ああ、神のなんと完全なる御姿か
クル氏族の部落の中枢、クルと現地で呼ばれるハイエルフのみが集められていた。
彼等クルの教育が始まり早一ヶ月。
彼等の学習は一区切りを終えた。
そこで行われる事になったのは、彼等に憶えさせた新たな神との拝謁の儀であった。
十三人のクルの後ろには、最早姿を隠さずに人型不可知化偵察機が控えていた。
クル達は静かにその時を座し待っていた。
不意に現れるのは転移魔法によって開かれた次元の穴、転移門とも呼ばれるそれは、今回の登場の為に少々演出が施され、地面に対して平行に門を開き現れた。
転移門が開ききるとそこからは神の安全を確かめる為に先行したのだろう、三つの小さな玉が現れた。
三つの小さな玉はクル達の間を飛び回る。
ややもすると安全を確認をしたのだろうか、転移門近くに移動をしクルクルとその周りを回り始めた。
すると次の瞬間神のつま先が現れた。
小さな玉達は依然として転移門周囲を周回し続ける、脚が見え腰が現れ胸まで現れると、小さい玉達はその胸の周囲を回り始め不随した。
クル達は神の御尊顔が現れるまで悉にそれを見続けた。
クル達がこの一ヶ月の間に教え込まれた神が此処に降臨した。
「皆の者、私が此処にある事が出来るのは、皆の信仰あってのものだ、感謝する」
「何を仰いますかピオニア神、私達は当然の事をしたまでで御座います」
クル達の中で最も歳を経たものが答えを返す。
一言相づちを返し神は言葉を繋げる。
「まこと見事な信仰である。
さて、私がここに存在する理由は一つ、遍く祝福をこの大地へと届かさん為である。
しかし、我が力は信仰の力、まだこの地の者達の全てが我に信仰を捧げていない現状では、出来る事も限られてしまう。
そこで皆には更なる発展の為に信仰を集めて貰う」
「ははー、真有り難きお言葉承りました」
「うむ、良きに計らえ」
「ははー、ピオニア神よ我らが信仰をお受け取り下さい。
エフダンザーこれへ」
エフダンザーは膝立ちになりスルスルと代表のクフの元へと移動する。
「我らの信仰の証として、最も年若い娘、エフザンダーを差し上げます」
「あい解った、お前達の信仰確かに受け取った。
此処にアーデンの森のエルフの繁栄は約束された!」
大仰な身振りを交えピオニアは宣言した。
それを受けクル達の表情は恍惚としたものへとなり涙を流し喜んだ。
神は大地におり我らが繁栄をお約束為された。
後のエルフ達のいや、このゼイトゥンⅢの全ての物に取っての新たな神話の始まりが此処の綴られた。
「エフダンザーよ我が
頬を紅に染めエフダンザーは神の素への進んだ。
神は「あっ」っとか細く声を零すエフダンザーを抱き寄せると、自らの頭上に開いた転移門へと上り近づいていった。
「遍く祝福を大地に降らせる、お前達の信仰でもって更なる信仰を」
「はい、更なる信仰を」
クル達はさめざめと泣きながらその姿を一瞬たりとも逃さんとその眼を見開き見続けていた。
厳かな雰囲気の演出を、意識に作用する魔法を行使する事によって、再現され行われた拝謁の義は、神が帰られる事で幕を閉じた。
神がお帰りになると人型不可知化偵察機の内、エフダンザーに割り当てられていた個体が動き出す。
「では、皆の者、これより神の言いつけに従い、この森のエルフ達に新たなる信仰を授ける。
今までの体制とは替わる為に混乱が予想される、私達神の眷属たる我らが信仰を授けている間、皆にはこれに対応をして貰う」
「ははー」
声を合わせ同意の言葉を放ちそれに従うべく動き出すクフ達であった。
斯くしてアーデンの森に存在するエルフ達の各部落には、巨大な外部入力タイプの学習装置が埋設される事になった。
この設置は飽くまでもクフ達が指示を出したものとされていたのだが、明らかにエルフではない人がそれを設置する様を見て、各部落のエルフ達は彼等は一体何なのだと疑問を持った。
だが、これをクフ達は鎧袖一触に黙殺。
これは新たなる秩序の為に必要な神聖な物であると言い強制的に従えた。
クフを信仰の対象としていた彼等エルフの多くは疑問に思いながらもこれに従う。
従った者は徐々に教育が行き渡り、ピオニア神へと信仰心を抱く様になって行った。
これに疑問を呈し行動を起した者達がいた。
彼等の行動は、さらに増産された人型不可知化偵察機によって発見され、順次対処される事になった。
部落を離れ森を出て、この情報を持ち出そうとした者達等は捉えられ、学習装置の影響範囲に幽閉された。
そして、他のエルフ同様にピオニア神へと信仰を捧ぐ信徒へとなった。
時折エルフの部落に訪れる商人達は気付かなかった。
学習装置が地下に埋められ存在している事を。
クフ信仰では無く、ピオニア信仰に置き換わっている事も。
アーデンの森のエルフ達は待っている。
時折訪れるこの商人達が、真の信仰に自ら気付くその時を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます