第30話 とある姉御のマロニー評

 皆さんこんばんは、安多馬洋児です。

 俺はいま、例の3人の魔王から救ったマサルくんとミコトさん、そして先頭を行く美人のお姉さんの4人でチームを組んでます。

 お姉さんはタリスと名乗りました。


 褐色かっしょくの色黒肌で銀色の髪、そして注意深く見てようやく気付く長い耳。

 そう、このお姉さんもエルフ……それもダークエルフと呼ばれるタイプのようです。

 マロニーさんと出会ってから、相手の耳を注視するクセが出来てしまいました。

 このお姉さんやマロニーさんみたいに、耳隠しの魔法かけてるかもしれないので。


 しかもこのタリスさん、極薄ピチピチの全身タイツみたいなのを着てて、非常に目のやり場に困ります。

 布の色が肌色なのもあって、パッと見ると一瞬スッポンポンに見えてしまいます。

 マサルくんとミコトさんも顔を赤くして、うつむき気味に歩いています。


 そしてこのお姉さん、こんな格好してるのに滅茶苦茶強い!

 城の中を進む俺たちの前に現れる兵士を、文字通りバッタバッタとぎ倒しながら進みます。

 腕のひと振りで発生する衝撃波で、向かう所敵なし。


 さっきなんか、その衝撃波で城の尖塔を爆発破壊させてましたよ。

 飛んできた大砲弾をり返してたりもしてたっけ。


 むしろ俺たち残り3人は、タリスさんがやり過ぎて兵士を殺さないように抑えてくれ、とマロニーさんに頼まれているぐらいです。

 そのマロニーさんの説明によると、彼女は忍者らしい。

 忍者ですってよ、奥さん。ニンジャニンジャ。

 本人いわく、アーマークラスがゼロになるレベルを突破してるから当たり前だそうですが、よく分かりません。



「北の尖塔、制圧完了。死傷者、敵味方ともに無し」



 タリスさんが手にトランシーバーを持って、マイクにそう話す。

 すぐに雑音混じりに「了解」とマロニーさんの声が聞こえた。

 トランシーバーのマイクをオフにすると、タリスさんは感心したように呟く。



「狂王の試練場から日本に異世界転移してきて、スマートフォンにもビックリしたけどこれも便利ねぇ」


「いや普通の人はトランシーバーこんなもん滅多に使わないですよ」


「へえ、勿体もったいない。これ使えばパーティーを二手に分けて、通信しながらタイミング合わせて魔物に同時攻撃とかできるのに」


「日本人は普通、魔物と戦闘になったりしません!」



 そんな俺とタリスさんの会話を聞いていて、マサルくんが声をかけてきた。

 やや遠慮がちに。



「安多馬くんツッコミのキレがますます鋭くなったんじゃない? 初めて会った時も凄かったけど」



 勇者マサルの精神攻撃!

 会心の一撃!

 安多馬洋児は死んでしまった!!



「あ、安多馬くん、突然倒れてどうしたんだい!?」


「何でもないです。私は貝になりたい……」



 マロニーさんの奇行に付き合ううちに、ツッコミのレベルだけが上がったのか俺は。

 全然嬉しくない……。

 倒れる俺の目から涙があふれて止まらなかった。



「ほらそこ! 勝手に倒れてサボってるんじゃないわよ、とっとと立ちなさい!」



 タリスさんのきびしい叱咤しったにも涙が溢れて止まらなかった。



*****



「ところで城を襲撃している人たちは、いったい何者なんですかね?」



 ふと浮かんだ疑問を口にした。

 この人たちが、マロニーさんの言ってた「持ち合わせの戦力」なんだろうけど。

 タリスさんが即答。



「アイツの会社と契約している勇者よ」


「は?」


「いま手が空いてる勇者全員に集合かけたってアイツ……マロニーは言ってたわね」


「本当に勇者を集めて、人材派遣の会社を作っていたのね……」



 タリスさんの言葉を聞いて、ミコトさんが呆然とした声音で呟いた。

 魔王の服を脱いで普通の服を着てるから可愛いよミコトさん可愛い。(あえて二重表現)

