と申します。何かご存知で有ればと思いまして……。」
「私はここの副所長を務める高山と言います。水門北側のお供えに関してお聞きしたいと耳にしました。」
「はい。隅にお供えされているぼた餅を見たので、いつお供えに来たのか。その方は片山さんという方ではないでしょうか?」
「南沢さん、よく片山さんをご存知で。確かに、お供えは片山さんが週に一度、お供えに来ます。この釜口水門が改築される以前から、お供えをしている方です。しかも、水門が作られた時期から片山さん親子がお供えに来ているそうです。」
その後、高山副所長さんから聞くところ、釜口水門は昭和11年に作られた、諏訪湖の
「片山さんの姿はたまにしか見ませんが、多分、毎週月曜の午前8時頃に来るのではと思います。私達の出勤時間にたまに顔を合わせますよ。」
(今日は土曜だから待たなきゃならないな……。)
「あ、あの。片山さんのお宅はご存知になりますか?」
「あぁ。そこまではちょっと分かりませんね。ただ、北側のお供えを終えると、手長神社にもお供えしに向かう様ですよ。手長神社はご存知ですか?」
「はい。ここに来る前に立ち寄りました。」
「社務所なら片山さんについて知ってるかも知れません。」
「分かりました。手長神社に引き返す事にします。色々お聞かせ頂きありがとうございました。」
管理事務所を出ると、手長神社に足を向けた。
(やっぱりあの祠がそうなんだ。でも片山さんという方は水門守と聞いているけど、祠守も兼ねているのかな?)
途中のコンビニで食料を調達して、手長神社に向かった。もう陽が傾いてきた。辺りは薄暗くなり始めていた。
第二十三話
手長神社に引き返してきた小次郎。
社務所を訪ねる。
たまたま
片山さんは、諏訪湖南に有る赤十字病院の近くにお住まいになっているという。
お供えには、毎週月曜日の午前9時頃来るそうだ。
時間から察するに、片山さんは、水門に行った後で、ここ手長神社にやって来る。移動には軽自動車を使っているらしい。
また、手長神社の祠のお供えは、猪対策で直ぐに引き上げてしまうそうだ。
それからもう一点、いい事を伺った。
ここから中央本線を渡っていくと、高島公園という広めの公園が有って、更にその南に行くと、文学の道公園が有る。
その道の西側の始めの地点に祠が有るらしい。しかも、お札を祀った祠で、お供えにぼた餅が供えられているそうだ。
(月曜までの間、時間があるし、この祠に行ってみるか。祠守の情報も近くで聞けるかも知れない。)
小次郎は中央本線を渡り、高島公園を過ぎ、文学の道公園に着いた。東西に長い散歩道と言った感じの小道。
迷わず西側の始まりに向かった。
(有った。祠だ。中にお札も祀られている。)
小さな皿には、小さなぼた餅が1つ供えられている。
(ここの祠は今まで見た中で、1番小さいな。石や木ではなくてアルミ製じゃん。扉もしっかり鍵付きだ。作られたのは最近か。……近所で聞き込みしなきゃだなぁ。)
結局小次郎は、この場所で自転車にもたれたり、座り込んでスマホをいじったりして夜を迎えた。
巡回パトロールの警察官に声を掛けられてしまった。
「もしもし?ここで何をしてるのかな?」
「あ、特に泊まる所も無いので、ここで夜明かししようと思って……。」
「はぁ?こんな所で夜明かしは困るな。身分を証明出来る物は有る?免許証とか保険証とか。」
小次郎はその警官に、免許証を提示した。
「お巡りさん。僕、茨城から旅をしてまして、今晩はここで明日朝まで過ごそうかと……。」
「茨城から⁉︎……まぁ何処から来たのかはさておき、ここで夜明かしはちょっと困るんだよ。何処か泊まる所は無いのかな?」
「はぁ。大抵は野宿でしたが、ここではダメですか?」
「南沢君。君はここでなければダメな理由でも有るのかな?あまり不審な行動が有るなら、交番まで来てもらう事になるが。」
「そ、それは困ります……。あ、あの、お巡りさん。このぼた餅をお供えしに来る方をご存知ないですか?ここに
「えぇ?それが知りたかったのかい?ここの祠にぼた餅をお供えする方は、松浦さん。……うーん、南沢君。君がここで夜明かししてもらうのは困るな。どうかな、交番の脇で夜明かしなら認めるよ。」