 持ってる武器はいかつい大きな鎌だけど。


 遠くで城壁が爆発。

 飛び散る破片と煙の中から、バリアを張った人影が現れたのが見えた。

 たじろいで後退する、たくさんの兵士らしき人影も。


 下を見ると城の中庭に、1人の人影が巨大なスライムを従えて歩いている。

 そのスライムの中には、裸のオッサンがいっぱい閉じ込められていた。

 ミコトさんがそれを目撃すると口走る。



「あ、あれはラノベでたまに出てくる、衣服だけを溶かすエロスライム!?」


「知っているのか、ミコト!?」


「い、いえ何でもないですマサル先輩……」



 彼氏のツッコミに、顔を赤くして俯くミコトさん。

 可愛い。

 そして綺麗な女の人の服をくのは需要あるけど、ムサいオッサンの武器防具を剥いても誰も喜ばないだろ。



「ちなみにタリスさんも、マロニーさんの企業ブラックに雇われているんですか?」


「私は別の組織の所属よ、勇者じゃない。今回だけのヘルプね、主にあんた達の身の安全を確保するための」



 敵の兵士が出てこない間にタリスさんに聞いてみた。

 そしたら返ってきたのは、予想外の答え。

 ていうか俺たちが聞かされていた話と違う!?



「え、マジですか!? くっそう、あのデブ専片目エルフめ、俺たちに言ってる事と全然違うじゃねえか!」


「怒るなら、心配されないぐらい強くなりなさい」



 ぐうの音も出ない正論に反論も出来ない。

 あのロックデーモやキリヤとの戦いを思い出す。

 俺は唇を噛みながら、タリスさんの言った通り強くなる事を改めて決意した。

 そんな俺を見て、ビックリするぐらい優しい声でタリスさんがつぶやく。



「なかなか良い顔するじゃない。さすがは召喚勇者」



*****



 タリスさんが倒して気絶させた兵士の手をしばって、数珠じゅず繋ぎにして連れて歩く。

 目的地は城の中庭。

 本当は玉座の間だったんだけど、予想以上に城の人間が多かったのでトランシーバーから変更の連絡がきた。



「しかしタリスさんってめちゃくちゃ強いですよね。マロニーさんより強そう」


「そうね、正面切って戦えるなら正直負ける気しないわ」



 何となく口にした事をあっさり肯定された。

 いやいやいや、あのマロニーさんよりも強い!?

 でもそれはタリスさんにとっては、あんまり重要な事じゃないらしい。



「いわゆる武力とか戦闘力って言われるものなら、確実に私の方が上よ。まぁマロニーの強さとか恐ろしさっていうのは、また別の種類のものだからね」


「そうなんですか?」



 俺の返事を聞いて、少し考え込むタリスさん。

 ちょっとだけしかつら

 美人さんがやるとカッコいいな。



「アイツの恐ろしさ、面倒さはね、目的を果たすためなら何をしてくるかわからない所よ」


「あー……」


「勝つためには手段を選ばないどころじゃない。のよ、アイツ」



 タリスさんはそこまで言って、銀髪を揺らしながら肩をすくめた。

 もちろん足はいっさい止めてない。



「確かに私はアイツよりも強いわよ? でも何の自慢にもならない。だってアイツにとってそれは、戦闘力の高いこまという意味でしかないもの」


「えー。マロニーさん、そんなに冷酷な性格には思えないけどな」



 タリスさんは足元の小石を何個か拾うと、前方に現れた兵士の頭にに投げつけて気絶させた。

 右手に持った小石を全部、一回で投げて全弾命中。

 しかも全て頭にかするように。



「何か勘違いしてるわね、キミ。私を駒として扱っても反発されないほど、アイツは普段マメに私たちの組織と付き合ってる。ある意味人情家って事よ」


「や、やっぱり世の中コネクションですか」



 そこまで言って、ふと疑問。

 ついでとばかりにタリスさんに聞いてみた。



「そいや、そこまでやるマロニーさんの目的って何だろ。ひどい目に遭う勇者の保護は聞いたけど、なんか建前タテマエっぽいんだよな」


「1番大きな目的は、私たちの組織からの借金を返済すること。アイツの弟を倒す罠を仕掛けるのに、もの凄い借金したみたいだから」


「えええ!?」


「あともう一つ、もっと大事な目的があるんだけど……」



 言いかけて、現れた兵士10人ばかりに飛びかかるタリスさん。

 相変わらずあっという間に制圧する、安定の強さだ。

 何人かは股間を蹴られて苦しそうだけど。

 俺は彼らに、心の中でそっと手を合わせておいた。


 倒れた兵士たちの中心で、顔だけこちらに向けてタリスさんは続きを話してくれる。



「そのもう一つは、今は話さないでおくわ。もっと仲良くなったら、本人から聞かせてくれると思うから」



 そう言ってタリスさんは謎めいた笑顔を浮かべた。

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