「逆にそれの方が助かります。その、松浦さんの話を聞かせて頂けませんか?」
「とにかく、ここはダメだ。交番の横に自転車を停めていいよ。松浦さんの話は交番で話そうか。」
パトロールの巡査長は、小次郎を連れて交番に移動した。
第二十四話
「松浦さんは、文学の道公園近くで、農家をしていた方で、公園が出来る前からあの祠にお供えをしていたらしいよ。毎日曜日だから、明日明けたら松浦さんがやって来る。」
「え〜〜〜、お巡りさん、松浦さんが来る時間は分かりますか?とにかく松浦さんに会わなきゃならないんです。」
「大抵、午前10時位に来るよ。巡回で見かけるのはいつもその頃だからね。」
「ありがとうございます。その頃にまたあの場所に行ってみます。」
小次郎は、交番の横に有る空き地で夜を明かした。
やはり、日の出と共に目覚めてしまい、出掛ける事にした。
ガラス越しに巡査長に頭を下げて御礼をすると、小次郎はそのままに文学の道公園に向かった。
近くの川で、歯磨きと顔を洗い、祠の側でおにぎりと缶コーヒーで朝食。
あと3時間も有るが、行き違いになるのを避けて、ずっと待つ事にした。
(松浦さん、農家をしていた方なんだ。片山さんの事は、知ってるのかな?同じ守師だし……。ぼた餅を頂いたら、またフラッシュバックの様な映像を見るのかな、それとも……お札が戻ってくれるとか……。でもフラッシュバックは何を言わんとしてるのか?自分の未来?……過去ではないと思うけど、なんか未来とも違う気がする。このままずっとお札が戻らないのかな。そういえば、地元の祠守の女性の名前を聞いてなかったっけ。)
自転車の横で、膝を抱えながら色々考えていた。
午前10時近くになると、巡回のお巡りさんが声を掛けてくれた。
「巡査長から聞きましたよ。松浦さんにはまだ会えてない様ですね。夕方の巡回で別の者が来るでしょう。それまでに会えるといいですね。では。」
お巡りさんが去ってまもなくの事、文学の道を老いた女性が歩いて来る。
腰が少し曲がって、押し車をサポートに、ゆっくり歩いている。
小次郎は横に近付き、
「松浦さんでしょうか?」その女性に訊いた。
「はい、松浦は私ですが、何か御用でも?」
松浦さんは、歩みを止めずに応じた。
「僕、南沢と言います。祠守を訪ねて、茨城から旅をしています。松浦さんのお供え前のぼた餅を分けてくださいませんか?」
松浦さんはハタと足を止める。
「今、祠守と言ったのかい?お供え前のぼた餅を……もしかして、南沢さんは呪いを受けてしまったんですね?」
そう言うと、またゆっくり歩き始めた。
「松浦さんは色々ご存知なんですね。少し話を聞かせて欲しいです。お願いします。」
「はいはい分かりましたよ、南沢さん。先ずはぼた餅をお分けしなければね。」
松浦さんは、祠の横に手押し車を置くと、その中から、お供えするぼた餅を取り出した。
「南沢さん。さぁお一つお取りください。」
「頂きます。」小次郎は松浦さんに正座で向かい、ぼた餅を頂いた。
全て餅米を使った
残り1つを祠の中にお供えする松浦さん。もう1つを松浦さん自身が食べ始めた。その横でぼた餅を平らげた小次郎。……またフラッシュバックがはじまった。
手術室の様だ。患者に向けたライトが
(誰かが亡くなったんだ。僕はそれを見ている。誰なのだろう。可哀想に、命が一つ、失われた。)
小次郎の頬には、無意識の内に、涙が流れていた。
松浦さんは、手押し車に腰掛けて、小次郎の手を握る。
「お札は戻らん様ですね。私のぼた餅までに幾つ食べました?」
「お札の事をご存知なんですね。あ、僕が守師の方々から頂いたぼた餅は松浦さんで5個目になります。」
「だがお札は戻らなかった。ぼた餅を食べて夢を見たでしょう。それはあなたに伝える為の夢。もう1人のあなたの話です。」
「だからぼた餅を食べる度に見たんですね。……でも、でも悲しい映像でした。僕は多分死ぬんでしょう、そう感じています。」
「少し話しましょうね、南沢さん。まぁ腰掛けて聞いてください。」松浦さんはそう言って、
小次郎を隣に座らせると話し始めた。
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